三十七章
外にいるだけでぶっ倒れてしまいそうな気温と日照りの中、汗水垂らしながら大きい岩を運んでいるマッチョの方々。その光景は妙に暑苦しく頼もしい。頼もしいんだが……。
隣の様子をチラリと伺う。防壁付近へ近づくにつれて明らかに私怒ってます、と言わんばかりにズンズンと足を動かしている荒瀬さん。餓鬼か、という突っ込みは怖くて出来なかった。
まぁ、怒ってる理由は予想がつく。ここには防壁が作られていたはずだが、実際はマッチョ達が大きい岩を適当に置いていただけだった。防壁っていうより障害物って言った方がしっくり来る程、防壁の出来は酷かった。
「……随分とナチュラルな防壁だな」
荒瀬さんは苛立っているような声を上げながら大袈裟にため息をつき、目の前にある防壁、というよりは岩の塊にしか見えないそれを蹴り上げた。
瞬間、凄まじい轟音と風圧が巻き起こる。隣に居た俺の耳はキーンとしてるし、風圧で被っていたフードが取れてしまって砂埃が顔面に直撃してきた。超痛い、勘弁してくれ。
砂埃が消えた頃に細目で空を見上げると、自分の倍以上の大きく丸い岩が物理法則を嘲笑うように空へ飛んでいた。少し前の俺ならはぁぁ!? とか言ってそうな光景だが、荒瀬さんの滅茶苦茶な行動にはもう慣れてしまった。
残像を残して移動したりボーリング玉みたいな光球を上空に蹴り飛ばしたりしている所を見れば、荒瀬さんだししょうがないんじゃね? と言いたくなる気持ちもわかるだろう? うん。俺には突っ込みきれねぇもん。
「……俺はあのガチムチどもに指示してくるから、修斗は四角い防壁に展望台みたいな防壁でも作っといてくれ。クソッ。シロエアめ……発想が斜め上すぎんだろ」
荒瀬さんはブツブツ言いながら戦隊ヒーローみたいに側転したりバク転しながら作業員達の方へ行ってしまった。突っ込まないからな。絶対突っ込まないからなっ。
ギラギラとした日差しが眩しかったのでフードを被り直し、岩が積み上げられている防壁の様子を見に行く。遠目から見たらわからない乱雑さが、近づくほどはっきりと見えてくる。
取り敢えず大きい岩を下に積んでみたという思惑が一目見たらわかってしまうそれは、防壁というよりは子供が積み上げた積み木にしか見えなかった。いや、あの筋肉軍団は誰も防壁なんて作ったことないだろうからしょうがないとは思うけれども、せめて依頼した人は構造図でも渡しとけよ。
神本を見ながら他の防壁を見回ったが、どれも石を適当に積み上げた物か、大きい岩石をそのまま運んだ物しかなかった。これを防壁にして戦うのなんて御免被るね俺は。
保険のため神本から石塊を出す魔法を抜擢し、自分の頭の中で防壁の想像。素材はゴツゴツした岩。縦橫は三メートルずつで、間に槍を突き出せるような隙間を持たせた防壁を想像する。
「聖なる大地よ、私にその一部を分け与えたまえ。地塊」
そう唱えると自分の前の地面が盛り上がっていき、俺の想像した通りの防壁が創造された。素材は積んである岩
とほぼ変わらないし、ちゃんと前方を覗けるような隙間も出来ている。
あとは遠距離武器や魔法を使う人の展望台っぽい防壁も作らなきゃな。高さは五メートル。下部分は頑強に設定しておいて後ろ部分に階段を設置。攻撃する頂上には相手の飛び道具の盾になる壁を設置。
同じように詠唱をして防壁の隣にそれを想像する。地面が盛り上がり少し細長い防壁が音を立てながら創造され、上手くいったことに満足していたら遠くから活気のある声が聞こえてきた。
「わかったかてめぇら! 夕方までには仕上げろよ!」
「おぉぉおおぉぉ!!」
遠目に見えるのはやる気に満ち溢れているむさ苦しい男達と、台に乗っているのか一つ頭抜けている荒瀬さん。一体何をそそのかしたんだ。明らかに最初よりやる気が違うぞ。
筋肉の塊みたいな男たちが嬉しそうに持ち場に戻る姿と、荒瀬さんの隣にいる美人さんに疑問を感じながらも荒瀬さんの元に向かう。
「取り敢えずあんな防壁で大丈夫ですか?」
「お、割といい出来だな。防壁の基本構造は奴らに教えたし、修斗はあの防壁を……そうだな、百メートル感覚で街の周りに作ってくれると助かる。あの横長の防壁二つ。その間に細長い防壁の構造な」
「オッケーです。それと荒瀬さん、あの人達に何を吹き込んだんですか?」
すると荒瀬さんが隣の美人さんを指差し、俺が想像もしなかったことを口にした。
「夜には豪勢な食事に、コイツと一発ヤラせてやるって言っただけだ」
「……はぁ!? 一発って……この人と?」
荒瀬さんのぶっ飛んだ答えに美人さんを思わずまじまじと見つめてしまう。服の上からでもわかる大きい胸に、清楚な雰囲気が漂う白い肌、見た目からではとてもそういうお仕事に就いているとは思えない。服も地味な感じだし、肌も白いしって……えぇ!?
「修斗も一発ヤっとけば? こいつは性奴隷だから遠慮はいらんぞ?」
「……性奴隷?」
「先に言っとくが、修斗が思ってる性奴隷とはイメージが違うと思うぞ。性奴隷は他の奴隷に比べて厳密な審査があるから、村が貧乏で性奴隷に売り出されたとかいうテンプレは通用しないしな。端的に言うと、元の世界で言う風俗と同じようなもんだ」
「……はぁ。そうですか」
隣の美人さんに視線を向けると、その通りですと言って微笑を浮かべてきた。無理矢理性奴隷にさせられたってわけじゃないのか? とは言っても奴隷……か。というかこの地域は奴隷禁止と神本に書かれていた筈だが。
「確かこの地域は……」
「奴隷禁止か? あれはシロエアが提唱した法律で、俺は条件付きで特例受けてるから問題は無い」
シロさんってそんな法律作れるほど偉かったのかよ。とは言っても荒瀬さんだけ特例受けてたら批判がくると思うんだけど。
「まぁこの話はスコーピオンを退けてからしようぜ。それじゃあな修斗、防壁は頼んだぜ。俺はシロエアと作戦会議してくっから」
そう言って荒瀬さんは美人さんと一緒に街へ歩きだしていった。……その奴隷を解放しろなんて言うつもりはないが、何処か心にしこりが残った。友人が万引きしたのを見てしまったようなもどかしさ。
まぁ、今は防壁を作るのが先だ。街の周りに防壁を作るのは中々手間がかかる仕事だろうし、まずはそれを終わらせてから考えるとしよう。
――▽▽――
ギラギラと輝きを見せていた太陽は地平線に沈みかけ、橙色に防壁を染め始めていた。途中からどんどんと補充された作業員のおかげで防壁はほぼ出来上がった。所々隙間はあるが正直ここまで防壁が出来るとは思わなかった。
人数が多いってこともあると思うが、作業員達がやけにやる気満々だったから、っていうのも一因だろう。
(どっちのヤル気だかわからないね? 男って単純っ)
(……知るか)
服に付いた砂埃を叩きながら商店街を歩く。こんな事態なのに相変わらず活気のある商店街だ。そりゃあ活気が無いよりはマシかもしれないが、この事態を利用して儲ける商人には少しイラッとする。
そんなことを思いながらもちゃっかり色々と買い漁ってる自分。……これが持ちつ持たれつつの関係ってやつか。何だか悔しいなオイ。もう踏ん切りはついたけど。
三十万くらいは自由に使えるので薬やら道具やらを買いまくった。それにしても冒険者セットやら魔術師セットやら、福袋みたいな物を多く見るな。在庫処分でもしてるのか?
(シュウトは妙な所で感情的だよねー)
(悪かったですねー。どうせ俺は感情的な餓鬼ですー)
(痛いシュウト! ……なんて言うと思った? 全然痛くないよっ!?)
剣の柄を強く握って答えたら余裕の声が返ってきたので、今度は雑巾を絞るみたいに強く捻ったら剣は痛かったのか悲鳴を上げていた。どうやら柄の底辺りがツボらしい。
そうやってふざけながらも商店街を抜けると宿屋の前に到着した。今の時刻は……多分四時過ぎか。ここの時計は砂時計だから少し見づらいんだよなー。電波時計が愛しいぜ。
(もう! 子供じゃないんだからそういうのは止めてよね!? ……そういえばシュウト、昼間にいたお姉さんの胸凝視してたでしょ)
(してねーし)
(してたよね。服の上から見ても胸大きいなとか思ってたでしょ)
(……随分と的確だなオイ)
(ある程度なら心読めるからね。ぼんやりとだけど)
そんな衝撃のカミングアウトを聞かされながら宿屋に入って受付に鍵を貰い、部屋に戻って荷物を整理する。当然の如くインカが邪魔してきたが、布団でグルグル巻きにして阻止。
赤色の軟膏剤はいるよなー。皮膚が固くなる薬……こんな物買ったっけか。つーかどんな薬だよ。効果は三分と少し短めだけど。あと魔力回復剤。絶対使わないだろうけど一応持っておくか。
歪な瓶に入れられた薬を異次元袋の中に詰め込んでいたら、布団にくるまっている芋虫みたいなインカが後ろから転がってきた。かろうじて足で止めることに成功。
「お前はミルクより甘いな」
「全然、面白くない」
布団から顔だけ出している状態のインカは、そんなことを言いやがった。しかも真顔で。割とショックを受けたので少し罰を与えてやるっ!
まずは布団を縛っている光の糸を解除する。そして素早く布団の端っこを持って一気に引き上げるっ!
「……ふふふ。食らえインカ! 布団を一気に剥がすの術ー!」
するとインカはグルグルと布団と一緒に回って地面を転がっていった。これで少しは大人しくなるかと思いきや、インカは何か変な声をだしながら起き上がった。
「……うっぷ」
「あー、悪い。やりすぎた」
目を回しすぎて気持ち悪くなったのか口を抑えているインカに慌てて駆け寄る。流石に子供相手に熱くなりすぎたか。反省反省。
罪悪感を感じながらも異次元袋から黒い袋を出してインカの背中を摩る。何やらプルプルと震えているインカ。あー、吐きそうなのかこれは?
「……バーカ!」
「うおっ!?」
するとインカがケロッとした顔でいきなりこっちに振り返って、俺のデコに頭突きをかましてきた。まさかそんなことをしてくるとは思わなかったので、俺は驚いて後ろに倒れてしまった。
悪戯が成功したのが嬉しいのかはしゃいでるインカの声が聞こえる。しかし俺の頭はガンガンして割れるように痛い。し、しゃれにならない石頭だなコイツ。ガチで痛いぞコレ。
俺が頭を抑えて起き上がらないのを不思議に思ったのか、楽しそうなインカの声が次第に萎んでいく。どうやら罪悪感を感じているようだが、何故か話しかけては来ない。
道具の準備はもう整ったしあとは飯を食べるだけだから時間はある。このまま痛がってるフリを続けてみるかな。
(……僕をまだ研いでないと思うんだけど)
(防壁に着いたらやってやるよ)
拗ねたような声の剣にそう返して指の隙間からチラリとインカを見ると、こっちを見ながらわたわたしていた。一分くらいしたらこっちに枕を投げつけてきて、三分くらいたつと布団を顔に被せてきた。おい、俺は死んでないぞ。
そのまま真っ暗な視界と自分の吐息で暑苦しい中、五分くらいが過ぎた。もうそろそろ起き上がろうかな? 布団を思いっきり蹴飛ばして脅かしてやろうか、なんて目論んでいたらドタドタとした足音が聞こえてきた。
インカが駆け寄って来たんだろう、そう思いながら足音が自分の隣で止まった時に俺は動いた。素早く右腕を外に伸ばしてインカを布団の中に引きずり込み、自分は難なく脱出。
やけに暴れる力が強いインカを上から押さえつけ、布団の上から体をくすぐってやる。頭突きがしゃれにならないくらい痛かったので容赦はしないぜ!
「きゃあ! 何処触ってんの!」
布団の中からやけに甲高い声が聞こえてきた。思わずその声に手が止まる。
「……シュウト、何、やってる?」
後ろから聞こえたぎこちない発音の声に振り返ると、インカが枕を持ちながら小首を傾げて扉の前に立っていた。……あれー? じゃあこの布団の中身は一体誰が……?
「インカ……何をした?」
「シュウト起きないから、サラ姉ちゃん呼んできた」
……冷や汗が顔を伝うのがはっきりと嫌なほどにわかった。そして後ろから力強く手首を掴まれる。錆びたロボットみたいに動きにくい首で後ろへ振り向くと――
「シュウトっ!」
顔を真っ赤にしているこちらを睨んでいるサラがいた。その細い腕にしてはやけに力強く手首を握っていらっしゃる。思わず顔が引き攣った。
「ごめっ――!」
「シュウトの馬鹿ー!」
プロレスラーもびっくりする程の強烈なピンタが俺の頬に炸裂した。前に食らったここのウエイトレスのピンタよりも数倍痛かった。
暇な時に小説見返して推敲や文の付けたしや伏線の追加(ボソッをしてるので、俺の読んでる小説と違うっ!?なんて事態に陥ったらごめんなさい。
重要な場所を変更する場合は後書きで報告します。ごめんね(・ω<)テヘペロッ