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孤高の塵人  作者: dy冷凍
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三十六章

 ギルドまで長かった行列も段々と前の列が進んでいき、遂にギルドの目の前まで辿り着くことが出来た。横を通りすぎていく冒険者の表情はどれもプラス方向の表情をしていなかったので少し不安だ。


 

 ギルドの入口で受付娘にカードを渡すと何かスタンプのような物を押されてすぐに返される。押されたのは緊急収集に来た証のスタンプか何かかな?

 

 ギルド内に入ると鉄の鎧やら何かの皮衣を着た冒険者達がひしめき合っていた。室内はそれを考慮してるのか外に比べれば涼しかったが、肌が触れ合うほど見知らぬ人が近いのはあまり嬉しくはない。

 

 後ろから人が来なくなったのを堺にシロさんが受付台に登って一礼する。何やら手には拡声器のような物を持っていた。

 

 

「本日は突然のお呼び出し申し訳ございません。時間が無いので手短に説明しますと、スコーピオンの塔が謎の最上級魔法を受けて崩壊し、スコーピオンの大群が今日の夜に街へ攻めてくる可能性が高いことが発覚しました」

 

 

 ギルド中に響き渡るシロさんの声にざわつく冒険者達。本当だったのか、嘘じゃなかったなんて声が聞こえてくる。自分はそんなこと噂にも聞かなかったのでかなり驚いた。

 

 それにスコーピオンの塔が謎の最上級魔法で崩壊……オイ、あの貴族が打った魔法じゃないだろうな。いや、流石にそれはない……よな? 最上級魔法って打てる奴がトカゲに捕まるわけがない。

 

 

「それにより冒険者を全員緊急収集しました。何か質問のある人はいますか?」

 

 

 若干心の中にあるしこりに悩んでいる間に質問タイムとなったらしく、一人赤髪の女が手を上げた。シロさんが指名すると女は澄ました顔をしながら口を開く。

 

 

「数は?」

「不明です」

「勝率は?」

「あります」

 

 

 その返答に赤髪は訝しげに目を細めた。しかしシロさんは表情を崩さない。まるでスコーピオンの来襲など恐れていないかのような、爽やかな笑みを浮かべていた。

 

 

「何故言い切れる?」

「まだ未熟とは言えますが、魔術師達と組んでいる大勢の冒険者PT。それに加えて黒の旅人と私がいるんです。絶対に勝てると断言致しましょう」

 

 

 絶対の自信が伺えるシロさんの笑顔を見て安心でもしたのか、赤髪は口を閉ざした。それにしても随分と余裕が見えるなシロさんは。この街はあの塔に幾度か苦汁を舐めさせられてると神本に書いてあったし、街の人達も塔についての反応はあまり良くはなかった。

 

 しかしその街のギルド長がこうも自信たっぷりに放った一言は冒険者達に響いたらしく、不安そうな雰囲気は少し和らいだ。というかシロさんってそんなに強いのかな? ここは周りが砂漠という過酷な環境の中で一番大きい街で、都市部には劣るものの経済やら治安やらが安定してる中々良い街だ。

 

 その街のギルド長、シロさん。おぉ。こう思うと何だかより一層頼もしくなってきたぞ。

 

 

「以上で私からの話を終わります。夜に備えて準備の方は出来るだけ早く済ませるようお願い致します」

 

 

 そう言ってまた一礼して受付台から飛び降りるシロさん。それを見て一緒にいるPT達と話しながらぞろぞろと引いていく冒険者達。

 

 みんながPTと談話しながら帰る中、俺だけ一人寂しく帰るのを見兼ねたのかシロさんが声を掛けてきた。何か慰めの一言でもくれるんだろうか。それはそれで惨めだけどな!

 

 

「宿屋の食堂でアラセが待っているそうですよ。それに貴方の報酬もアラセに預けましたので」

「あー、了解です」

 

 

 慰めの一言じゃないだけマシか。そう無理矢理納得しながらも、俺が一人でいるのを不思議そうに見ている亜人達の目を掻い潜ってギルドを出た。

 

 

(……人の報酬を他人に預けるのは普通なの? 僕はちょっと理解出来ないんだけど)

(荒瀬さんなら別にいいよ。あの人がネコババなんてする気しないし)

 

 

 いつもと比べてやたら商売熱心な商人の声が行き交う街道を走る。もうスコーピオンの襲撃は知れ渡ってるらしくて逃げる人が多数と思いきや、この街から逃げる住民は少ない。シロさんの自信のある発言もあるんだろうが、あちこちから聞こえる黒の旅人という言葉。

 

 どうやら荒瀬さんはこの世界で信頼されているらしい。黒の英雄、混沌の策士。こんなわけのわからない言葉が後ろについているほどだ。

 

 

(へぇ。やけに信用してるんだね。知ってる? お金が絡むと人は変わるんだよ?)

(こんだけ有名なら俺の報酬なんてはした金だろうし、盗む理由がわからんわ。高級砥石でも買ってやるからネガティブ発言は控えろよ)

 

 

 宿屋が見えて来た頃に心の中でそう言うと、剣がピカピカと光り出して熱を帯びてきた。嬉しいんだろうか。

 

 

(別に高級砥石なんかいらないしっ)

(……えぇ? あ、あぁ。そうか)

 

 

 尻尾を嬉しそうに振っている犬に噛み付かれたような肩透かしを感じながらも、宿屋の食堂に入って黒くて怪しい人が座っている座席を探す。

 

 

「……修斗、こっちだ」

 

 

 相変わらず真っ黒なフード付きのコートを着た荒瀬さんが、何やら疲れている様子で座りながらこちらに手招きしている。いや、様子と言っても肩が少し下がってるくらいしか分からないけど。

 

 

「……随分と元気が無いですね」

 

 

 そう言いながら正面の席に座って置いてあった枝豆を一つ貰う。何か小言を言われたが気にしない方向で。

 

 

「いくら俺の気配は消せても広まった噂は消せない。おかげで俺の魔力がスッカラカンだ。修斗の魔力分けてくれ。キスで」

「気持ち悪っ! そもそも……あー、すみません」

「俺は敬語使われるよりそっちの方がいいんだが。敬語、ダメ、ゼッタイ!」

「……そういや荒瀬さん外で英雄やら策士やら、色んなこと言われてましたね。何かあったんですか?」

 

 

 そう言った直後に荒瀬さんは盛大にため息をついて勢い良く机に突っ伏した。皿に乗せられていた枝豆が跳ねるくらい強く。

 

 ……突っ込んだら気まずくなりそうだから言わないけど、絶対痛かったよな。何か痛みを堪えてるような声が聞こえるし。

 

 しかしその姿にはいつものふざけた様子は感じられず、何か弱々しい雰囲気が伺えた。何というか、荒瀬さんらしくない。いつもは中々強気な感じなのにな。こんな姿は初めて見た。

 

 

「五年前に亜人の王族達に和平交渉しに行ったら軽く煽られて、それで俺は顔真っ赤にして戦争に参加して無双したんだ。この世界では俺の最大の黒歴史。だから黒の旅人って名前にした」

「五年前……? 確か二年前にここへ飛ばされたって……」

「本当は十年前でした、テヘペロッ! 黒歴史を知られたくなかったってのが大半の理由だ」

 

 

 沈んでいた顔を上げて、舌をだしながらふざけた様子で答える荒瀬さん。まぁ今更そんな嘘で動揺しないけれども。別に自分に害があるわけでもないし。

 

 

「本当、成長したな修斗」

「……? どうかしました?」

「何でもない。何でも、ねぇよ」

 

 

 枝豆を皿に飛ばしながらもそう答える荒瀬さん。その姿は合格通知を見た受験生みたいに嬉しそうで――何処か疲れきっているように見えた。

 

 

「さて、今日呼んだのはシロエアから預かった報酬に、この世界の知識を渡すためだ。まずは報酬。全部で二百万ちょいか? ほら、受け取れ」

 

 

 何かを振り切るように顔を上げた荒瀬さんは、紐で纏められた札束をこっちに投げ渡してきた。札束を投げ渡されたことに戸惑いながらも難なく受け取って異次元袋にしまう。

 

 

「お次は防具だ。というか、今までそれで戦ってきたのか? 防具っつーか私服じゃん」

「お金が無かったんですよ……」

「な、なんだってー。そんな修斗にはこれをやろう」

 

 

 そう言いながら荒瀬さんが黒い異次元袋から取り出したのは、見覚えのある灰色の服だった。あぁ、確か暗殺者に素手で貫かれた灰色のローブに長ズボン。鉄に匹敵する防御力なんて自慢気に言ってたおっさんに返品してこようか。

 

 

「うーん。これを防具にするんだったら鉄の鎧とかの方が良いと思うんですけど」

「この服は複雑な魔方陣が編み込んであってな。結構便利な機能と鉄にも劣らない強度があるんだが、一度破れたら魔方陣が決壊してただの布切れになっちまう」

「つまり破けちゃったら意味が無いってわけですか。リスキーですね」

「しかしこれがあれば万事解決!」

 

 

 まるで通販の人みたいな声をあげながら荒瀬さんは立ち上がり、ポケットから灰色の何かを取り出した。ドライアイスのようにモクモクと煙を上げている変な物を荒瀬さんは灰色の服に押し付ける。

 

 

「何とこの灰色の服に衣服再生の精霊もセットで付けちゃいます!」

「あら素敵。でも、お高いんでしょう?」

「いいえ! 何とこの二つセットで驚き価格! 九千八百円! 九千八百円でご提供します!」

「これはすぐに買わなければいけませんね。電話番号はコチラから……」

 

 

 荒瀬さんの一人通販。どっから突っ込めばいいのか難儀している間に荒瀬さんは動きを止め、何処か満足したように席へ着いた。そして――

 

 

「ドヤッ!」

「ドヤッじゃねぇよ荒瀬さん! まず衣服再生の精霊って何だよっ!? 精霊はもう手一杯なんだよ!」

「ほほぅ? 修斗は一人の精霊を純粋に愛してるのか」

「違う! 断じて違う! まず剣に恋するって発想がおかしいだろうがっ! 着眼点がおかしいんだよっ!」

(シュウトヒドイナー……ボクナイチャウナー)

 

 

 明らかに棒読みの言葉が頭に流れ込んでくる。そして下半身に違和感。見ると剣から水が流れ落ちていた。おぃいぃぃ! 俺が漏らしたみたいに思われるじゃねぇか!

 

 

「あーあー。精霊が悲しんでるぞー? 修斗が女の子泣かせたー。あ、そこのウエイトレスさーん? この人がちょっと床を濡らして……」

「だあぁぁあぁあ!! 俺は漏らしてないから! コイツら本当に面倒くせぇぇぇ!!」

 

 

 ニヤニヤしている荒瀬さんにピカピカ光っている剣。ウエイトレスだけ引き笑いなのが最高に傷ついた。絶対裏でお漏らし野郎と罵倒されるんだ。うぅ……。

 

 

 ――▽▽――

 

 

「いつまで怒ってんだよ修斗」

「この腐れ外道! あぁ。俺はウエイトレスの中でお漏らし野郎と罵倒され続けるんだ……」

「誤解は解いただろうに。あのウエイトレスもやたらツッコミが五月蝿い少年としか思ってないさ」

「それはそれで嫌だわ!」

 

 

 ニヤニヤしている荒瀬さんに軽く肩パンしながらも、いつも以上に人通りが多い商店街を歩く。久しぶりに着た灰色のローブとズボンはやはり着心地が良かった。クリーニングにでも出したみたいにピカピカのパリパリなので少し落ち着かないけど、やっぱりこの服は清涼感があって良い。

 

 フードを整えながらも周りを見回すと、スコーピオンまみれの夜の為にいつでも美味しく食べれる保存食を携帯しよう! とか夜の襲撃に向けて備えを催促するような看板が所々に立てられている。

 

 今は丁度午後十二時くらいだろうか。冒険者達が緊急収集する場所は門の前。集合時間は午後六時。襲撃時間の予測は発表されなかったが、荒瀬さんが言うには午後八時とのことらしい。

 

 今街の周りでは手の空いてる人々がバリケードやらを急いで作っている。冒険者は集合時間までは自由に過ごして良いらしい。

 

 そこで日本人らしさでも出たのか段々と不安がつのってきたので、今はそのバリケードを作ってる場所に向かっている。いや、俺がそう思わなくても荒瀬さんは連れていくき満々だったらしいけどさ。悪魔か!

 

 

「何か商人達は凄い生き生きしてますね。冒険者達は皆不安そうにしてるのに」

「大きい戦闘は金になるからな。そりゃあ生き生きもするわ」

 

 

 大声を張り上げて客引きをしている商人を見て俺は少し苛々した。利益ばかり考えて街のことなんか何も考えていないんじゃないかと、そんな考えが過ぎた。

 

 

「何で街が危ないってのにあんな笑顔で商売出来るんですかね……」

「商人が逃げて物流が止まるよりはマシだろ。気持ちはわからんでもないが、そりゃ感情論すぎんぞ」

「……わかってますよ。でも釈然としないです」

「ククッ。まぁそういう考え方もいいんじゃないか。ほら、一本やるよ」

 

 

 いつの間に買ったのか赤いパウダーがかかった肉の串焼きをずいっと顔の前に差し出され、おずおずとそれを受け取る。すぐ横ににあった串焼き屋のおっちゃんにいっぱい食えよ! と声をかけられながらも少し辛そうな香りのする串焼きを頬張る。

 

 柔らかい鳥肉の食感の後に来るピリッとした辛さ。スパイシーな味付けの串焼きはこの地域では新鮮だったので、ペロリと食べきってしまった。口の中に残る辛さも水が飲みたくなるほどキツくない。

 

 

「さぁ、そろそろ出るぞ。修斗には馬車馬のように働いて貰うからな」

「串焼き分は働きますよ」

「串焼きの肉一個につき一時間。五個食ったから五時間分な」

「串焼きのレート高いっ!?」

 

 

 商店街を抜けた先にある鉄の門。そこから見える石壁のような物がバリケードかな? 今も屈強な男達がせっせと岩を運んでいる。

 

 この強い日差しの中であんな重労働してぶっ倒れたりしないだろうか。自分はこの灰色のローブの機能? で涼しいから良いけどさ。

更新遅れてしまい申し訳ないです。

しかし自分はこれから受験勉強しなきゃいけないため、更新速度はあまり期待しないで下さい(^q^)

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