外伝 頭が痛い異世界人
少し肌寒い夜。サラ・ベントスと修斗が何故か喧嘩しているところを目撃してニヤニヤしながらも、自分が予約した部屋に帰る。修斗は一体何をしたのかね。拾った子供を放ったらかしにでもしたのか?
妄想しながら扉を開けてまず飛び込んできたのは、狭い机の上に乱雑に置かれて角が丸まっている書類。少し前までは秘書代わりの奴隷がいたから良かったが、今度から自分で整理しなきゃいけなくなったのか。すっかり忘れてたな。
今度は可愛い猫耳でも連れて来るか。ペロペロ、なんて考えながら椅子に座って書類を片ずけていた頃に扉がノックされ、返事をすると黄色い狐耳が印象的な亜人奴隷が入って来た。
「報告します。スコーピオンの塔は最上級並みの威力を持った雷魔法を受けて根元の部分が半壊。今はスコーピオン達が総出で修理らしきことをしています。目測ですが明日の夜には修理が終わり、こちらに攻めてくる可能性が高いかと思います。以上が私の報告です」
「うい。ご苦労さん」
女の割に戦闘面で中々使える亜人奴隷にそう言いながらも整理された机に突っ伏す。何かとんでもない量の魔力の名残があったから調べさせたらこれだよ。おい誰だ最上級魔法なんてぶっぱなした奴は、先生怒らないから出てきなさい。
修斗の顔が頭に過ぎるがあいつはそこまで馬鹿じゃないだろうし、そもそも最上級魔法なんて打てないだろう。修斗の魔法は世界渡りで生まれたスキルで発動してるから大した威力出せないだろうしな。
確かスキルの名前は……空想の魔術師に呪われし不死の身体。修斗を見ると色々とチートだが弱点は中々に多い。
空想の魔術師は自分の想像した物を無理矢理魔術に変換して現象させる能力だが、魔力燃費が悪いし威力も半分に落ちる。
呪われし不死の身体はほぼ不死身の身体を持つことになるが、その時の魔力消費が半端じゃない。確か上級魔法十発分だっけ。それならただのハイリスクハイリターンなスキルだが、修斗は何故か魔力が無尽蔵にあるのでローリスクハイリターンになっている。
俺のスキルで見れたのはこの二つだけだったんだが、神が何かしたのか修斗は魔力がほぼ無限にある。そのおかげでこの二つのスキルがチートになってしまったわけだ。倒す方法ならいくらでもあるが、あまり敵には回したくない。
話が逸れた。今はスコーピオンの塔についてだ。亜人奴隷の報告が合ってれば、誰かが最上級魔法を塔に向かってぶっぱなして塔は下部分が半壊。スコーピオン達はその借りを返しに明日の夜辺りに街へ攻めてくる。
「流石のアラセさんでもこの事態には頭を悩ませているようですね」
「そりゃあ悩むっての。キンスピとクイスピが攻め込んできたらこんなちっぽけな街は一日で荒野になっちまうぞ」
「……キンスピとは何ですかね?」
俺の前に報告書を置きながら、黄色い狐のような耳を垂らして首を傾げる亜人奴隷。その仕草に病んでいた心が少し軽くなった気がした。やはり萌えは大切だな。一日一萌がベストッ!
「キングスコーピオンの名前の略称だ。クイスピも同じ」
「あぁ、そういうことですか」
納得したらしい亜人奴隷に書類を渡して夜に攻めてくるスコーピオン達への対抗策を考える。まずは冒険者を緊急収集。作戦は防壁を積み上げてスコーピオンを迎え撃つ……まぁ無難だな。
「あの……」
「何だ。ちゃちゃっと書類書いて自宅に帰れ。あ、ついでにボードゲームが強い奴隷を宿に呼んでくれ。地図渡すから」
「これ……なんですか?」
「あん?」
渡された書類を見ると奴隷売買の書類。別に間違いはない。その書類を何故か震えている狐耳に返す。
「間違えて渡しちゃった、テヘペロ! なんてことはないから安心しろ。この書類は奴隷売買の書類であってるからな」
「……えっと、何でもしますのであの場所だけは止めて下さると……嬉しいです。何でもしますっ」
肩を震わせながら涙目でこちらに縋り付いてくる亜人奴隷を見て思わず苛めたくなるが、本気で泣かれたら後処理が困るので正直に話しておく。
「おい、取り敢えず廃棄所じゃないから安心しろ。はい深呼吸ー。吸ってー吐いてー」
「は、はい」
深呼吸しても何処かそわそわして尻尾を逆立て、狐耳をピンと立てている亜人奴隷。……俺は今までとんでもない逸材を腐らせていたみたいだ。フワフワしてそうな狐耳を掴みたくなるが自重する。
「お前を売る場所はギルドだ」
「……えぇ!?」
「これで安心しただろ? ならとっとと帰れ」
「でも……」
「信用出来ないってか? ――おいシロエア。扉の前で聞き耳立ててるのはバレバレだからさっさと入ってこい」
困惑気味の亜人奴隷を放っておいて扉を見ると、悪戯がバレた子供みたいな顔をしているシロエアと背後の亜人二人が入ってきた。ちゃっかりしてやがるぜ、全く。
「いやはや、バレてしまいましたか。最近はデスクワークばかりでしたし、少し鈍ってしまいましたかね?」
「後ろの二人の気配でバレバレなんだよ。それに盗み聞きしておいてよくそんな爽やかな笑顔が出るな。一片ぶん殴ってやろうか? おぉん?」
「貴方に殴られたら私は死んじゃいますよ」
「はっ、どうだかな」
そう言いながらも若干目が虚ろになっていた亜人奴隷の首に衝撃を与えて気絶させる。ショックを受けて意思が弱くなっていたのか、亜人奴隷は神補正に掛かりかけていた。おぉ怖い怖い。
シロエアの後ろにいた二人が気絶した亜人の肩を背負って部屋から運び出していく。随分と手際がよろしいことで。あの二人は誘拐でも謹んでいらっしゃったのかね
「貴方はいつも人を軽く気絶させますね。女性にはもう少し優しくしないと……」
「うっせぇ。それより兎耳はどうした? 今日は兎耳辺りが来ると思って興奮してたのに」
「貴方が冗談でもそういう言動を控えない限り私が来ますよ」
「ウホッ」
どうでも良い言葉を交わしながらもこの辺りの地図を机に広げて向かい合う。勝手にベッドへ座ったシロエアは相変わらず仏のような笑みを浮かべている。そのままダーク♂シロエアにはならないでくれよ。
「”また”アラセは奴隷を解放したんですか?」
「使えないから”また”シロエアにやるよ。キンスピなんて略称冒険者なら常識単語。常識が伴っていない奴を面倒見れるほど暇じゃないんでね」
「……そうですか。これ、彼女達からの手紙です」
どっさりとゴワゴワした紙が入ってる籠をシロエアに渡される。果てしなく邪魔くさい。取り敢えず椅子の下に置いておく。
「たまにはギルドでゆっくりしたらどうですか? 歓迎されると思いますよ?」
「明日スコーピオンの大群が攻めて来るってのに随分と悠長だな。少し前に報告はしたよな?」
「貴方と私が力を合わせれば楽勝ですよ。それに冒険者の方も大勢いますしね」
「バカなの? 死ぬの?」
眩しすぎる笑顔を見せながらガッツポーズをしているシロエア。何処からそんな自信が沸いてくるんだ。いくら何でも甘くみすぎだろ、スコーピオンに乗じて他の魔物も攻めてくるかもしれないのによ。
「でもアラセなら何とかしてしまいそうですしねぇ。こんな大事にこれほど落ち着いていられるのはアラセのおかげです」
「俺を何だと思ってやがる」
「戦争の前線では一騎当千の活躍をし、後線では奇策で敵を錯乱して勝利に導いた英雄、ですかね?」
こいつがそんな話題出してくるとは珍しい。シロエアは戦争の話題にはあまり良い反応示さないからな。平和が一番なんて志を掲げてるし。
つーかそれは最大の黒歴史だから止めてくれ。割とマジで。本気で穴に入りたくなるわ。
「様を付けやがれ真っ白野郎」
「仰せのままに、アラセ様!」
「面倒くさい野郎だなお前は。取り敢えず今は徹夜で防壁作る依頼でもして来い。間に合いそうになかったら俺にも宛があるからやっておく」
「流石アラセ様!」
「うぜぇ」
酒でも飲んだのか悪ノリが激しいシロエアを部屋から追い出し、片手でペンを回しながら作戦を考える。つっても意見交換しないと話にならないのでボードゲームが強い奴隷数人を待つ。
「あ、どうもアラセさん」
「おう、来たか。女の方はどうした?」
「ちょっと遅れるみたいです」
先に来た地味な人間奴隷に地図を見せ、何か作戦は無いか考えさせる。勿論スコーピオンが攻めてくるから作戦を考えろとは言わない。素人だったらお遊び感覚でやって貰った方が良い案が出るもんだしな。
「取り敢えず防壁作ったらその後お前はどうする?」
「そうですねー。水責めなんかどうでしょ?」
「水は何とかなるが砂漠だし効果は薄いだろボケナスビィ。他は?」
「うーん。落とし穴を掘る……敵はスコーピオンと仮定してるしなぁ。火を放ったらどうでしょう?」
「もし突破されたら逃げ道無くなってアウトだがな。それに馬鹿デカいキンスピとクイスピもいるんだからな?」
「そしたら地下に穴を掘っておけばいいんじゃない?」
途中で入室してきた女も交えて適当に意見交換。一時間ほど話した後金を渡して帰らせる。防壁は修斗に手伝わせるとして……長期戦になったとしても食料はオッケー。陣形はどうすっかなぁ。
頭が痛くなってきた。こういう時に励ましてくれるようなメイドが欲しい。金髪ポニー、ってそんな話はいいんだよ。
「グリーンだよー! って言ってる場合じゃねぇなこりゃ」
でも足元にある手紙を開いちゃう! 悔しい! 的なことをしている間に作戦は完成。厄介なのはキンスピとクイスピか。確か全長十メートルを越す巨体に猛毒を尻尾から噴射するんだっけか。
修斗が折角波に乗ってきたのにとんでもないビッグウェーブが来てしまったが、果たしてどうなることやら。ふんわりいい匂いがする手紙を見ながらそう思った。
一応書いておきますが、雷の最上級魔法はあの糞生意気な貴族が打ったゴッドうんたらかんたらって魔法です。何でそんな奴がリザードマン如きに捕らえられていたのかは裏設定でーす。