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孤高の塵人  作者: dy冷凍
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三十五章

 馬鹿デカいカーペットと大量の紐と紙袋を買って宿屋に帰ったら、安堵感か何かわからんがドッと疲れが押し寄せてきた。流石に一日寝なかったのは無茶しすぎたか、と思いつつ鉛のような体を引きずって食堂に向かう。というか精神的には半分貴族のせいだけどなっ!


 そういやあの叔父さんがくれた銀の塊何なんだろうか、なんて考えは肉と酒の入り交じった匂いに打ち砕かれた。銀の塊のことなど頭の隅に吹っ飛んでしまい、何を食べようか妄想が膨らんでいく。



「おいーっす、お手伝い!」



 席がほぼ埋まっている賑やかな食堂で金のアクセサリーをジャラジャラと響かせ、こちらに手を振っている金髪の奴がいた。よく見ると砂漠で出会った四人組PTのウザイ奴だった。


 何だか面倒くさそうだったので知らないフリをして適当に空の酒樽を椅子にし、食器を運んでいるウエイトレスに手招きする。



「少々お待ち下さい!」

「あの子キャワイイよなぁー! 俺のタイプど真ん中だぜー!」



 金髪は千鳥足で空の酒樽を持ってきて隣に居座り、何故か彼のタイプを聞かされながらも親しげに肩を組まされる。うぜぇ。果てしなくうぜぇ。世界一を狙えるくらいうぜぇ。



「……で、何の用だ金髪」

「金髪じゃねぇし! 俺にはキース・ワリルレンって言う名前があるんですー」

「俺もお手伝いじゃなくて修斗っていう名前が……」

「お前シュウトっていうのかー! 俺キース! よろしくな!」



 肩にかかっている手を振り払いながらそう返したら、何が面白いのかゲラゲラと笑いながら言葉を遮って肩を叩いてくる金髪、キース。右手にジョッキらしき物があるし酒でも飲んでいたのかコイツは。周りも賑やかだから悪目立ちはしないだろうが、凄い絡み酒だなコイツ。正直一緒に居たくない、不幸が起きそうだし。



「……確か他の人もいたよな? そいつらはどうしたんだ?」

「ふぁいもの」

「食ってから喋れ。買い物か?」



 リザードマンのステーキとかいう俺には少し食いづらそうな物をキースは咀嚼そしゃくし、せわしなく飲み込んでこちらに勢い良く身を乗り出して来る。



「聞いてくれよー! ミーサとラーヌが俺と買い物するの恥ずかしいとか言ってさ! ジンは武器見て来るって言ったから着いていこうと思ったらさー、……アレ! 静かに観たいとか言いやがってよー! それで早めに宿屋に帰って可愛い子探そうと思ったらやたら怖い姉ちゃんに注意されるしさ! 皆酷くねー!?」

「あぁ、そうだな」



 早口すぎて途中から聞き取れなかったので、半分聞くのを諦めて適当に相槌を打っておく。というかあいつらも同じ宿取ってたんだ。まぁこの街の大きい宿屋は二つしかないしねぇ。



「で、結局お前は仲間外れにされて一人寂しく食事か?」

「ふふーん? 今はシュウトが居るじゃん?」

「いつから俺らは知り合いになったんだ?」

「酷っ! 俺達もう知り合いを通り越して友達だろー!?」



 酔いでも回ってきたのか下らないことを言っているキースを置いてウエイトレスに注文を頼む。彩りの良いサラダにミウとかいう牛っぽい動物……じゃなくて魔物のステーキを頼み、横からもたれ掛かってくるキースを振り払う。


 あまりにもキースが鬱陶しかったので度数の高そうな酒を頼んでキースにガンガン飲ませたら、料理が来る頃には何とも幸せそうな顔で涎を垂らしながら寝ていた。悪酔いする奴は酔い潰させるのが一番だ。


 面倒くさい絡み酒が居なくなったことに若干喜びながらも運ばれてきた分厚い肉をナイフで切る。引き締まった赤身に程よい肉汁。横に添えてある野菜はその肉汁を吸い取っていく。


その肉汁に浸っていた野菜と一緒に肉を一口。飲み込んだ後に冷たい水を飲んで口を潤す。その水も自分が作った味気ない水とは段違い、体育や部活の後に飲む水に匹敵するほどだ。



「……うめぇ」



 一人寂しく食べたステーキよりは断然美味かった。その後にも適当に料理を追加して腹一杯になったので、この枝豆達をニュルンしたら部屋に帰ろうかと考えていたら前から見覚えのある男が一人。


 目元が隠れるほど伸ばした紫髪と仏頂面が特徴の冒険者、名前はジンかな? 間違ってるかもしれないけど。彼は机に突っ伏しているキースを仏頂面で見た後にため息をつき、こちらに歩み寄ってくる。



「……どうやらキースが世話になったみたいだな。すまない」

「あまり世話はしたくないですけどねー。結構な絡み酒ですし」

「……気持ちはわかるぞ。いつもベタつかれるこっちの身にもなって欲しいものだ……。戦闘では何回も力より連携が一番だ、と言ってくるし困ったものだ」



 天を仰ぐように上を見上げながらジンは愚痴りだした。まぁPT組んだばっかだと不満が溜まるもんなのかね。自分はPTなんて組んでないんでわからないですけどねー。



「まぁ、キースは他の人に任せたらどうですかね」

「……ラーヌはそもそもキースを相手にもしないだろう。戦闘中でさえ稀に喧嘩を始めるほど仲が悪いからな。かと言ってミーサは行動が自由すぎて意味がない……」



 哀愁漂う姿で淡々と愚痴を吐く姿を見て「そろそろ部屋に帰りたいんですけど」なんて言い出せるほど俺は図太くなかったので、枝豆と酒を勧めながら愚痴を吐かせてやることにした。こういう人は色々ストレスや悩みを溜め込みそうだし、アグネスを調べるのは明日で大丈夫だしな。



「まぁ、取り敢えず今日は飲んで下さいよ」

「おっと。すまないな」



 キースが残した酒をグラスに注いでジンに渡すと、動かないと思っていた仏頂面が少しだけ綻んでいた。ほんの少しだけだが。



 ――▽▽――



 ジンの愚痴を聞いてあれこれ解決案的なものを交えながら語り合い、最後には酔い潰れてしまったジンとまだ寝ているキースをどうしようか迷っていたら後ろから声をかけられた。



「どうも、お手伝いさん。この人達はミーサが連れていくのでお手伝いしなくて良いですよー?」

「あ、それはどうもです」



 クリーム色の肩にかかるほど長い髪を後ろに流しているミーサという彼女はそう言うと、キースとジンを床に寝かせてポケットから紙を取り出して詠唱した。



「清らかなる水よー。水の弾となりー、私の手に集まってー。水球ウォーターボール!」



 随分と間延びした声でミーサがそう唱えると彼女の手の平に水が回転しながら集まっていき、やがて人の頭くらいの水球となる。何をやろうとしてるのか分かったので取り敢えずタオルと暖かい風をすぐに出せるようにしておく。



「てーい」

「冷たっ!」

「うおっ!」



 案の定手にあった水球を倒れているミーサは二人に投げつけた。何か寝起きドッキリにでも立ち会ってる感覚で面白かったが、いい加減疲れているので部屋に帰りたかった。片付けは任せて俺はもう帰ろう。



「タオル渡しときますね。キースにでも拭かせて下さい」

「うん。わかったー。ありがと、お手伝いさんっ」

「ちょっ! 俺いきなり水かけられたのに俺が拭くのかよっ!」

「さっさと拭け」

「ジンがやけに怖いんだけど!?」



 そんなやり取りを背に部屋に戻ろうと受付に鍵を貰いに行くといつも深夜に受付をしている男では無く、代わりに何やら怒っていますオーラを纏わせているサラが待ち構えていた。



「シュウト! 何処行ってたの! インカちゃん放ったらかしにして!」

「え? お金渡しといたけど?」



 インカのことで何やら怒っているらしいサラ。インカには一週間分のメシ代をあげたと思うんだが……。



「お金渡しとけばいいってもんじゃないでしょ! まだ子供なんだから愛情を持って接してあげなきゃ駄目! もう!」

「……しょうがないだろ。こっちは帰る暇も無く魔物狩ってきたんだよ」



 やけに怒り気味のサラにインカのことで出会い頭説教され、自分も少しは悪かったと思いながらもつい頭にきて言い返してしまった。



「それでも駄目っ! インカちゃん寂しくないようにしてるけど、絶対寂しくしてるからっ。一緒に居れる時は絶対一緒に居なきゃ駄目なのっ!」

「……うっせーよ。まぁ、いいよなお前は。インカに好かれててよ」



 サラの半ば無茶な要求に苛つきながらそんな言葉を返す。一日帰らなかっただけで何でここまで言われなきゃいけないんだよ。そして腹の中に溜まっていた不満がつい飛び出してしまう。



「お前には笑顔で抱きついて、俺には笑顔で蹴りを入れてくる。風呂は入らない、俺の作業は邪魔をする。寝る時は大人しく寝ない。どうせインカに何か言われたからお前は俺に言ってきたんだろ?」

「違うもん! インカちゃん何も言ってない!」

「わかったわかった。もういいから鍵貸してくれ。疲れてるんだよ」

「……疲れてる割には女の人と楽しそうに喋ってたよね。もう知らない! シュウトの馬鹿ぁ!」



 サラはそう叫んで自分の顔面に鍵を投げつけ、受付を走って出ていってしまった。あんなにサラはヒステリックだったか? ……サラも神に洗脳されたのか? いや、それとも本心なのか? わからない。俺にはわからない。確かめる術は、ない。


 悶々と考えが巡る中で痛みが消えていく鼻柱を摩りながら落ちている鍵を拾い、周りを見ると女を泣かした駄目男とでも言いたげな視線が突き刺さってくる。


 苛々しながらもそんな視線を掻い潜って部屋に戻る。ベッドには珍しく布団を被って寝ているインカ。置きっぱなしのちゃぶ台には俺のくたびれた財布が置いてある。


 中身を見ると多少の小銭が入っているだけだった。おい、十万は入れてたけど思いっきり使ってるじゃねぇか。てっきり遠慮して使ってないと思ってたけど。


 ベッドの膨らみにため息をつきながらも床にだだっ広いシートを適当に敷いて、この二日で獲得した魔物の素材が入った異次元袋を覗く。まるでゴミ屋敷みたいに出鱈目に積まれた素材を見て苦笑いしながらもシートへ適当に出す。サソリの尻尾に鋏、毒袋、痺れ袋。リザードマンの皮に頭など色々出てくる。


 このままギルドに持って行ってもどうせ苦い顔をされるので尻尾や鋏などは十個ずつ紐で縛り、破れやすい毒袋や臓器などは余裕を持たせて五個ずつ紙袋へ入れる。リザードマンの皮も縛って頭は袋へ。


 今は丁度深夜一時くらいか。一体何時に終わるのやら。



 ――▽▽――



 途中で仮眠を取りながらも黙々と作業を続け、インカが起き出す朝七時には作業を終えることが出来た。体液だらけのカーペットをしまって軽く欠伸。ざっと四時間かかった。うへぇ。


 昨日サラに怒られたせいかインカを起こすのを少し躊躇ためらったが、それもすぐに振り切って布団を被ってるインカを起こす。



「おい、インカ起きろ。朝だぞ」

「起きてる。あっち行って」

「……そうかよ。あー……悪かったな。最近ここに居れなくてよ。今日はお土産買ってくるからな。何が良い?」

「いらない」

「……行ってくる」



 いつもより酷い態度は怒ってるからなのか、時間が経てば機嫌治るかなと思いつつ整理した異次元袋を持って部屋を出る。鍵は絶対に返さなきゃいけないので、受付で絶対サラに会うことになるから気まずかったがポーカーフェイスで乗り切った。


 上手く出来たことに安堵の息を吐きながら宿を出て、今日も日照りが強すぎる太陽を手で遮りながら今日の計画を考える。……まずはギルドで素材を出来るだけ換金して防具とパワーバイクでも買いたいな。それと旅の道具も買っときゃなきゃ不味いよなぁ。


 取り敢えず今はお金が無一文に近いので、ギルドに行って前の分の報酬を貰って素材を換金するべきだろう。それでパワーバイクと防具の値段を相談しながら旅の必需品も買って、その後にアグネスを調べる、こんなとこか。


 それでギルドに行ったはいいが何故かギルドの周りに大規模な人だかりが出来ていた。人混みの中じゃ何も見えないので民家をよじ登ってギルドに目を向ける。


 どうやらあの人だかりはギルドに入るための順番待ちらしい。並んでいる理由はギルドの入口に貼られている大きな紙に赤い字で大きく書かれていた。



 冒険者緊急収集! 冒険者の方は速やかにギルドへ入室すること! 入室しなかった冒険者はギルドカードを剥奪するのでご注意を!


 緊急収集? 何かあったのか? 取り敢えずここに居てもしょうがないので、民家の屋根から飛び降りて最後尾らしき場所に並ぶ。


 ほとんどの冒険者達の顔が不安気だったことから、こういう緊急収集とやらは皆初めてらしい。一体何があったんだろうか?

最近迷走してきた気がするが、突っ走ってから手直しすれば良いよね☆なんて脳筋思考でーす。

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