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孤高の塵人  作者: dy冷凍
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三十二章

 あの冒険者PTと別れた後自分は街に戻って朝食を食べ、剣や防具(といってもただの衣類だが)を点検した後にお昼用の弁当を買おうと巷で人気なパン屋に初めて入った。


 やはり朝にパンを買う人は多いのか少し店内は賑わっていた。トレーとトングを持って食べたい物を取って会計に持っていくシステムで、食べ物の入った白い箱からジューシーサンドイッチとやらを取り出した。



「……カッチカチだな」



 トングでサンドイッチを取り出したと思ったら何故か三角形の塊が白い煙を上げていた。いや、何で冷凍したし。というか物を冷凍出来る箱なんかあるのか。なら何で水に困ってるのか理解に苦しむんだが。


 そんな疑問を抱きながらも適当にカチカチのサンドイッチ達をトレイに置いて会計に進む。バンダナをしたパッとしない顔のお兄さんにトレイを渡して千円札を渡す。



「えーっと、冒険者の方ですよね。PTに魔術師の方がいたら解凍用の魔道具を貸し出ししてるんですけれども、魔道具使える方はいますか?」

「あ、いますよ」

「そうですか。では魔道具も入れて置きますね。一回しか使えないのでそれだけ気を付けて下さいね」



 サンドイッチと一緒に赤い紙、魔道具も紙袋に入れて貰いそれを受け取って店を出た。最近サービスに魔道具をくれる店は結構増えている。というか魔道具が一般に流通し始めたって言った方がいいかもしれない。


 魔道具って言うのは魔力をエネルギーとして動く道具で、料理人が使ってたコンロっぽい物や俺が買おうとしているパワーバイクとかが魔道具だ。


 魔力は誰にでもあるので魔道具は誰でも使えるが、幼少の頃にしか魔力量は上がらないので、魔法の教育を受けない一般の人の魔力はかなり少ない。貴族を除く冒険者の魔力量の平均は初級魔法一回分くらいらしい。だから一般の店にはあまり出回ってはいなかった。


 魔道具によって魔力の必要量が違うから何とも言えないが、幼少の頃から魔法の教育をしていなければ魔道具は使えない。魔力が抜ける時の倦怠感などで挫折する人が多いんだそうだ。


 稀にいる生まれた頃から魔力が多い人達は魔道具を少し使えるらしいけどさ。っていっても貴族の人よりは劣るけど。


 そして最近現れた女性の魔術師達。俺が見た女性は初級魔法を二十発ほどは打ってたから魔道具も使えるに決まってる。だったら便利な魔道具の需要が上がるに決まってる。


 まぁ大して詳しくないし調べようともしないからどうでもいいけどさ。俺魔力無限大らしいし。未だに倦怠感に包まれたことなんて一度もありませんし。



(努力もせずに取った力を自慢して面白い?)

(……この力を失って元の世界に帰れるなら全部捨ててもいいけどな)

(不貞腐れても現実は変わらないけどね。まぁ世界平和にすれば帰れるらしいし、希望があるだけマシじゃないかな?)

(最近やけに厳しいな……。言われなくてもわかってるよそんなこと)



 剣にそう返しながらも門を潜って広大な砂漠に足を踏み入れる。……ぶっちゃけ希望も何も無いと思うんだけどな。いきなり異世界に連れてこられて戦争止めろとか言われ、いきなりチート能力授けられて放り出されるとか悪夢なんですけど。


 そんなマイナス思考のループに入りかけそうだったので、憂さ晴らしに砂漠を走る。二ヶ月前とは比べ物にならない程軽く感じる足で砂を踏みしめ、気づけばそこは魔物の蔓延はびこる危険区域。


 自分のテリトリーにエサが入ってきたと思っているんだろうか。巣穴からはキチキチと甲殻の擦れ合う音を鳴らしながら続々とスコーピオン系の魔物が這い出てきて、更には馬車らしき物で移動しているリザードマンの群れも少し遠くに見える。



「……えぇー」

(調子乗って自棄やけになって走ってるからそうなるんだよ、バカボケハゲ!)

「してやったりと言わんばかりに刀身輝かせるのはいいけどさ、案外ピンチな状況だよこれ?」



 赤く輝いている剣をコツンと叩きながら自分の周りをグルッと見回す。スコーピオンの魔物の数は目測で……百匹以上。リザードマンは十匹前後。少しは周りを見て走れば良かったと軽くため息をつく。


 スコーピオン達は鋏でつつき合う仕草をした後に、ゆっくりと俺の周りを囲み始めた。どうやら俺がいつも戦っている奴らより少し頭が良いらしい。虫が作戦紛いのことなんかするんだな。


 遠くのリザードマンの群れの方はこちらに気づいているようだが傍観を決め込んでいる。漁夫の利でも狙ってるんだろうか。馬車を動かせるってことはまた頭の良い個体がいるのかよ。マジ勘弁。


 緊張しているのか少し震えてる手を軽く握りしめる。今回は派手な魔法を使えないから最悪死ぬ可能性もある。不死身だからって死が怖くないほど俺は勇敢じゃない。



(ビビってるね)

(うっせぇハゲ)

(なっ! シュウト! だから僕は――)



 剣の言葉を遮るように所々穴が空いている剣の布を振り払って、黒い刀身を囲っている奴らに向ける。俺には切れ味の良い剣があるし、魔法も派手なのが使えないだけで大した制約なんかついていないんだ。


 手の震えはもう止まっている。さっきのはあれだね、武者震いってやつでしたね。


 ……こうして格好つけて剣を抜いたはいいが、この数を斬るのはかったるいことに今更気づく。自分の周りを囲っている群れを全て飲み込むような闇の津波でも創造したくなる。夜ならまだしも今は昼だし我慢するけどさ。世間体って結構ウザイわー。


 やっぱり剣で地味に削るしかない、そう結論づけて前のスコーピオン達を軽く睨みつける。それにしても種類が多い割に統率が取れている。産卵期にはスコーピオン系の魔物が種類構わず軍団を作るとは聞いていたけど、産卵期は半年後のはずなんだけどな。


 後ろからジワジワとスコーピオンが迫ってきていたので産卵期のことを頭から忘却し、前に向かって全速力で走る。自分の後ろから一時的に追い風を吹くように想像して、更にスピードを上げる。そしてスコーピオンの目の前で地面を踏みしめ、盛大にジャンプ。


 頬をきる風を感じながらも着地地点に目を向け、奥の方にいた黄土色のスコーピオンを踏みつけて着地。踏みつけた奴の甲殻は派手な音を立てて砕け散ってすぐに絶命した。すぐに右手に持っていた剣で近くのスコーピオン二匹を斬り裂き、振り向きざまに周りのスコーピオンも剣で一蹴する。


 まさかいきなりここまで来るとは思っていなかったのか奥のスコーピオン達は油断していたようで、悲鳴とも取れる甲高い声を上げながらパニックを起こしていた。うじゃうじゃと必死に蠢く姿は軽く気持ち悪い


 右手で剣を適当に振って道を切り開き、左手で飛びかかってきたスコーピオンを鷲掴みにして地面に思いっきり叩きつける。足元は流石にフォローが効かないので何度か尻尾に刺されたがスコーピオンの包囲網からは脱出した。


 包囲網から脱出してしまえばこっちのものだ。剣に雷を纏わせて混乱しているスコーピオンを斬り飛ばしていく。勿論依頼で必要そうな部位は避けて斬っている。


 さっきまでの統率の取れたスコーピオンの軍隊はまるで蜘蛛の子を散らす勢いで崩れ去っている。後ろの方は体制を立て直しているようだが、囲まれなければ負ける気はしない。


 氷の槍を地面から無数に突き出し、続いて手を振って風の刃を飛ばしまくる。この程度の魔法なら見られても問題ないだろう。見た感じ初級魔法だし。



(ただ初級魔法とは思えないほど魔力配分が多いから、見る人が見れば違和感を感じるだろうけどね)

(……細かいことは気にするな。良く言えば普通の人にはわからないってことだろ?)



 軽い爆発を起こす炎球が地面に着弾し、派手に吹っ飛んでいるスコーピオン達を見ながらもそう返す。しばらくそれを繰り返していたらスコーピオン達は魔法を怖がっているのか縮こまってしまい、中には逃げ出す奴までいる始末だ。



「逃げんなよ」



 近くにいるにも関わらず背を向けて巣へ逃げ帰ろうとしている茶色いスコーピオンを足で踏みつけ、背中を剣で突き刺す。無謀にも顔に飛びかかってきた緑のスコーピオン、そいつを土で保護してある左手で鷲掴みにしてそのまま炎球を創造。


 左手からは壊れたレコーダーみたいな断末魔が聞こえてくる。もう炭化してしまったスコーピオンを縮こまってる群れの中に投げつけてやると、それを怖がったのか更に散り散りに広がっていくスコーピオン達。


 そして死骸だけが目の前に残った。撤退早すぎるだろオイ。あれだね。まさに弱虫ってやつだね!



(……はぁ)

(……今のは上手かったと思うんだけどなぁ)

(センスが感じられないね。もうちょっと捻りなよ)



 剣に付着した体液を振り飛ばして布に包んで腰に括りつけ、少し考える。捻るって言われてもなぁ……。――お、これならいけるぞ多分。



(……あー、虫だけに無視して逃げられた!とかどうよ?)

(こんな良い天気なのに寒気がしたよ)

(酷い言いようだなオイ!)



 それにしても全部狩るのも面倒だったので、スコーピオンが逃げてくれて助かった。もう充分素材は取れたし満足だ。つーか虫って怖がったりするんだな。いや、あいつら見た目は虫でも魔物だしな。


 取り敢えずそこらに散らばっているスコーピオンの死骸を解体しよう。そう思いながらも足音のする右側に視線を向けると、五匹のリザードマンがこちらに近づいているのが見えた。いや、何でリザードマン御一行は意気揚々とやって来たし。魔法をありったけ見せたから来ないと思ってたんだけど。



 装備は中々揃っているみたいで銀の兜と鎧を装備していて、銀に統一された剣や斧、サーベルなどを持っている。遠くから見れば傭兵とでも見間違えるくらいだ。


 どうやら彼らは自分の腕に自信があるようでこっちに剣を向けて乾いた笑い声を上げている。イラッときた。それに丁度防具が欲しかったんだ。あれを全部奪えばサイズの合う物が一つは見つかるだろう。見つからなくても売れば金になりそうだし。


 剣に風を纏わせる。イメージは鎌鼬かまいたち。触れた物を一瞬で切り刻んでしまうような風を剣に纏わせる。おかげで布が再起不能にまでボロボロになった。


 今はあいつら油断してるから一気に近づいて不意打ち喰らわせたいな……足元から風を放出して一気に近づくなんてことは出来るかな? ロケットみたいにビューンと。


 早速実践するため足元から風の塊を放出するようなイメージをしたら、一気に視界がブレて足首にもの凄い痛みが走った。浮遊感に包まれながらもなんとか体制を立て直し、そのまま一匹のリザードマンに突撃する。


 偶然にもラリアットっぽくリザードマンの首に腕が入ったらしく、突撃した瞬間にゴキリと不気味な音がした。ただ兜の部分に腕が当たってしまったのか、折れたのは多分俺の骨だったようだ。凄い右腕痛いもん。


 だがその衝撃は凄まじかったらしく、ぐったりとしたリザードマンを抱えながら低空飛行。さながら飛行機の着陸体制ってとこか? だが止まる気配が無い。そして前方にはリザードマン御一行の馬車が止まっている。


 このままじゃ激突する。魔法で防ごうにも間に合わなかったので、気絶してるであろうリザードマンを盾にそのまま馬車に突撃する。


 ドンガラガッシャン。まさにそんな感じで馬車に突撃した。

魔道具はギルドの幼女救済策でアドリブで少し書いただけです。設定後付けになりそうで凄い後悔してます

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― 新着の感想 ―
[良い点] 幼女きゅうさい。 [気になる点] ハイリザードマンのお姫様でも落とすんですか? [一言] きっと亜人ハーレム主人公。 さもなくば亜人ハーメルン主人公。
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