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孤高の塵人  作者: dy冷凍
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三十章

 依頼された物が入った異次元袋をぶら下げながらのんびり一時間歩いて夕日に照らされている街の門が見えてきた頃、門の間の砂岡に見覚えのある黒ずくめの男が立っていた。最近荒瀬さんによく会うなぁと言葉を零しながらも小走りで向かう。



「……よぉ。随分とご機嫌そうだな修斗。そんなに今日は調子良かったのか? こっちはそりゃあもう大変だったぜ。色々とな。修斗は何か大変なことなかったか? ん?」

「え? ん、えっと、白い警報機が何故か巣に紛れ込んでいて仲間を呼ばれた時は死ぬかと思いましたけど……」



 捲し立てるような口調の荒瀬さんにそう言葉を返すと、荒瀬さんは残念そうにため息をついて頭を抱えた。どうしたんだ? ……まさか街に被害があったのか? いや、門の様子はいつも通りだから大丈夫なはずだけど……。



「ヒント。修斗が張った結界は魔法学校の校長がギリギリで張れるくらいの結界です。魔法に長けている貴族でも一部の上流貴族じゃなきゃ張れません」

「……あー、成程」

「修斗は想像出来る魔法がポンポン使えるからわからないだろうけど、あのレベルの魔法はみんな使えないんだからな? あっちの世界で例えると、強盗捕まえるのに銃使ってる感じだと思ってくれ。普通だったら銃刀法違反で捕まるよな?」



 片手で銃の形を表しながら荒瀬さんは低い声でそう問いかけてくる。確かに自分は魔法を軽視しすぎてたかもしれないな……。何の苦労もなく魔法使えたからバンバン使ってたし、あの時は後先考えずにノリで使ってたしなぁ。それに最近周りも初級魔法使ってたし。



「……すみません。少し軽率でした」

「反省して同じことを繰り返さないなら俺はいくらだって助けてやるよ。つーかこんな短期間でよくあんなもん作れたなと褒めてやりたいわ。とりあえず隠蔽いんぺいはしといたから心配すんな。俺は野暮用が……あー、うん。それじゃあな」



 何処か遠くを見ている荒瀬さんはそう言い残すと変な残像らしき物を残して姿を消した。……言いたいこと言ったらすぐ消えるなあの人は。まぁいい。俺も街に戻るとするか。


 門番に挨拶しながら旅人の証を見せて街の中に入ると、いつもの街並みが出迎えてくれた。もうここに来て二ヶ月も経ったのかと思うと元の世界のことを忘れてしまいそうで少し怖い。



(そういえば僕達が出会ってから一ヶ月半経ったね)

(あー……そうだな。ここに来てからいつ頃買ったんだっけ)

(出会いの記念日忘れる男って最低だね)

(お前は俺の彼女か!? ……というか精霊って性別無い筈だよな?)



 精霊について詳しくは調べていないが、確か性別はなくて意思も中性的って書いてあったと思うんだが。そう思うとこの剣は少し特徴的だよなぁ。所々子供っぽいと思ったら真面目になるし。



(精霊は千年生きると性別が無くなって、万年生きるとはっきりとした性別が生まれるんだよ。ばーか)

(……そうなのか。ってことはお前……いや、何でもない)



 腰の剣がバイブレーターみたいに震えていたのでその言葉の先は心の中で留めた。女性に歳を聞くのはタブーだよな。また夜にエレトクリカルパレードを開催されたらたまったもんじゃないし。


 ギルドに着くまで何故か周りの視線がおかしかったので自分の姿を見てみたら、ペンキでも被ったんじゃないかというほど服が蠍の体液だらけだった。


 着替えるにもそんな場所はギルドの近くにはないので、仕方なくそのままギルドの扉を開いて依頼物が入った異次元袋を受付に渡す。


 苦笑いされながら引け腰で受け取られたことにショックを受けながらも今度は依頼用紙を受付のテーブルに置く。後は受付が確認して依頼用紙に印を押してもらえれば依頼完了だ。


 今日の収穫は貯水袋二個に電気袋が十二個に……ヘルスコーピオンの尻尾が四百五十個。適当に数えたから間違ってるかもしれないけど。


 早朝にいた受付娘はいなかった。そりゃもう日が暮れそうだから仕方ないけど……な、何か悔しい。でも引け腰の受付娘が袋を覗き込んだ瞬間に表情が固まって面白かったから別にいいか。



「アクアの袋が二個……よく無事でしたね」

「まぁ最後気をつければいいだけですし」

「……それにヘルの尻尾の数がおかしいです。塔に殴り込みでもしたんですか貴方は? ……それに数えるの時間かかりそうです」



 真面目そうな雰囲気だったのに気怠そうな目でこっちを見てくる受付娘。仕事中なんだしもうちょっとシャキッとしろよと思いながらもギルドを後にした。確認に少し時間がかかるため明日に報酬を貰いに来いとのこと。


 蠍の集団が移動するのは門番が目視出来たはずだからもうギルドに知れ渡ってると思っていたが、それも荒瀬さんが隠蔽工作していたらしい。いや、どうやってやったんだよ。


 いつもならここで宿屋に帰るんだが今日と明日は宿に帰らない。資金を稼ぐために二十四時間働くつもりだ。何というブラック企業。


 それで最後の三日目にインカを預けるアグネスとやらの教育都市を調べ、少し休んで翌日荒瀬さんと特訓と。ハードスケジュールっすね本当に。別に時間に追われるのに興奮を覚えるとかそんなんじゃないからな!


 だけどまだ仕事をするのに何故ギルドを出たかというと、ギルドの他にも金を稼ぐ手段があるからだ。依頼物を数えさせている最中にまたスコーピオン系の依頼受けたら嫌な顔されそうだし。


 まず一つは魔物を狩って適当な店に売りに行く。まぁこれは周りの値段を見て高く売りつけないと損するし、かといって安すぎても周りの商人に顔を覚えられたら不利益になるだろうからやらない。周りの顔色伺って商売とか息が詰まりそうだし。


 あとは日雇いのバイト。全く稼げないので却下。時給五千円なんて物があったが美男子限定とか完全に舐めてるよなこれ。誰が受けるんだこれ。


 それと依頼を受ける前に魔物を予め狩っておいて、依頼を受注してすぐに達成してしまおうなんて考え。結局ギルド頼みなわけだが、一番稼げるのがギルドなわけだししょうがない。


 最後は賞金首の悪党を殺すと賞金が貰える……なんてのもあるが自分には無理そうだ。それだったらチマチマと真面目に稼いだ方がマシだ。



 賞金首のことを頭から追い出してたまには外食もいいかな、なんて思いながら入口の両側に松明たいまつが立てられているステーキハウスに入って思う存分肉を食べまくった。別にお一人様が俺だけだからってやけ食いしたわけではない。


 ……肉を豪快に食べるような店なのにラブラブな空気を纏いながらあーんってしてるカップルだけは許さない。




 ――▽▽――



 夜の砂漠地帯は昼と比べてかなり寒い。今は上着を羽織るだけで寒さは凌げるが、これからはもっと寒くなるらしい。風邪引きそうで嫌だな、なんて思いながら所々蛍火のような光が見える砂漠を歩く。


 あの忌々しいステーキハウスを出た後にいくつか買い物して俺はすぐに街を出て、今は塔の反対方向の砂漠を歩いている。


 それと遠くに見える蛍火の正体は多分魔術師達の火の初級魔法だ。昼には冒険者なんて一人も見かけなかったが明かりの数を数えると、結構な数のPTが夜の砂漠に出ているようだ。


 少し前までは夜の砂漠は寒いし暗いし明かりは高いしで昼に依頼を受注する冒険者が多かったが、PTに明かり役も出来る魔術師が入ったため夜に依頼を受注する冒険者が増えてきたらしい。夜の方が涼しいからいいんだとか。まぁそこは暑がりか寒がりかの問題か。


 それにこの砂漠で戦ってるのは俺一人じゃないって思うと力が出るというか。……何が言いたいかというと一人ぼっちは淋しいです。……PT組みたいぜ畜生! せめて不死身の力が制御可能とかだったら……そんな都合良くはいかないだろうけど。


 そろそろ魔物が出る区域だろうと自分の頭の上に光球を出そうとして思いとどまる。確か光属性は珍しいんだったし光球を炎球に変更。するとそれを見計らったようにトカゲの魔物、リザードマンが三匹岩の影から姿を現した。その内二匹はわざわざこっちに威嚇までしてくる始末だ。騎士道精神ご苦労様です。


 緑色の肌をしたリザードマンは胴体がほぼ人間と同じ骨格をしていて、首だけトカゲの頭なんていう少し不気味な魔物だ。しかも冒険者の装備を奪ったり剣技を真似たりする奴らがいたりと賢い個体も存在するらしく、更には言葉が通じる奴もいるんだとか。


 目の前で細い舌を出しながらこっちの様子を伺ってるリザードマンはあまり賢くなさそうだ。剣も錆びたなたみたいな物だし大して苦戦はしなさそうだ。奥にいるリザードマンの武器は見えないが強くはなさそうだし大丈夫だろう。



「キシャアァアアァ!!」

「おっと」



 一匹が痺れを切らしたのか蛇っぽい声を上げながら鉈を振りかざしてこちらに近づき、横に一閃するが二歩下がってそれを回避。続いて二匹目がその後ろからこちらに飛びかかり俺の頭を割ろうと剣を振り下ろしてくるが、一歩右にずれてお返しに鳩尾みぞおちへ蹴りを一発入れてやる。


 生憎リザードマンには一週間魔法を特訓した時に何ども戦ったからさほど驚異ではない。最初は腕切り落とされたけどな! 五匹の団体に為す術がなくズタズタにされながら街に逃げ帰ったこともあったけどな!


 息を吐きながら前を見ると三匹目はこちらの様子を伺ってるのか、舌をチロチロと出しながら後ろでこっちをじっと見ている。……あれがリーダーっぽいな。一匹ダウンしてるし今のうちに殺しておくか。


 剣の布を取って異次元袋にしまい、まずは一匹目のリザードマンに向かって走る。ついでに剣へ雷の初級魔法を纏わせる。これでほぼ一匹目は殺したも同然だ。



(ピリッとするから早く終わらしてよ)

(わかってるっての。行くぞ!)



 リザードマンが自分の剣を鉈で出迎えた瞬間に奴の体が大きく跳ねる。感電しているその隙にがら空きの頭を剣で跳ね飛ばす。ボトリと落ちるリザードマンの頭に噴水のように吹き出る赤い血。


 血と胴体がほぼ人間と同じだから最初は罪悪感を感じた……なんてことはなかった。むしろ最初はよくも俺を殺したなと魔法で殺戮しまくってた気がする。荒瀬さんに自分の臓器見せられた時は半べそかいてたのになぁ。いや、後に罪悪感は感じたけどさ。


 っと。そんなことは今は考える時じゃない。次にまだ鳩尾の痛みが抜けていないのかフラフラのリザードマンの胸に剣を突き刺し、横に斬って捨てた。さぁ、残すはリーダーだけだ。


 奴は何処か知性のありそうな緑色の瞳をギラつかせて、まだこちらをじっと見ている。……不気味だな。少し警戒して戦うことにするか。


 剣に纏わせている魔法を解いて剣を前に構える。すると奴も鉄の短刀を取り出して姿勢を低く構え、こちらの様子を伺っている。


 何だか嫌な予感しかしないなこれは……。構えからして玄人っぽい雰囲気が出てるんだが。くそっ。また神の不幸なんて起きたらゴメンだぞマジで。

半月ほど遅れてしまって本当にすみません。

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