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孤高の塵人  作者: dy冷凍
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第三章

 目が覚めたら透き通るような清々しい青い空が見えた。あれ? 俺生きてる?


 恐る恐る右腕をみると……あった。ふぅ。よかった。ミロのヴィーナスみたいに美しくならなくて。やっぱり夢だったのか?


 でも自分が寝ているのは草原だし……しかも物凄く身体がだるい。それに両腕も筋肉痛のような痛みがある。



「目が覚めたかの? 少年」



 寝ながら顔を透き通るような声がした方へ向けると、さっき腕を喰いちぎった狼が伏せてこちらを見ていた。わざわざ喰いちぎった証である赤化粧を口元に付けながら。


 狼が喋ってる。もうそんなことはどうでもいい。これは夢なのか? それとも本当に異世界かなんかに来ちゃったのか? それに俺絶対死んだと思ったけど。



「……俺の腕は美味しかったかい狼君」



 俺は仰向けの体を起こしながら何故か盛大に皮肉っていた。自分の口がそんなことを言ったことに驚く。


 まぁ、いいか。さっきも無事だったんだ。知ったことか。狼は気分が悪そうに喉を鳴らしているがもうどうでもいい。あの狼はとりあえず死ね。


 狼が立ち上がって俺を見下ろす。狼はそんなことを考えるはずがないと思ったが、金色の瞳から侮蔑の意思が読み取れた。そのことに思わず笑ってしまう。


唸っている狼。俺は立ち上がって狼を睨む。



「こら、争いは止めんか」



 すると狼の後ろから背の低い子供っぽい人が間に割って入ってきた。……狼喋ってねぇのかよ。ってことはあの瞳も俺の妄想か。……あれ、凄い恥ずかしいんだが。


 子供は声の高さからして女の子だろうか。白いワンピースを着た可愛らしい少女とも少年とも見える。しかも髪が真っ白だった。だけど違和感は不思議と感じなかった。同級生がいきなり髪真っ白に染めたらうげぇ、ぐらいは思うけど。



「お主、奇妙な能力を持っておるな」

「……そりゃどうも。とりあえずここは何処なんだ?」



 奇妙な喋り方をする子供に質問する。もうここ異世界でしょ。軽トラック並みの狼見つかったらニュースでやるだろうし、俺腕喰いちぎられたし。


 それに何か狼の体の下にあるんだよねー。人間の腕が。あれ絶対俺のじゃん。今ある腕は義手かなんかか? だとしたら日本は凄い進歩してるな。どうせ義手じゃないオチだろうがねー。



「ここは神の森。人間にはここがバレぬように魔法をかけたのじゃが、もう見つかってしまうとはな……」

「あぁ。大丈夫。俺タイムスリップしてきたようなもんだから、まだ見つかってないと思うよ」



 とりあえず人間はいるらしい。それに魔法。ファンタスチックですこと。神の森とか、もうね。現実逃避したいなー。



「たいむすりっぷとな。……神隠しかの? あ、そういえばアイツが……」

「ん?」

「いや、こっちの話じゃ。そうか。お主は異世界人という奴か」



 理解が早くて助かる。こっちは理解する暇もないけどな! 少なくとも地球上じゃないことはわかったよ! 未だに夢覚めないかなーって思ってるよ!



「ふむ。お主何処から来たのじゃ? 我が知っている所かも知れん」

「あぁ。地球っていう星の日本から来ました。もしかして貴方が神様って奴ですか?」

「うむ。一概にもそう言えんが、神の中では上位神に属しておるぞ」



 えっへんと偉そうに無い胸を張る少女。というか神様って複数いるのね。初耳DESU☆ くっそマジでわけわかんねぇ。



「えっと……神様ー。僕を元の世界に帰して下さいー」

「残念ながら我にそこまでの力はない。別世界に生物を傷つけずに送れるのは最上神くらいかのー」

「じゃあ何で俺はえーと……最上神とやらに飛ばされたんですかー? 神々の遊びとか言ったらぶん殴ります」

「……度胸がある奴じゃの。最上神が何故お主を飛ばしたかは、残念ながら我にはわからないのじゃ」



 急にしょんぼりする彼女。しょんぼりしたいのは俺の方だけどねー。狼は俺の腕ガジガジして遊んでるんじゃないよ。グロテスクで見てられないよ。



「最近の最上神達は不可解なことを繰り返しておる。それで一部の神にその飛ばした奴らの世話をするように最上神に頼まれているのだよ。鎌夜修斗よ」



 不可解なことねぇ……。繰り返してるってことは俺以外にも飛ばされた奴がいるのか? 彼女に無理矢理理由を詰め寄りたくても狼がこっちを見て唸っているので怖くて出来ません。てか、名前名乗ったっけ?



「俺名前言ったっけ?」

「我がお主の担当だからわかるのじゃよ」



 ふっふっふと含み笑いをする少女。イラッときたので頭を小突いてやる。狼が大きい体を起こしてこっちを睨みつけてきたが、少女がそれを手で抑えた。渋々また伏せになる狼。さっきまでの威勢は何処にいったのか、自分はガクブル震えています。怖すぎだろあの狼。



「多少の無礼は構わぬ。そう怒るなウルフィンよ。お主もいきなり飛ばされて苛立っているだろう? とりあえず何か食べながら説明しよう。付いてこい」



 座っている俺に小さい手を差し伸べてくる少女。戸惑っている俺の手を少女は強引に引っ張り上げると、太陽のような暖かい笑顔で草原の向こうへ駆け出していった。あははー待ってよーってやりたかったが狼が睨んできたので普通に追いかけた。狼怖えーよ。



――▽▽――



「お主が元の世界に戻るためにはこの世界を平和にしなければいけないようじゃな」



 単純明快。よし、やってやるぜ!



「ってなんでやねん! いきなり呼び出してそれかよ!?」

「うむ。そう言うと思ったわい」



 前に座っている少女は白い髪を弄りながらつまらなそうに答えた。というか俺はそんな世界救いたいなんて思う聖人じゃないし、かと言って元の世界で何かの特殊能力に目覚めていたとかもない。というかそんくらい神様がやれよって話だし。


 大声を出したせいか窓から狼がジロリとこちらを見てきた。少女に案内された家は神が住むにしてはあまりにも素朴な木の小屋。しかも内装は木の机と椅子があるだけ。ただ出てくるお菓子は美味しかった。



「我の為にやってはくれんかの?」

「面白い冗談だな、おい。」



 祈るように手を組んで上目遣いでお願いしてきたが、バッサリと切り捨てる。むぅ、と頬をリスのように膨らませる彼女。小窓から睨んでくる狼。狼がシュールすぎて笑いかけたが死にたくないので止めておく。



「でも帰りたくないのか? もしやお主あっちでは”にーと”というやつだったのか?」

「違うわ。未練がないと言えば嘘になるけどさー。世界平和にしろとか何年かかるんだって話だ」

「言い方が悪かったのう。世界を平和にしろ、ではなく世界を平和にするきっかけを作れ、の方が正しかったかもしれん」

「と言っても世界の状況がわからないし」

「簡単に言うとあと十年すればこの世界が阿鼻叫喚あびきょうかんに包まれるそうじゃ」



 無理だ。何だよ阿鼻叫喚って。



「まぁとりあえずその能力があれば死にはしないから大丈夫じゃ」

「あ、俺能力なんか持ってるんだ。神様に与えられた能力ってやつ?」

「うむ。そのまま異世界に放り込んでもすぐに死んでしまうからな。お主の能力は再生らしい。ウルフィンにズタズタに引き裂かれていた時はどうするか迷ったが、都合よい能力が付いててよかったわい」



 何か紛らわしいジェスチャーを交えて再生能力を説明する少女。こんな状況なのに少し可愛いとは思ってしまった自分に軽くイラッとしながらも話を進める。



「あー。だから腕が生えてたのね。……でも君が最初から狼止めとけば俺は食べられずに済んだと思うんだけど?」

「そ、それはだな……ほれ、お主にぐろてすく? の耐性をだな……。決して忘れていたわけではないぞ、うむ。そうじゃ」



 どうやら忘れていたらしい。割と本気で殴ってやろうと思ったが、狼が目を光らせているので震える拳を無理矢理下げた。それに俺の能力は再生らしい。アメーバか何かになったのか俺は。もう無理矢理納得した。



「それとお主、湖の水を飲んだじゃろ? あれはウルフィンが生まれた時から守っていた魔力の湖でな? あれを一口飲んだらこの森全ての魔力を、二口飲んだら世界の魔力を手にすると言われている湖なのじゃ。お主、どのくらい飲んだ?」

「えっと……一口だと思うよ」



ギロリと窓から睨んでくる狼の視線に思わず息が止まってしまう。本当は四口飲んだなんて言えない。怖い。怖い怖い。死ぬ。



「これウルフィン。一応我のミスなのだ。殺気を抑えないと修斗が死んでしまうぞ」



そう彼女が言うと狼は拗ねたような表情をして俺から視線を外した。視線で死ぬなんて絶対に有り得ないと思うが、少なくとも俺は窒息死するかと思った。さっき俺はこんな怖い奴を皮肉っていたのよ。ゾッとするわ。



「まぁそんな些細なことはどうでもいいんじゃ。別に修斗の魔力が増えてもただ魔法が使えてほぼ不死身になるだけじゃし。再生には多量の魔力を使うからむしろ丁度よかったかもしれん。ウルフィンには悪いがの」

「それって結構やばくないか? そんな適当で大丈夫なのかお前!?」

「何。一応上位神だからのう、心配は無用じゃ。それよりもこれからどうするかお主に決めて貰わねばのう。魔法学園で魔法を学び力を手に入れるか、商人となって産業革命を起こすか、旅人になり気ままに生きるか。我は三番目がお薦めじゃ。拒否権はない。我にも仕事があるのでな。さっさとせい」



 あ、拒否権はないですか。そうですか。


 まぁ俺も元の世界には帰りたいし、もうやるしかないか。竜宮城みたいな展開にはならないらしいし、まぁいいだろう。頬も抓りすぎて赤くなってきた。これは紛れもない現実。現実逃避してもしょうがない……。いつか最上神とか言う奴は殴ってやるが。



「でも魔法学園とやらに行った方がいい感じがするんだけど……」

「手続きがめんどくさいのじゃ」

「随分と私的な理由だな!」

「それじゃ旅人、鎌夜修斗よ。行くのじゃ! 聞きたいことがあればこれを見るのじゃ」

「おいちょっとま――」



 変な本を手渡されると少女はこちらに手を振ってじゃあの、というと消えてしまった。


 そして急に眠たくなる。クッキーに睡眠薬でも入っていたのか。これからどうなるのか不安で仕方ないが、睡魔には勝てずに意識を手放してしまった。

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