表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
孤高の塵人  作者: dy冷凍
24/83

第二十三章

 翌日、寝相が悪いのか床に落ちているインカをベッドに戻して、少し違和感のある扉を開けて部屋を出る。まだ朝の四時なので食堂も閉まっているし、受付の青年も眠そうに欠伸をしながらこっちを物珍しそうに見ている。


 朝っぱらから元気な太陽に目を細めながらも宿屋を出て砂漠地帯へと足を進める。何でこんな朝早くから起きて砂漠に向かってるのかはもちろん理由があるわけで。


 俺は今更ながら危機感を感じていた。そりゃもう盛大に。


 今日からギルドで魔物の討伐依頼を受けようと思っていたが、昨日の夜暗殺者の襲撃についてノートにまとめていたら考えが変わった。


 あの時は荒瀬さんが来ていなかったら間違いなくこの世とさよならしていただろう。あれはイレギュラーすぎたかもしれないが、魔物の討伐に行ったら強い魔物が乱入なんてことも有りうるかもしれない。実際にヘルスコーピオンの大群に囲まれたわけだし。


 正直な話魔法あるし身体能力もあがってるし、強い剣もコートもあるから勢いでBまではいけるんじゃないかって考えてた。自分無謀すぎるだろ、というかコートは左胸に穴開いたままだし。


 だからまずは初級魔法を無詠唱で確実に出せるようにする。それと自分には魔力がどのくらいあるのか。それに剣術も少し学ばなければいけない。あの時は結局剣を抜いてすらいなかったし。


 屈強な体つきをした門番に挨拶して砂漠地帯に足を踏み入れる。街から少し離れた所で荷物を下ろして軽く準備運動。まだ朝早いのに体操しただけでじっとりと汗が出る気温の中、まずは何をやるのか考える。


 まずは魔力の確認。初級魔法をどれくらい打てば魔力は切れるのか。死んだらどのくらい魔力が減るのかも試すべきだと思ったが、足が竦んで出来なかった。まぁ死ななければいいことだ。


 結果的に太陽が落ちるまで初級魔法を出しっぱなしにしても魔力は切れなかった。魔力が少なくなると倦怠感、砕いて言うとダルくなるらしいが、そんなことはなかった。それと一日中魔法を打ちっぱなしだったからか成功率も上がってきた。イメージが固まってきたんだろう。


 それに初級魔法は威力が弱い半面、応用がかなり効くから使いやすい。まだ変幻自在とはいかないものの壁や球状に変化させるのには慣れてきた。こっからは遠いが魔法学園なんて所もあるらしいから行ってみたいもんだ。


 一方剣の方は全く手応えを感じない。剣道なんて元の世界ではやったこともないので剣術なんてわかるはずもなく、適当に素振りするだけだった。


 こんなんで大丈夫なのか?と思いながらもひたすら砂漠で素振りしながら、たまに湧き出るスコーピオン系の魔物と俺と同じくらいの体長のトカゲを倒したくらいだった。


 一回調子に乗って街から離れてみたら遠くにめちゃくちゃ大きい蟻地獄らしきものが見えたので少し近づいてみたら、足元を何かに掴まれて振り払おうとしたら足首を切り落とされた。


 予想もしなかった激痛に脂汗をかきながら地面を這っていたら、蟻地獄の中から拳サイズの小さな虫がわらわらとこっちに近づいてきていた。幸い足首はすぐに再生したから逃げ遅れることはなかったが、魔物の怖さを改めて思い知ったいい機会だったかもしれない。もう二度と体験したくはないけれど。


 再生したては履きなれていない靴で走るような感覚だったが、そんなの気にせず死にもの狂いで遠くの砂岡にたどり着いて東京ドーム並みの蟻地獄を見下ろしていたら、馬鹿デカくて丸っこい虫が蟻地獄から這い出てきてこっちを威嚇してきた時は戦慄が走った。


 その体験のおかげか修行を適当にやるなんて考えも浮かばなかったらしく、短い期間にしては成果はかなり良かった方だと思う。約一週間修行らしきものを四時から暗くまで行なった結果、初級魔法はほぼ確実に使えるようになったし、中級魔法も一部使えるようになった。


 しかし剣の方はからっきし駄目で、剣からもため息をつかれるほどだった。あえて上げるとすれば剣に魔力を纏わせることが出来たくらいか。荒瀬さんなら剣術とか知っているだろうか。


 インカには修行に出る前に一ヶ月分のお金をあげたから心配はいらないだろう。逃げてるかなーって卑屈に思いながら部屋に入ったら本を読んでいたので、だーれだって後ろから目を隠したら鳩尾に頭突きされた。


 俯いてる顔を下から見ると涙を必死に堪えていたので少し可愛いと思ってしまった。引き取っておいて放ったらかしにしたのは流石に無責任すぎたか。ごめんと謝りながら頭を撫でてご機嫌を取っておく。


 インカはシャワーが嫌いらしくあまり体を洗わない。裏路地で生活していたから体を洗うって考えがまだわからないらしい。俺が無理矢理シャワー室に連れていってもすぐに逃げてしまうが、サラに任せると入る。母親がやっぱり恋しいんだろうか。


 お金に関してはいらない物を質屋で売ったから問題ない。衝動買いしたものも多かったから異次元袋を整理するいい機会だった。ついでに砂漠で剥ぎ取ったスコーピオンとトカゲの素材も売っておく。アクアスコーピオンの貯水袋が割と高めで売れたので満足だ。


 その後夕食にサラを誘ってインカがトイレに行っている間に何を吹き込んだのか聞いてみると、案外単純な答えが返ってきた。


 彼は君を傷つけたりしないよ、と言っただけらしい。首を傾げる自分にサラは無邪気に笑うだけだった。丁度インカが帰ってきたので俺の皿に乗せられていた野菜をインカの皿に移しておく。



「あ! 何で僕、お皿に野菜乗ってるっ!」

「好き嫌いはいけないぞ。そのくらい頑張って食べろよ」

「じゃあ私のをシュウトに……」

「お前はアホか」



 サラの野菜を跳ね除けて自分はシャキシャキの歯応えが特徴的なキャベツと肉を挟んだハンバーガーを食べる。じゅわっと溢れる肉汁とキャベツが相まって凄い美味しい。正確にはキャベツじゃなくてシャタラって名前らしいがキャベツでいいよもう。



「ほら、インカもサラもちゃんと食えよ」

「野菜食べなくても生きていけるよ! 何でこの緑色の不気味な物を食べなきゃいけないのさ!」

「ぶー」



 子は親に似るとはこういうことか。二人共唇を尖らせて机に顎を乗せながら、あーだこーだ言っている。うわ、凄いウザイなこれ。



「食べるまで返さないぞ。ほら、インカは肉あげるからそれと一緒に食っちまえよ」

「えー!? ずるいー!」



 持っているフォークとナイフをバタバタさせながら文句を言うサラを軽く小突いて、早く食べろと目線で告げる。緑色の丸っこい野菜が本当に嫌いなのか涙目で何か訴えてきているが、こっちとしては早く食えとしか言えない。ウエイトレスがお皿をかたずける時に睨まれるのは俺なんだよ。


 結局調味料をいっぱい振りかけ、味を誤魔化してサラは食べた。食べさせた。俯せになって動かないサラをインカが心配そうに揺すっていたが、大丈夫だろ。多分。


 愚痴垂れてるサラを見送った後に部屋に戻って砂漠で見た蟻地獄に関することを神本(この本の正式名称らしい)で調べてみると、砂漠地帯では食物連鎖の頂点に君臨しているガユラという魔物らしい。しかもあれで幼虫。とんだ化け物だ。二度と会いたくない。ちなみに俺の足首を切断した魔物はアシカリ。ガユラと協力関係にあるらしい。


 それと魔法について少し疑問がある。普通の人は魔方陣を通して魔法を発動するけど俺は自分でイメージした魔法が発動する。だから基本の初級魔法使えれば上級魔法も出来るんじゃないか?って話になるわけなんだが、実際のところは無理だった。


 初級魔法は単純に火の球を出したり水の壁を形成したりするだけだからイメージは簡単だが、上級魔法は基本二属性を混ぜている魔法だからかなりイメージが難しい。


 中級魔法はその中間と言ったところか。ただの炎の槍なら使えるが、刺さった相手の体内で爆発する炎の槍なんてのはまだ使えない。


 直接見た魔法なら使えそうなんだがこの街には魔術師が少ないのでそんな機会も無く、上級魔法を覚えるのはかなり先になりそうだ。



「シュウト、暇」

「寝ろよ」

「まだ眠くない」



 そう言って背中に飛びかかってくるインカを振り落としてベッドに投げ飛ばす。しかしめげずに立ち向かってくるインカ。何ども振り落としていたら段々キックするようになってきた。


 うん。絶対調子乗ってるよコイツ。



「痛いから止めろ」

「いや」



 ムカついたから布団でグルグル巻きにして光の初級魔法ライトを糸状にして縛っておく。氷の初級魔法アイスで作った氷があるから熱中症になることもないだろう。



「出して」

「嫌なこった」



 芋虫みたいに転がってるインカ。ざまぁと心の中で言いながら神本を異次元袋にしまって就寝準備。流石に寝苦しいだろうから魔法を解いてやったらまた立ち向かってきた。



「出して」

「お前なぁ……」



 再び芋虫に成り下がった子供を見下ろしてため息。やんちゃしたい年頃なんだろうか。だったら外で他の子供と遊んでこいよ、は少し酷なのかもしれないかな。今は俺が親代わりなんだしなぁ。実感があまり湧かないけど。



「次やったらもう出さないからな」

「わかった」







 翌日。午前三時に起きるのが日課になってしまったのか随分暗い時間に目が覚めた。欠伸をしながらベッドから起きて、隣の芋虫の魔法を解いておく。アイスで冷やしていたから暑苦しいってことはなかっただろうから大丈夫だろう。


 多分体が強化されてきたから睡眠時間もあまりいらなくなったんだろう、と適当な考察をしながらもう少し明るくなるまで荒瀬さんの異次元袋を弄って朝まで潰した。


 朝五時辺りになると段々と外が活気づいてきた。異世界の朝はかなり早い。窓から外を見ると配達の人が大きな荷物を持って走り回っている姿が伺える。俺もギルドに行く準備をしますかね。


 灰色のローブを桶に入れて渦巻く水をイメージ。十分くらい洗った後に暖かい風をローブに吹き付けて乾いたら異次元袋に入れておく。基本洗濯はこんなもんだ。異臭がすることはないからまぁ大丈夫だろう。


 基本周りの人は地味な色を使ったラフな格好なので灰色のローブは少し目立つ。なので自分も最近街に出かける時はベージュの半袖半ズボンとかで出かけている。基本は灰色のローブだけど。快適だし。


 食堂で適当な物をつまんだ後にギルドへと向かう。暑いから氷でも周りに漂わせたいが、魔法を使うと貴族か何かと勘違いされるのが釈然としないので止めておく。


 あの門番がやけに低姿勢だったのもこのせいだ。あー暑い。

深海にいる巨大生物とか何か怖いですよね。読み返してみたら微妙でしたけど

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ