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孤高の塵人  作者: dy冷凍
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第十九章

「俺が一生懸命見えない結界探して破ってやっとたどり着いたと思ったら、青髪娘とお楽しみ中でしたか。いいご身分に成り上がったんだなぁ修斗君?」

「ち…がいま…すよ…」



 痺れ薬か何かを打たれたせいか舌が思うように動かなくて喋りにくかった。何やらジェスがまさかの第三者乱入に驚いたのか目を見開いている。それよりも口を歪めながら淡々と喋る荒瀬さんは少し怖かった。



「チッ。まさか本当に結界を破る奴が来るとはな」

「お前はフラグ建築家一級を目指せる逸材だな。自信持っていいぞっとぉ!」



 そんな軽口を言った途端にナイフが荒瀬さんに向かって飛んでいった。だけどくるりと回りながら荒瀬さんはナイフを避ける。というか半分ふざけているように見える。



「ゲレスは素人の小僧に倒されて奇怪な実力者が乱入。今回の任務は想定外なことが多過ぎる」

「奇怪な実力者、か。最近色んな場所で暗躍している組織の幹部にしては高評価だねぇ」



 荒瀬さんはケラケラと面白そうに笑いながらもロボ声の暗殺者の攻撃をヒラヒラと避けている、というより避けていると言った表現はおかしいかもしれない。何だろう? 少し違和感を感じたがそれは結局わからなかった。


 それにしてもあんなに激しく動いてるのにフードが取れないのは何故だろうか。相変わらず口から上は見えない。絶対領域ってもんなのかね。



「おい修斗。テメーはいつまでそいつに腕枕されてるつもりだ。叩き潰すぞゴラァ」

「痺れ……薬を打たれましてね…?」

「気持ちの問題だ」

「無茶…言ってくれますねっ!」



 そう言葉を返して青髪のジェスの腕から難なく逃れて光の玉に入っている子供に向かって走り出す。よくよく考えれば簡単なことだった。ヘルスコーピオンの毒は効かなかった。ならコイツが打った毒も効かない可能性もあったんだ。



「嘘!? 人間じゃ指一本動かせない程の猛毒なのに!?」



 その言葉を聞いて若干足元が痺れてきたような気がしてきた。い、いや大丈夫だろ。多分。



「俺と会話した時点で舌が動いてんだろうが。もう毒は解毒出来てるよ。さっさと子供運べや修斗」

「何か……荒瀬さん怒ってます?」

「怒ってねぇよ。こいつらは俺が抑えてるからさっさと走れよったぁ!」



 ロボ声の暗殺者の腹に回し蹴りを入れながら荒瀬さんは大声で言い散らした。五十メートルくらい離れてるゴミ箱にまですっ飛ばされた暗殺者を見て少し口角が引きつった。荒瀬さんそんな怪力何処から出したんですか。見た目はかなり細身だぞあの人。



「簡単には逃がさないわよ。シュウト君?」



 子供を光玉から出して抱えてる間にジェスがこちらにナイフを持って迫ってくる。光の壁をイメージするも雑にイメージしたせいか発動してくれない。



「させるかよ青髪娘。そら、吹っ飛べ」



 水の壁を張ろうとした瞬間に荒瀬さんがいきなり前に現れてジェスの胴体を蹴り飛ばした。瞬間移動でもしてるのかこの人は。今さっきまで結構距離離れてたぞ?



「メチャクチャですね荒瀬さん……」

「不死身のお前に言われたくないわ。毒も自動解毒とかチートすぎだろ」



 そう軽口を叩いていたら前から単三電池サイズの針が雨のように飛んできた。魔法を展開する時間も無い。壁は間に合わない。俺は反射的に子供を抱えて針に背を向け、そしてすぐに来る痛みに目を瞑った。


 だけど痛みは来なくて何かを弾くような音が響きわたっているだけだった。前を見ると針を荒瀬さんは全て素手で弾き飛ばしていた。……どうやってるんだろうか。腕が金属にでもなっているんだろうか?


 荒瀬さんに弾かれて勢いを無くし、地面にぱらぱらと落ちていく針。針の嵐が止む頃には、地面に子供が作った砂山程度の針が落ちていた。



「そら。お返しするぜ!」



 荒瀬さんがそう言って片足を踏み鳴らすと、地面に落ちていた針がカタカタと動きながら宙に浮いた。無数の針はそのまま前の二人に向かって雨のように降り注いでいく。いや、荒瀬さんの方がよっぽどチートだろこれ……。



「む、流石にあんくらいじゃ死なないか。さて問題だ修斗。ここから何をすればここから逃げられると思う?」

「荒瀬さんならあの二人倒せるんじゃないですか? 俺は隠れて……痛っ!」



 拳骨を食らわされた。凄い痛い。指を尖らせて殴ったよこの人!



「子供とお前守りながら戦えるかってんだ。ヒント。裏路地とはいえこんな騒ぎが起きてるのに誰も来ない理由は何だ?」

「……多分遮断結界が張ってあるんですよね?」

「ご名答。詳しくは闇属性の結界だけど、それを壊せば周囲が騒ぎに気づくからあいつらは退かなければいけない。そうすりゃ俺達の勝ちだ」



 でも荒瀬さん結界を破ってきたんじゃないのか? ……闇の吸引でどっかから魔力を吸引して結界を自動修復しているのかな? 質問しようとも思ったがロボ声の暗殺者がロケットみたいに飛んできたから聞くことは出来なかった。



「とりあえず修斗は爆発する光玉を作れ。イメージしろ。十秒後に爆発する花火をな。その後は俺に任せな」



 そう言って荒瀬さんは暗殺者のナイフを素手で受け止めて対峙した。花火……か。とりあえず子供を棘付きの光玉に戻して、きっちりと塞いでおく。


 荒瀬さんが何をするかはわからないが目を瞑ってイメージする。祭りの時に見る打ち上げ花火みたいなイメージ。十秒後に花火みたいに爆発する光玉のイメージ。



(危ない!)



 剣の言葉を聞いて目を開けようとしたがまだ光玉のイメージは完成していない。あと少しで完成する。あと、少しっ!



「ライト!」



 そう詠唱して目を開けるとサッカーボールくらいの玉が自分の手に収まっていた。花火をイメージしたせいか熱が発生してるみたいで手に置いてられないほど熱く、つい反射で手を引いて地面に落としてしまった。


 しかも前を見るとジェスがこちらに迫っている。何とかしてあの光玉を荒瀬さんに渡さないといけない。でも荒瀬さんは暗殺者と対峙しているし、この光玉は熱いから荒瀬さんも多分持てないだろう。いや、持てる気がしないでもないけどさ。



「荒瀬さん! パスです!」



 荒瀬さんが暗殺者のナイフを弾いて後退させた直後に、俺は荒瀬さんの足元に向かって光玉を蹴り飛ばした。ボーリングの球を蹴った感じで思いっきり蹴ったことを後悔した。というか足の指折れたかもこれ。


 ゴロゴロ転がってくる光玉を目の端に入れた荒瀬さんは俺の様子を見たのか少し笑いを堪えながら、転がる勢いを利用して光玉を靴の上に乗っけた。そしてこっちに顔を向けて一言。



「ナイスボール!」



 荒瀬さんはボールを一回浮かせた後に、見てて爽快なくらいに上空に光玉を蹴り上げた。メテオみたいな勢いの光玉はそのまま空へと向かい、何かとぶつかって止まった。


 いや、止まっていない。メリメリとガラスが軋むような音が響いている。


 そして空にヒビ割れが入ったと同時に、ガラガラと音を立てて見えない何かが崩れさる音が聞こえた。



 そして爆発の十秒を過ぎた。



 光玉は激しく発光して派手な爆発音を撒き散らしながら、色鮮やかな光を空に放った。うん。昼だからあまりよく見えないけどこれなら大丈夫だろ。


 荒瀬さんは愉快そうに笑いながら対峙していた暗殺者の様子を伺いながら訪ねた。



「結界は破れてギルドも今の騒ぎにには気づいただろ。早く退いた方がいいんじゃないか?」

「……退くぞジェス」

「えー。もう少しでシュウト君殺せたのになー? ちぇー」



 拗ねた子供みたいにこちらを見るジェスの青い瞳は少し背筋を震わせた。一見愉快そうに目を丸めているが、奥にはゲレスのような狂気が垣間見えた。


 そして暗殺者達はゲレスを担いで退いていった。ホッと一息する。何回死んだと思ったか。いや、実際三回は死んだんですけど。


 疲れた。激しく疲れた。ドッと疲れが肩にのしかかってくる。



「……流石にあれは派手すぎやしませんかね修斗。どうシロエアに説明すりゃいいんだよ。花火大会してたとでも言うのか? それに光魔法をあんな派手に使える奴なんて片手で数えるほどしかいないからな。どう誤魔化すつもりだよ……」



 ジト目の荒瀬さんの視線を感じるが鈍感なフリをしてやり過ごす。いや、絶対誤魔化せてないだろうけど。


 わざとらしくため息をついて首をくいっと動かして付いてこいと促す荒瀬さんに、背中を小さくしながら俺は子供が入ってる光玉を解除した。



「あ……れ…?」



 疲れなのかいきなりふらっと目眩がして地面に倒れてしまった。視界もぐらついて定まらない。それにとんでもない眠気が襲ってくる。三日間徹夜でもしたような感じだ。



「……はぁ。力を使いすぎて起きれないなんてオチですか?」

「すいま…せん…」

「あー今日は散々だな。明日は仕事休もうかなーっと」



 荒瀬さんの右肩に担いでもらって俺は裏路地を抜けた。とんでもなく疲れた。だけど薄れる視界で荒瀬さんの左肩に乗ってる子供の安らかな寝顔を見たら、苦労も心労も抜けた。この子供を俺は守れたんだと思うとこんな酷い目にあってもいい気がした。



(最初は見捨てたけど結局助けたね。シュウトは冷徹非道だと思ってたけど、やっぱりお人好しだね。馬鹿みたい)



 そんな剣のつぶやきを子守唄にして俺は意識を落とした。

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