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孤高の塵人  作者: dy冷凍
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第十三章

 血痕の付いた椅子は回収されて床に広がった残飯とお茶も綺麗に片され、喧騒に包まれていた食堂も徐々に落ち着きを取り戻していった。


 そんな中俺は怪しい人と一緒に枝豆をニュルンと皿に飛ばして遊んでいた。いや、あっちも黙々と枝豆飛ばしてるからこっちも飛ばすしかないじゃないか。二人でやったせいかあっという間に枝豆の実が皿に積み重なっていく。コイツ……出来る!


 枝豆が無くなると怪しい奴はやっと口を開いた。フードは外さないのかな?暑いだろう。



「君ってさ。ネットって知ってる?」

「え? は?」

「あぁごめん。じゃあ日本って国は知ってる?」



 日本。その言葉を聞いた瞬間に脳裏に衝撃が走った。え、この人日本を知ってるのか?日本人なの?


 ……確かに神様は他にも異世界人がいるって言ってたけど、こんな早く会えるとは思わなかった。というかこの世界に他の、しかも同じ国の異世界人がいるとは。怪しい人とか凄い失礼なこと言ってましたごめんなさい!


 俺の反応を見て黒フード様は面白そうに笑いながら枝豆を食べておられました。



「えっと……知ってます。もしかして貴方も飛ばされたりしたりしますかね?」

「おう、狼少女にな。いやー、見つかってよかったよ。まぁこんな格好だと怪しい人って思われるのは当然だろうし、まずは自己紹介からいこうか。俺の名前は荒瀬夜止あらせやしだ。よろしくな」

「そうですか。俺は鎌夜修斗です。えっと……高校生です!」



 話したいことが多すぎて言いたいことがうまく浮かばなかった。そんな俺を見て荒瀬さんは苦笑い。恥ずかしいったらありゃしない。



「まぁお互い聞きたいことはいっぱいあるだろうし、一回ずつ交互に質問していこうか。それじゃシュウト君からどうぞ」



 何を質問しようか迷う。何歳?何故フードを取らない?どうやって飛ばされた?どうやって自分を見つけた?あとそれから他にもあるはずだ。もっと重要なことがあるはずだ。それを聞かないと……。



「別に急がなくても俺はどっか行かないから大丈夫だよ。何か起きない限りは今日はこの宿に泊まるつもりだからな」

「じゃあ……何でフード取らないんですか?」

「自分で言うのもなんだけど俺地味に有名人なんだ。中二病と思ってくれて構わないよ」



 中二病?……いつしか友人が口にしていたっけ。私にもそういう時期がありました、とかなんとか言ってた気がする。俺にはあまりよくわからない。



「じゃあ次はこっちな。前の世界よりやたら不幸なことが起こったりしてないか? いきなり通りすがりの人に絡まれたり、目の前でスリが起きて犯人と間違われたりとか。まぁ既に二つ目撃してるから言わずもがな、って感じだけどさ」



 言われてみれば多いかも知れない。異世界に飛ばされた時点で不幸だが他にもいっぱいある。確かにそうだ。何か仕組まれてるのか?まさか神様が仕組んでいたりして……。



「多分君が想像している通りだよ。俺達は神にトラブルが常に付き纏うように仕組まれていると思う。全く面倒なことをしてくれる。こっちはたまったもんじゃない」

「じゃあ荒瀬さんもやっぱり……」

「偶然街にお忍びで来ていた女王に痴漢の容疑で牢屋にぶち込まれたり、偶然助けた子供が亜人種でいきなり死にかけるまでボロボロにされた挙句に路上放置プレイをされたり。まぁ喋ればキリはないよ。他になんか質問ある?」



 そうなのか……。でも神様が俺に不幸なことが起きるようにして何のメリットがあるんだ?神々の遊びとか言ったら一生恨むけど。



「じゃあ荒瀬さんはここにいつ飛ばされたんですか?」

「二年前くらいかな。だから俺が来た時に困ったことを伝えようと思ったんだけど……無理そうだね」



 そう言って荒瀬さんは食堂の入口を見ながらため息。まさか……。



「トラブルメーカーの異世界人が二人揃ったらどうなるかって予想はしてたけど、早いね。それに少しマズいかもね」

「……何が起きるかわかるんですか?」

「敵意のある魔術師がこっちに二人向かってきてる。敵対することになったら少し面倒くさそうだな。かと言ってこっそり逃げるのも無理そうだしねぇ。宿屋の周りも囲まれてるっぽいし」



 そんなことを言ってるにも関わらずのんきに枝豆を口に放り込んでいる荒瀬さん。魔術師って結構強いんじゃないの!?もし争いになったら俺は死なないからいいけど荒瀬さんは危ないんじゃないか!?



「ど、どうするんですか荒瀬さん。魔術師って強いんでよね?」

「別に倒そうと思えば楽勝だろうけど、あっちは金を持ってるから後処理が面倒なんだよね。ここは先輩がサクッと解決してやるよ。これが終わったら俺結婚するんだ……」

「え? そうなんですか? えっと、おめでとうございます」



 少し寂しそうに苦笑いをする荒瀬さん。一体どうしたのだろうか。


 入口の方は人だかりが出来ていた。本日二度目の人だかりにうんざりする。そして見える人影。


 きらびやかな装飾が付いた青いドレスを着た大人びた女性に、正反対の赤いドレスを着た少し幼げの残る少女。この酒場みたいな食堂には場違いな服装と纏っている雰囲気に、周りは圧倒されていた。


 カツカツと二人は足音をたてながら一直線にこちらに向かってくる。でも俺はあの人達を知らない。荒瀬さんの知り合いだろうか?



「あの金髪達は俺のトラブルだからシュウト君は笑顔でも作りながら黙っててね。話を振られるかもしれないけど、俺がフォローするから何も言わなくていい」



 そうは言われてもあんな雰囲気纏ってる人を前に笑顔なんか作れる自信がない。アメリカの大統領でも前にしているかなような緊張感。心臓がやけにうるさくて今にも過呼吸になりそうだ。



「アラセ。やっと見つけたと思ったらこんな宿にいたとはね」

「これはこれは。ご機嫌麗しゅう姫方」

「ふん。気持ち悪いったらありゃしない。何よその口振りは」

「それは申し訳ございません。お気分が悪いのならばどうぞお引き取り下さい。ここは姫様には少々お早いと思いますので」



 そう荒瀬さんに笑顔で返されて早くも顔がドレスの色より真紅に染まる少女。かなり感情的な子のようだ。



「アラセ。貴方は姫を強姦しようとした罪に問われています。大人しく牢獄にお戻り下さい」

「痴漢から強姦になってしまいましたか。残念ながら私には幼い子には興味がありませんので……。何度いったらお分かり頂けるでしょうか?」

「襲おうとしたのは事実でしょう。目撃者も多くいます。……ところでその隣の青年は貴方の友人ですか?」



 青いドレスの人が俺の話題を持ちかけた。思わず顔が引き攣りそうになるが頑張って作り笑いをする。多分スマイル−100円くらいの出来だろう。



「友人だったら貴方達が来る前に避難させてますよ」

「では何故同席しているのですか?」

「失礼なことにこの人の枝豆を運んでいたウエイトレスとぶつかってしまいまして、それでお代を払うついでに自分も枝豆を頼んだだけですよ」



 よくあんな笑顔で嘘がつけるなぁ。俺だったら顔に出ちゃいそうだ。今でさえ顔が引き攣りそうだし。



「それで、自分を牢獄に入れるつもりですか?」

「えぇ。罪を償ってもらいます」

「それじゃあ逃げさせてもらいますね?」

「無駄です。この宿屋の外は兵士で包囲されていますので、逃げるのは不可能です。まぁ貴方如きなら私だけでも充分でしょうが」



 青いドレスの人に返事は返さずにスッと席から荒瀬さんが立ち上がって、何処かへ歩いていく。


 彼女達に向かって歩いている……?どうしたんだ。まさか投降するつもりなのか?それとも人質にとって脱出するのか?



「投降する気になりましたか? 少しは利口になったようですね? 前は無駄に暴れて面倒でしたしねぇ?」

「いいえ、投稿するつもりなんてこれっぽっちも無いですよ」



 言葉と行動が全然一致してない。荒瀬さんは武器も持たずにただ彼女達に向かって歩いている。もしかして俺に何か合図でも送っていたのか?


 しかし助けるといっても無闇に俺が突っ込んでは意味がないだろう。ここはやっぱり何もしない方がいいんだよな? 不安だ……。


 彼女達の横を普通に通り過ぎようとする荒瀬さん。当然青いドレスの人が腕を掴もうとする。しかもかなり速い。どうやらただのお姫様ではないようだ。


 しかしその腕は掴まれることはなかった。でも荒瀬さんが避けたような動作をしていなかった。……どうなってるんだ?



「一体、何をしたんですか?」

「さぁ? 貴方が単にノロマなだけじゃないですかね?」



 青いドレスの人はすぐに荒瀬さんに向かって体当たりするが、ただスルッと体を突き抜けただけだった。そのままバランスを崩して転ぶと思いきや、彼女は危なげに踏みとどまった。まるで荒瀬さんが実体がない幽霊にでもなったみたいだ。何かの魔法か何かかな?


 今度は赤いドレスの人が捕まえようとタックルするが、彼女が派手に転んだこと以外はさっきと変わらなかった。実態のないホログラムにでもタックルしているような感じだ。傍目から見ていると少し不気味だ。



「何ですこれは……」

「二年前は俺なんてすんなりと組み伏せられたのに触れることも出来ないなんて、ねぇ今どんな気持ち? 雑魚だと思ってた俺に触れられない気持ちってどんな気持ち? 俺はこんな気持ちです、滑稽すぎてお腹がよじれそうですよ。ククッ」



 そう荒瀬さんは心底楽しそうに言った後ポケットを叩きながら俺にウインクしてきた。そして何かを言う暇もなくそのまま走り去ってしまった。二人の姫方は何かを叫びながらその後を追っていった。


 食堂のみんなは心ここにあらずといった感じだった。竜巻がが過ぎ去ったような雰囲気だ。誰一人喋ろうとしないし物音もしない。 


 ……なんかあっという間に消えていった俺と同じ異世界人、荒瀬さん。でも異世界人が俺一人じゃないとわかった。


 俺は一人じゃなかった。ただそれがわかっただけでも俺はよかった。


 それに次々とトラブルが起こるのも神様の仕業らしい、ということも大きい収穫だ。あの神様少女を問い詰めたいが出来ないのが悔しい。一体何が目的なのだろうか?


 枝豆を上に投げて口でキャッチして遊びながら考えていると、枝豆が怒ったのか直接喉に潜り込んできた。気管に入ったようで思わず咳き込む。



「うぇっ。ウエイトレスさんお茶を下さい」

「ふぇ? あ! はい! すぐお持ちします!」



 ふぇ?なんて言う人初めてみたよラッキー、なんて思いながらすぐに来たお茶を飲み干して枝豆を胃へ押し込んだ。死ぬかと思った……。


 そして徐々に元の雰囲気に戻っていく食堂。俺は枝豆を食べ終えていそいそと自分の部屋に戻っていくのであった。

前の更新遅れたので早めに投稿。月曜日にバイトが入ってしまったぁぁ。まぁ頑張ります。

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