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孤高の塵人  作者: dy冷凍
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第一章

 遅い。とにかく遅い。


 そろそろ日付が変わってしまう時刻。時間を守らないバスに苛立ちながらも俺はため息をついた。そのため息は白い靄になって暗い空に消えていく。


 普通の高校生二年生の俺がこんな夜分に何故バスを待っているのかは、時間を九時間程遡らなければいけない。まぁバスが来るまで回想して暇でも潰すとしようか。



――▽▽――


 

 そう。今思い返せばあの時友人が生徒会の仕事手伝えとか言ったのが悪いんだ。てか俺、生徒会に入ってないよな!? 何故に無理矢理教室から連れ出されたし!


 

 そして嫌々生徒会室に入ると書類と睨めっこしてる見知った生徒会の方々。生徒会長の友人は教師と話があるらしく、どっかに行ってしまった。


 適当に並べられている席に座って乱雑に置かれている書類を整理する中、十人の内早くも四人がノックダウン。やる気ねぇな! そこのカップルはピンク色の空気醸し出しながらイチャつくな!


 相変わらず自由すぎる生徒会のメンバーにツッコミを入れながらもやっと整理し終わった書類に目を通し、いらない文章はカットしていく作業を黙々と続ける。


 すると隣に座っていた親友が肩を叩いてきた。作業が終わったのかと思って首を向けたら、その作業に飽きたからちょっかいを出してきただけらしい。

 


「そういや、相変わらず会長は修斗しゅうとにベッタリだねぇ。そろそろ会長の苗字は鎌夜かまやになるのかな?」

「馬鹿なこと言ってないでこの書類を消化しやがれ馬鹿野郎」

「ひでぇ言いようだなぁお前。俺は傷ついた。ジュース奢れ」

「今お前は彼女の水筒持ってんだろうが。何だっけ。こんな時にお前に送る最高の台詞を教えて貰ったんだが……」 



 親友はピンクの水筒をコップに傾けながら考えるように頭を抑え、何か思い浮かんだのかパッと明るい表情になる。



「リア充爆発しろ?」

「そう、それだ。まぁ俺だったら彼女持ちは事故に遭えって思うけど」

「現実味があって洒落にならんわ。てか、お前女子から評判いいだろ。鎌夜君と一緒にいると面白いーって口を揃えて言ってるぞ」

「……そうかよ」



 君といるのは楽しいけど恋愛対象には見れないの、なんて言葉がおまけに付いてくるけどな。どうせお前みたいにモテはしませんよー。クッソ!



「まぁお前は会長いるからいいじゃん」

「言っとくがあいつ他に好きな奴いるからな。いつも俺に相談してくるぞ。サッカー部のあの人格好いいとか、副会長が好きでしょうがないとか」

「……じゃあ俺はどのくらい好きなの?って聞いてみ――悪かったからその固く握り締めた拳を下ろしてくれ。落ち着いて話をしようじゃないか。お茶でも飲みなさい」

「さりげなく水筒を勧めてくるんじゃねぇ! お前わざとだろ!? 悪意が透けて見えるわ!」



 周りはこういう話題になると必ず友人を薦めてくるが、俺は友人が好きなのかはわからない。長年一緒にいたってのと……まぁ、いいや。別にどうだっていい。


 そんなこんなで夕方。作業が一通り終わったので帰ろうとしたら友人が生徒会で打ち上げやるよー、なんて言い始めた。俺には関係ないと聞き流してバッグを肩に背負ったら、何故か友人に十字固めを決められた。マジで理由がわからない。


 何とか脱出して痛む腕を抑えていたら友人が生徒会室を出る間際に来い、と一言。これが……あれか、ツンデレってやつか? 凄い気持ち悪い。


 

 生徒会の打ち上げは馴染みの居酒屋で開催。お前生徒会じゃなくね? って冗談混じりに言ってきた生徒会員達は頭を引っぱたいてやった。もちろん女子には生クリームもびっくりするくらいソフトに叩いたよ?


 

 そして友人は調子乗って酒を頼んだ。学生服着てる奴に売ってくれるはずはなく、馬鹿にしていたらバックから缶ビールを取り出して一気飲み。酎ハイ一杯で酔う友人がビールを飲んだのでぶっ倒れる。打ち上げが終わった後は何故か俺がおんぶして帰るハメに。

 


 背中に微かだが柔らかい物を感じて少しドキッとしたが、口を抑えてトイレに行く姿は女らしさの欠片も見当たらない。そしてコイツの家は徒歩で二時間。バスに乗ったら車内が酸っぱい臭いに包まれそうだから徒歩だ。重いって言ったら殴られた。理不尽だ。


 一時間くらい歩いただろうか。そろそろ酔いは覚めたかなと思って話しかけてみる。




「長時間おんぶするのはキツいんだが。そろそろ酔いも覚めただろ?」

「そういえば修斗におんぶされるなんて小学校以来じゃない? 成長した私の体でドキッとしちゃったのかなー?」



 駄目だコイツ。会話が成立してない。吐いた次は絡み酒とか性質悪すぎだろ。それにトイレで背中摩ってる時点でそんな感情消え失せてるわ。



「修斗は彼女作らないのー?」

「生憎、どれだけ頑張っても友達以上恋人未満しか出来ないからな」

「そっかー! えへへー。このー!」



 うるせぇ。何だこいつ。てか、髪の毛掴むな! 振り落とそうとしても友人は離れない。凄い面倒くせぇ!



「修斗は幼稚園の時に私をお嫁さんにするって言ったもんねー!」

「勝手に妄想するな。第一、幼稚園お前と一緒じゃないし」

「じゃあ小学校の時に苛められてる私を助けて、俺が一生守ってやるって……」

「言ってねぇ! そもそもお前苛められるような性格してないだろうが!」

「じゃあ中学校の時……」

 


 そんなやり取りを続けながら友人の家まで歩いてやっと着いたと一息ついたら、友人はケロッとした様子で俺の背中から飛び降りてアッカンベーをしてきた。相手にしないと拗ねるが放置。だって時間午後十時だしもう眠かった。



 修斗のバカーって後ろから聞こえるが気にしない。ついでに携帯の電源も切っておく。これで俺は自由だー。



 それで近くのバス停でバスを待つも来ないと。はい回想終わり。

 


 もうすでに時刻は十一時半。引き返して泊めてもらおうか悩んだが、友人がツンケンしそうなので却下。そもそも高校性で異性の家に泊まるのは親に許されないだろう。……まぁ友人の親とは仲が良いから許されそうだけど。


 

 そんな事を考えていたらやっとバスが来た。プーッと俺の怒りを表すようなうるさい音が鳴って扉が開く。


 

 乗客は誰もいない。まぁ人通りが少ないし気にしない気にしない。一人席に座ると思わず欠伸が漏れた。自分が降りる所は終点だし寝てしまおう。


 

 微かな振動とバスの快適な室温に負けて、俺は意識を手放した。

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