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レクサス転生――ローン付きSUVで始める異世界物流革命  作者: しばたろう


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8/10

08箱が縮めた距離

 タカセ式懸架馬車は、街の注目を集めた。


 馬車組合には次々と注文が入り、

 生産体制を強化するも、追いつかない。


 鍛冶場では板バネを打つ音が止まず、

 大工は夜遅くまで荷台を組み上げた。


 揺れない馬車は、読みどおり――


 陶器、薬品、ガラスといったデリケートな品。

 そして、快適さを求める商人や貴族の需要を、確実に掴んだ。


 料金は通常より割り増しに設定した。

 それでも客足は途絶えない。


 値段重視の依頼は、従来の馬車。

 安全性や快適性を求める依頼は、タカセ式懸架馬車。

 そして最上級――緊急や長距離は、レクサス。


 サービスの差別化は、見事に機能した。


 立ち上げに追われる日々が続いたが、

 ようやく生産は軌道に乗り始めた。


 その頃、俺は次の一手を打つことにした。



 タカセ式で得た資金を使い、

 馬車大工に木箱をいくつか作ってもらった。


 すべて同じ大きさ。


 横も、縦も、高さも、寸分違わぬ規格。


 箱の統一。


 すなわち――コンテナ化だ。


 最初の一手は、派手だった。

 揺れを消す。目に見える革命。


 だが、次は違う。


 地味だ。

 しかし――


 物流会社で働いていた俺には、わかる。


 こいつの威力は、サスペンション以上かもしれない。



 ある日。


 その木箱を、タカセ式懸架馬車に積み込み、

 馬車組合を訪れた。


 作業場で、ドミニクとグレインが待ち構えている。


 ドミニクは、すでに目が輝いていた。


「タカセ、今度はなにを見せてくれる?」


 前のめりだ。


「今回は、これです」


 俺は、荷台を指し示した。


 同じ大きさの木箱が、整然と積み上げられている。


 横に二箱。

 縦に二箱。

 奥に三列。


 合計、十二箱。


 隙間は、ない。


「……箱?」


 ドミニクが、肩透かしを食らったような顔をする。


 グレインも腕を組んだまま首をかしげる。


 俺は、にやりと笑った。


「ええ。箱です」


 そして、ゆっくりと言う。


「ですが――これは、積み方を変革する箱です」


 空気が、わずかに張りつめた。


 ここからが、本番だ。

 

 ドミニクが腕を組む。


「……積み方を変革する箱、だと?」


「ええ」

「実際に積み替えを見てください」


 荷捌き場に、二台の馬車を並べた。


 一台は到着した馬車。

 もう一台は、これから出る馬車。


「同じ量を、積み替えます」


 御者を呼び、作業をお願いする。

 

 まずは従来方式。


 到着馬車から、袋や樽を一つずつ降ろし、

 出発馬車へ積み直す。


 隙間を藁で埋め、縄で縛る。


「……十三分」


 ドミニクがうなずく。

 いつも通りだ。


「次は箱です」


 到着馬車には、同じ大きさの木箱を十二箱、整然と並べてある。


 作業人がその箱を持ち上げ、

 そのまま出発馬車へ運ぶ。

 決められた位置に置く。


 調整はない。


 十二箱を移し終え、縄を一周。


「三分」


 場が静まった。


 ドミニクが低く言う。


「……速すぎる」


「箱が揃っているだけです」


 俺は答えた。


「止まる時間が減れば、同じ馬で、もう一便走れます」


 ドミニクが箱を見つめる。


「……箱が、時間を生むのか」


 ドミニクは、箱から目を離さなかった。


 派手さに目を奪われない。

 積み替えの速さでも、箱の整然さでもない。


 時間という本質に、真っ先に辿り着いた。


「ええ。時間こそ、利益です」


 俺は静かにうなずいた。


「馬車が止まっている時間が減れば、同じ馬で、同じ人手で、もう一便走れます。

 それだけで収益は伸びる。しかも、破損は減る」


 グレインが小さく息を呑む。


 ドミニクは、箱から目を離さず、低く唸った。



「うーむ……」


 腕を組み、しばらく考え込む。


「すべての荷を同じサイズの箱にするだけで、

 街全体……いや、国全体の物流効率が上がる、というわけか」


 その言葉は、大げさではない。


 箱が揃えば、馬車も揃う。

 倉庫も揃う。

 積み方も、作業時間も、読めるようになる。


 物流が、偶然から計画へ変わる。


 一拍置いて、ドミニクが顔を上げた。


「気に入った」


 その目には、確信が宿っている。


「話を進めよう。タカセ、この先、どう進める?」


 俺は羊皮紙を広げた。


「まずは、標準寸法の決定。

 次に、箱の製作工房の確保。

 それから、使用規定を作ります」


「使用規定?」


「はい。重量上限、封印方法、番号管理。

 そして――箱は組合の資産として管理する」


 ドミニクの口元がわずかに上がる。


「つまり、箱ごと貸し出す仕組みか」


「ええ。箱は回収します。

 回収すれば、何度でも使える」


 グレインが言った。


「それなら、商人も初期負担が少ない」


 ドミニクがゆっくりとうなずく。


「……やるなら徹底的にやる。

 ベルクス標準箱として、公式に制定しよう」


 作業場の外では、

 いつものように馬のいななきと人々の声が交じり合っていた。


 揺れを減らした次は、滞りを消す。


 革命とは、こういうものかもしれない。

 目立つところよりも、目立たないところで世界は変わる。


 俺は静かに思った。


 これで、ようやく――

 本当の物流改革が動き出す。

 


 俺は、

 出来上がったベルクス標準箱をタカセ式懸架馬車に積み込み、

 アンナの牧場へ向かった。


 荷台には、同じ寸法の木箱が整然と並んでいる。

 角は補強され、側面には小さく「ベルクス標準」の焼印。


 牧場に着き、箱を一つずつ降ろす。


 アンナが腕を組み、首をかしげた。


「箱?」


 怪訝そうな顔だ。


「ただの箱じゃないよ」


 俺は軽く叩いてみせる。


「じきに、皆、この箱を使い始めることになる」


「……どういうこと?」


 俺は簡単に説明した。


 寸法を統一すること。

 積み替えが速くなること。

 隙間なく積めること。

 破損が減ること。


 アンナの目が、ぱっと明るくなる。


「すなわち、時間の短縮ね!」


 ドミニクと同じ言葉。


 思わず笑ってしまう。


 さすがだ。理解が早い。


「牧場の商品も、これからはこの箱を使って運ぶといい」


 乳樽も、乳製品も、卵も。

 箱に入れて、決まった位置に置くだけ。


 アンナは箱を撫でながら、うなずいた。


「そうするわ。いつも、ありがとう」


 にこっと笑う。


 ……かわいい。


「ねえ、この箱も、私が一番最初なの?」


 ふいにアンナが聞いた。


 俺は、そばの箱に手を置いたまま、うなずく。


「ああ、そうだよ」


 言ってから、アンナの視線に気づいた。


 じっと、まっすぐに俺を見ている。


「ねえ、どうして?」


 前にもされた質問だ。


 そう――タカセ式懸架馬車を贈ったとき。


 あのときは、

 ――一番大事な人だから。

 そう言いかけて、のみ込んだ。

 その一言が、未来を変えてしまいそうで。


 だが今、アンナの瞳に見つめられ、

 逃げ場を失う。


 「一番大事な人だから」


 気づけば、言葉はもう、外に出ていた。


「あ」


 時すでに遅し。


 アンナは目を丸くし、それから、いたずらっぽく笑った。


「どうして今なの?」


「いや、それは……」


 口の中が急に乾く。


「タイミングというものが……」


 自分でも何を言っているのか分からない。


 どぎまぎしていると、アンナが一歩近づいた。


 そして、そっと俺を抱きしめる。


「そういうところが、あなたらしいわ」


 胸の奥が、じんと熱くなる。


 なにが起きているのだろう。


 革命だの、標準化だのと騒いでいたはずなのに、

 今はそれどころではない。


 俺も、おそるおそる、アンナを抱きしめた。


 夕陽が牧場を橙色に染める。


 どうやら、

 忘れられない夕暮れが、またひとつ増えたようだ。

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