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レクサス転生――ローン付きSUVで始める異世界物流革命  作者: しばたろう


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6/11

06レクサス、商隊を率いる

 貿易都市ヴァルテッサへ続く道を、

 二十台の荷馬車が進んでいた。


 隊列は縦に長い。


 中央と最後尾には護衛の冒険者が同乗している。


 そして――


 先頭をゆくのは、俺のレクサスだ。


 黒い車体が、街道を滑るように走る。


 助手席にはアンナ。


 初めての遠出がよほど楽しいのか、鼻歌を歌っている。


 げんきんなものだ。

 だが、俺も人のことは言えない。


 アンナとふたり、ロングドライブ。


 言い方次第では、デートと言えなくもない。


 だが。


 アンナのいで立ちは、まったく色気がない。


 しっかりとした冒険者装束。

 頭には矢避けの額あて。

 腰には剣。

 手には杖。


 完全に戦闘モードだ。


 残念ながら、甘い空気とは程遠い。



 出発してから一日が経過していた。


 レクサスが先頭を走る効果は、確実に感じられている。


 獣に遭遇することはあった。


 だが、見慣れない黒い塊に警戒しているのか、近づいてこない。


 夜間は特に顕著だった。


 ヘッドライトが森を切り裂く。


 闇の奥で光る獣の目が、すぐに遠ざかっていく。


 馬は怯えず、隊列は乱れない。


 それだけで、十分な抑止力だ。


 ドミニクの読みは正しかった。



 そして、二日目。


 荷馬車隊は森の中の路に入った。


 これを抜ければ、ヴァルテッサは近い。


 日は高い。


 だが左右から迫る木々が、空を細く切り取っている。


 道幅は狭い。


 見通しも悪い。


 俺は無意識にアクセルをゆるめた。


「静かすぎるわね」


 アンナがつぶやく。


 鳥の声がない。


 風も弱い。


 妙な圧迫感がある。


 だが――


 ここまで順調だった。


 このまま無事に到着できる。


 そう思った、次の瞬間。


 雄たけび。


 同時に、前方左右の森から人影が飛び出してきた。


 十人……いや、それ以上。


 手に武器。


 弓を構える者。


 斧を振り上げる者。


「盗賊だ!」


 アンナが叫ぶ。


 ヒュン、と風を裂く音。


 矢が飛ぶ。


 荷馬車の馬がいななく。


 隊列が揺れる。


「くそ……!」


 俺はハンドルを切った。


 レクサスを前方へ出す。


 ガン、と鈍い衝撃。


 一本の矢がフロントガラスに弾かれる。


 傷ひとつ付かない。


「この馬車……!」


 盗賊の一人が目を見開く。


 レクサスは止まらない。


 むしろ加速する。


 エンジン音が森に響く。


 黒い塊が突進する。


 正面に立っていた盗賊が、慌てて横へ飛び退いた。


「ば、化け物か!」


 その隙に、荷馬車隊は隊列を整える。


 中央と後方の冒険者が剣を抜き、応戦を開始した。


「アンナ!」


「まかせて!」


 窓を半分下げる。


 アンナが杖を振りかざす。


 その先端に、赤い光が集束する。


 空気が震える。


 轟、と唸りを上げ、拳大の火球が一直線に飛んだ。


 盗賊の足元で炸裂する。


 爆ぜる衝撃。


 地面が抉れ、土煙が舞い上がる。


 悲鳴。


 吹き飛ばされる盗賊たち。


 俺はすぐさまハンドルを切り、レクサスを盗賊の正面へ向けた。


 エンジンが唸る。


 黒い車体が森の中を駆け回る。


 質量と速度。


 盗賊たちは近づけない。


 怯え、距離を取る。


 その隙を、アンナは逃さない。


 窓越しに次々と火球を放つ。


 炎が弧を描き、炸裂する。


 的確だ。


 無駄がない。


 次々と地面に沈む。


 残った連中は、完全に浮足立っていた。


 だが――


 森の奥から、ゆっくりと現れた影があった。


 他より一回り大きい男。


 重装備。


 手には長弓。


 目は冷静。


 ただの雑魚ではない。


 男が静かに狙いを定める。


 俺ではない。


 後方の荷馬車。


「させるか!」


 咄嗟にアクセルを踏み込む。


 レクサスを急発進させ、大男へ一直線に突っ込む。


 一気に間合いが縮まる。


 男は横へ跳び、かわす。


 だが、即座に背から大剣を引き抜いた。


 重い鉄が陽光を反射する。


 同時に、アンナがドアから飛び出した。


 地面に着地。


 剣を抜き、大男へ一直線に踏み込む。


 大剣が振り下ろされる。


 重い一撃。


 アンナは紙一重でかわし、太刀を浴びせる。


 火花が散る。


 だが男も手練れ。


 受け、流し、反撃。


 重い斬撃が地面を抉る。


 拮抗。


 勝負がつかない。


 ふと、脳裏によぎる。


 ハインツとの稽古。


 あのときの、張り詰めた空気。


 この男――


 ハインツと同等か、それ以上。


 そう思った瞬間、背筋が冷えた。


 アンナの分が悪い。


 だが。


 焦りはない。


 事前に申し合わせていた。


 ひとつの作戦。


 レクサスが、『隙』を作る。


 アンナの指先が、ほんのわずかに動く。


 ――今だ。


 俺はハンドル中央のクラクションを、思いきり押し込んだ。


 ブゥゥゥゥ――――ッ!!


 森を震わせる大音量。


 空気を裂く重低音。


 鳥が一斉に飛び立つ。


 大男の動きが、一瞬止まった。


 わずかな硬直。


 その一瞬を、アンナは逃さない。


 踏み込み。


 閃光のような一太刀。


 剣先が男の喉元を突き抜ける。


 大男の目が見開かれる。


 次の瞬間、巨体が崩れ落ちた。


 地面が揺れる。


 勝負はついた。


 残党たちは統率を失い、一斉に森へ逃げ出す。


 追う必要はない。


 俺は深く息を吐いた。


 乗り切った。


 後方から、仲間たちの歓声が上がる。


 こちらは全員無事だ。


 軽傷者の治療を済ませ、隊列を整える。


 再び先頭へ。


 レクサスが森の道を進む。

 


 森を抜けた瞬間、視界が一気に開けた。


 どこまでも続く平原。


 黄金色に揺れる麦畑。


 その先に――


 白い石壁に囲まれた巨大都市が広がっていた。


 塔がいくつも立ち上がり、

 中央にはひときわ高い時計塔。


 街道はまっすぐ都市へ伸び、

 荷馬車、旅人、商隊がひっきりなしに行き交っている。


 貿易都市ヴァルテッサ。

 四方の街道が交わる交易の要衝だという。


 二十台の荷馬車が列をなして門へ向かう。


 門前は混雑していた。


 荷を積んだ馬車が列をなし、

 商人たちが声を張り上げ、

 門兵が入市税を確認している。


 喧騒。


 だが――


 黒いレクサスが先頭に現れた瞬間。


 ざわり、と空気が変わった。


 人々の視線が、一斉にこちらへ向く。


 さざ波のようなざわめきが広がる。


「きいたことがある……」


 誰かがつぶやく。


「ベルクスの鉄の馬か!」


 その一言で、ざわめきが爆ぜた。


「噂のやつだ!」


「馬なしで走るって本当か?」


 あっという間に、荷馬車隊の周囲に人だかりができる。


 子どもが駆け寄り、目を輝かせる。


 商人が腕を組み、値踏みする。


 冒険者が興味深げに車体を見上げる。


 門兵でさえ、槍を持ったまま目を奪われている。


 レクサスは何もしていない。


 ただそこにあるだけで、場を支配している。


 アンナは窓から身を乗り出し、得意げに手を振った。


「レクサスっていうのよ! すごいでしょ?」


 歓声が上がる。


 俺はハンドルを握りながら、ふと記憶をたどる。


 ベルクスの街を、初めてレクサスで走った日。


 あのときも、人々は足を止めた。


 だが、今は違う。


 噂が先に走り、

 期待が積み上がり、

 物語になっている。


 俺はただ運転しているだけだ。


 それなのに。


 まるで凱旋の主人公のような気分になる。


 悪くない。


 むしろ――


 かなり気分がいい。


 アンナが横で小さく笑う。


「タカセ、あなた、まるで、英雄みたいね」


 英雄か。

 

 ただの運転手なのだがな。

 


 その夜。


 宿屋の食堂では、無事に食糧輸送を成し遂げた祝いの宴が催された。


 長テーブルには肉料理とパンが並び、

 大きな樽からは酒が次々と注がれていく。


 昼間の緊張が嘘のように、笑い声が響いていた。


 俺とアンナは、荷馬車隊の商人たちや護衛の冒険者に囲まれている。


 肩を叩かれ、杯を差し出され、話しかけられる。


 完全に主役だ。


 特にアンナは――


 モテモテだった。


「見事な火球呪文だった!」


「あの大男相手にあの大立ち回り、すごかったぞ!」


「さすが、ハインツの娘だ!」


 男たちが口々に昼間の戦いを語る。


 アンナは鼻を鳴らす。


「いやあ、それほどでも~」


 そう言いながら、ジョッキをぐびぐびと空けている。


 一方で――


「レクサスといったか、お前の馬、すごいな」


「どうやって動いているんだ?」


「今度、乗せてくれよ」


 レクサスもまた、完全に人気者だった。


 出発前、彼らはどこかよそよそしかった。


 得体のしれない“鉄の馬”。


 同業を脅かす存在。


 警戒されていたのは間違いない。


 だが。


 先頭を走り続けたレクサス。


 夜の闇を裂いたヘッドライト。


 盗賊の矢を弾いたボディ。


 そして最後の一戦。


 あの瞬間から、空気が変わった。


 競合ではない。


 脅威でもない。


 仲間だと。


 同じ隊列を守る者だと。


 そう認められた。


 俺も、できることなら仲良くやっていきたい。


 奪うのではなく、並んで走る。


 そのほうが、ずっといい。


 この仕事を受けて、本当によかった。


 心から、そう思った。

 


 翌朝、俺たちは帰路に着いた。


 レクサスのハンドルを握り、何気なくメーターを見る。


 四目盛。


 出発前より、一つ増えている。


 俺は思わず笑った。


 きっと、この旅の成果だ。


 それに気づいたアンナが、身を乗り出す。


「やったじゃない!」


 差し出された手に、俺は応えた。


 パン、と軽い音が車内に響く。


 俺も少しずつ成長している。


 レクサスに頼るだけじゃない。


 アンナに守られるだけでもない。


 いつか、肩を並べて走れる。


 そんな気がした。

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