表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/42

第39話 「悪役の在庫処分と、解き放たれる最高傑作」


 【王都・北区画 時計塔前】


 俺は肺が焼き切れるほどの全力疾走で、北区画の要所『古の時計塔』へと駆け上がっていた。


 息を整える暇もない。俺が最上階の鐘つき堂に躍り出た、その瞬間だった。


 ズドォォォォォン!!

 北の城壁が崩れ去り、絶望が雪崩れ込んできた。


          ◇


 【市街地・地上】


 そこは、瞬く間に本当の地獄と化した。


 破壊された城壁から雪崩れ込んできたのは、巨大な狼型の魔獣『ブラッド・ウルフ』の群れ。


 管理された「イベント用」の魔物とは違う。飢え、涎を垂らし、人間を「餌」として認識している捕食者たちだ。


「ぎゃあああああ!!」


「助けて! 騎士様! カイル様ぁぁッ!!」


 逃げ惑う市民たちが、次々とその牙にかかり、路地が赤く染まっていく。


 駆けつけた騎士団も無惨だった。彼らは「英雄の引き立て役」としての戦い方しか知らない。本気で殺しに来る野生の魔獣に対応できず、鎧ごと食いちぎられていく。


「……ひっ、ひぃぃ……!」


 ある騎士が剣を捨てて尻餅をついた。目の前には、三匹のブラッド・ウルフ。


 絶望。死。


 その時。


 ヒュンッ――ドォォォォォン!!


 一匹のウルフの頭上で、爆音が弾けた。


 閃光と爆音。敏感な聴覚を持つウルフたちが、キャンッ!と悲鳴を上げて怯む。


「……え?」


 騎士が空を見上げる。


 壊れかけた時計塔の上に、黒いコートの男が立っていた。


 手には、昨日の放送機から引き抜いた「拡声の魔石」。


 男はニヤリと笑い、戦場全体に響く声で言い放った。


『――よう、こんばんは。平和ボケした家畜の皆さん』


 その顔。さっき、放送で流れた手配書の男。


「……あ、あいつは、、悪魔……レイ……!?」


 男は魔石を通じて、堂々と宣言した。


『俺が、カイルを壊した「異端の魔術師」だ。……どうだ? 俺が呼び寄せたペット(魔獣)たちの味は?』


 嘘だ。だが、今の市民にはそれを疑う余裕はない。恐怖と憎悪が爆発する。


「貴様ぁぁぁ!! お前の仕業かぁぁ!!」


「殺してやる! 白金貨100枚だ!!」


 レイは鼻で笑った。


『ハハッ! いい顔だ。さっきまでの泣きっ面よりマシだぜ』


『欲しいか? この首が。金が。……なら、ここまで上がってこいよ。俺を殺せば一生遊んで暮らせるぞ?』


『ただし――俺に辿り着くには、そこのワンちゃんたちをどかさないとなぁ!』


 レイは懐から油瓶を取り出し、ウルフの群れのど真ん中に投げ込んだ。


 ガシャーン!


 松明の火が引火し、魔獣たちが怒り狂って時計塔へ殺到する。


『さあ、開戦だ! 魔物に食われて死ぬか、俺を殺して億万長者になるか! ……好きな方を選びなッ!!』


          ◇


 【時計塔・内部 螺旋階段】


 そこは、阿鼻叫喚の地獄から、奇妙な熱狂の狩り場へと変貌していた。


 城壁を突き破った数百の魔獣『ブラッド・ウルフ』。それらが、時計塔の上に立つたった一人の男を目指して殺到している。


 そして、その後ろから。


「うおおおおッ!! レイだ! あいつを殺せば白金貨100枚だ!!」


「魔物ごときに横取りさせるな! あの首は俺のもんだ!」


 恐怖を欲望で塗りつぶされた市民たちが、鍬や斧、安物の剣を手に雪崩れ込んでくる。


 魔物は「肉」を求め、人間は「金」を求める。


 その二つの波がぶつかり合い、皮肉にも戦線が拮抗していた。


「……計算通りだが、趣味の悪い絵面だな」


 俺は階段の手すりから下を見下ろし、鼻を鳴らした。


 外では、俺を殺そうとする市民が、結果的に魔物の足止めをしている。


 これこそが、英雄不在の街を守るための、俺なりの『防衛システム』だ。


 ガァァァッ!!


 市民の壁を突破したウルフの群れが、階段を駆け上がってくる。


 その数、20体以上。


 狭い螺旋階段が、黒い獣で埋め尽くされる。


『レイ! 来るわよ! 魔力障壁、展開……』


「いらねぇよ、ルミナス」


 俺は懐から、赤い粉が詰まった樽を取り出した。

 ジャックの診療所にあった在庫処分品、『激辛・火吹きパウダー』だ。


「英雄様は聖なる光で浄化するが……悪党はスパイスで味付けするんだよッ!」


 俺は樽を蹴り飛ばした。


 樽は階段を転がり落ち、魔物の群れの真ん中で砕け散る。


 ボフッ!!


 充満する真っ赤な粉塵。


 ブラッド・ウルフは嗅覚が鋭い。人間の数千倍とも言われるその鼻に、濃縮された辛い匂いが直撃した。


『キャインッ!? クゥゥゥ〜ンッ!!』


 さっきまでの獰猛な咆哮が、情けない悲鳴に変わる。


 魔物たちが涙と鼻水を垂れ流し、のたうち回って後続の魔物を巻き込んで転げ落ちていく。


「……へっ、ざまぁみろ。呼吸器系を持つ生物なら、唐辛子は平等に効くんだよ」


 俺はさらに、階段に『機械油』を流し込んだ。

 ツルツルと滑る床。


 前が見えず、足元もおぼつかない魔物たちは、次々とドミノ倒しになって下層へ落ちていく。


 魔法も剣技も使わない。


 ただの「物理」と「悪知恵」による、一方的な虐殺(処理)だ。


          ◇


 だが、小細工だけで凌げるほど、野生の数は甘くなかった。


 ズドォォォォン!!


 分厚い石壁が外から粉砕され、巨大な影が飛び込んできた。


 通常の三倍はある巨体。群れの統率個体アルファ、『キング・ブラッドウルフ』だ。


 こいつは違う。


 俺が撒いた激辛パウダーを浴びても、殺意に満ちた目で、群れを統率する「敵(俺)」だけをロックオンしている。


「……チッ、大物が釣れちまったか」


 俺は機械室の中央で、鉄パイプを構えた。


 逃げ場はない。


 ガァァァァッ!!


 キングウルフが飛びかかってくる。速い。

 ガキンッ!!


 咄嗟に突き出した『ミスリルの鉄パイプ』が、その巨大な牙を受け止めた。


「ぐっ、ぅ……ッ!!」


 重い。ダンプカーに衝突されたような衝撃。


 奴はパイプごと俺の頭を噛み砕こうと、顎に力を込める。ミシミシと金属が悲鳴を上げ、俺の腕の骨がきしむ。


『……レイ! 離れなさい! 食われるわよ!』


 ルミナスの焦った声が響く。


「……いや、離さねぇ。……これ、チャンスだろ」


 俺は脂汗を流しながら、ニヤリと笑った。


「なぁルミナス。……俺はずっと、こいつに悪いと思ってたんだ」


『は? 何言ってんの、こんな時に!』


「ガンテツの親父は言ってた。『魔力もねぇのに可変式なんて宝の持ち腐れだ』ってな。……俺のせいで、こいつはずっとただの『硬い棒』扱いだった」


 俺はパイプを強く握りしめた。


 あの日、怒るガンテツから無理やり奪ってまで持ってきた、俺の相棒。


 こいつはポンコツなんかじゃない。使いこなせない俺がポンコツなだけだ。


「待たせたな。……やっと、お前の本当の力を見せてやれる」


 俺は叫んだ。


「俺には魔力がねぇ! ……だからルミナス、お前の力を貸してくれ!」


『……え?』


「俺がイメージを描く。お前が魔力(燃料)を流せ。……こいつは『可変式バリアブル』だ! 魔力さえありゃ化けるんだよ!!」


 俺の必死の叫び。


 ルミナスが一瞬息を呑み、そして力強く答えた。


『……もう! 任せなさいよ、無茶苦茶な男!』


 カッ!!


 俺の腕輪が眩い光を放ち、膨大な魔力がパイプへと流し込まれる。


 ガンテツの親父が仕込んだ複雑な機構が、始源精霊の魔力によって、初めてその産声を上げる。


 目覚めろ、最高傑作。


 第一形態。敵を貫き、逃さないための凶悪な「パイル」!


 ガシャンッ!!


 狼が咥えていたパイプの先端が、鋭利な『突撃槍スピア』へと変形し、さらに伸びた。


「ギャンッ!?」


 口の中で急激に伸びた金属。


 鋭い切っ先が、狼の喉奥へと深々と突き刺さる。狼が驚愕に目を見開き、吐き出そうとするが、貫かれたパイプがアンカーとなって外れない。


「……まだだッ! 第二形態モード・ツー!!」

 俺は叫んだ。ここからが本番だ。


 ガンテツ、あんたは言ったよな。『槍にもハンマーにもなる』って。


 だったら――俺の理屈イメージ次第で、なんだって作れるはずだ!


「広がれッ! 『砲身キャノン』!!」


 ギギギギッ!!


 喉に突き刺さったパイプが、内側から強制的に膨張する。


 細身だった鉄パイプが、倍以上の太さを持つ「大口径の筒」へと変化した。


 狼の喉が限界まで押し広げられ、悲鳴すら上げられない。


 そこはもう、狼の胃袋へと直結する、強固なトンネルだ。


「……いい食いつきだ。仕上げだぜ」


 俺は懐から、赤い鉱石を取り出した。


 鉱山発破用の『高純度発火魔石ボム・ストーン』。 


 俺はそれを、太くなったパイプの持ち手側から、中へと放り込んだ。


 コロン、コロン……。


 乾いた音を立てて、石がパイプの中を転がり落ちていく。


 行き着く先は、パイプの先端――つまり、無防備な狼の腹の中だ。


「……腹いっぱい食ってきな」


 俺はパイプから手を離し、横へと飛び退いた。


 ――カッ、ドォォォォォォォォォンッ!!!


 狼の体内で、爆炎が炸裂した。


 逃げ場のない爆風が、内側から巨体を食い破る。


 体内からのゼロ距離爆破。


 ドサッ……。


 黒焦げになった巨体が、煙を上げて崩れ落ちた。


「……っ、ふぅ……」


 俺は煤まみれになりながら、パイプを回収した。


 直撃に耐えて無傷だ。魔力の供給が止まり、シュウウ……と蒸気を上げながら元の鉄パイプの太さに戻っていく。


 鈍く光る銀色は、あの日、怒り狂うガンテツ親父から無理やり奪い取って、工房を出た時と同じ輝きだ。


 だが、今の俺にはそれが、何よりも頼もしい相棒に見えた。


「……サンキューな、ルミナス。……やっと、ガンテツの親父に顔向けできるぜ」


『……フフッ。アンタも、その鉄屑も、しぶといったらありゃしない』


 ルミナスが誇らしげに言う。 


 俺はパイプを肩に担いだ。


 俺たちと、頑固オヤジの技術。三人掛かりで勝ち取った、これが俺たちの初勝利だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ