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第23話 「王都の門番(正しさの選別)」


 【王都グラン・ロイヤル・正門前】

 目の前にそびえ立つ城壁は、首が痛くなるほど高かった。

 門の大きさだけで、ノービスの冒険者ギルドがすっぽり入りそうだ。

 その門の前には、入国審査を待つ長蛇の列が出来ていた。

 建国記念祭を見るための観光客、商人、そして地方から集められた冒険者たち。

「うへぇ、こりゃ日が暮れるぞ……」

 カイルがうんざりした顔で列を眺める。

「計算上、このペースだと入場まで4時間待ちです」

 シリウスが冷徹な事実を告げると、リリィが柳眉を逆立てた。

「冗談じゃないわ。こんな埃っぽい場所で4時間も? 退屈だわ。」

「……ん。お腹すいた」

 不満たらたらの問題児たち。

 俺は懐から、キャサリンさんから託された『王都招集令状』を取り出した。

「仕方ない。これを見せて、優先的に通してもらおう」

 俺たちは列を抜け、門を守る騎士たちの元へと向かった。

 その中心に、一際目を引く騎士が立っていた。

 全身を純白のフルプレートに包み、胸には王家の紋章『金の獅子』。

 兜を小脇に抱え、整った顔立ちで市民を誘導している。

「はい、次は君だね。身分証を……よし、通っていいよ。ようこそ王都へ」

 物腰は柔らかいが、隙がない。

 シリウスが小声で俺に耳打ちする。

「……レイさん。あの騎士、ただ者ではありません。魔力量が桁違いです。おそらく隊長クラスかと」

 俺は唾を飲み込み、その騎士に声をかけた。

「あの、すみません。ノービスから来た冒険者パーティなんですが」

 騎士が振り返る。

 その瞳は、氷のように理知的だった。

「冒険者? 悪いが、列に並んでくれ。今日は混雑していてね」

「いえ、この招集令状を持っていまして」

 俺が封筒を渡すと、騎士は丁寧に封を開け、中身を確認した。


 次の瞬間、彼の表情が一変した。

「……! これは……キャサリン殿からの推薦状!」

 彼は慌てて姿勢を正し、後ろに控えるカイルたちを見た。

 そして、感嘆のため息を漏らした。

「なるほど……。凄まじい魔力オーラだ。一目でわかります。貴方がたこそ、地方で噂の『英雄候補』の方々ですね」

 騎士は深々と一礼した。

「失礼しました。私は王都騎士団・第3部隊長、ジェイドと申します。英雄候補の皆様を並ばせるわけにはいきません」

 ジェイドが手で示した先には、レッドカーペットが敷かれた豪華な通路があった。

 周囲の並んでいる人々からも、「おお……あれが英雄様か……」と羨望の眼差しが向けられる。

「やったぜ! やっぱ王都は話が分かるな!」

 カイルが足取り軽くレッドカーペットへ向かう。

 リリィもルナも、当然といった顔で進んでいく。

 俺もそれに続こうとした――その時だ。

 スッ。

 ジェイドの白い手甲が、俺の胸元でピタリと止まった。


「――失礼。君は、あちらへ」

 彼が指差したのは、レッドカーペットではない。

 一般の観光客たちが並ぶ、砂埃の舞う長蛇の列の最後尾だった。

「……はい?」

 俺はきょとんとした。

「いやいや、俺もこのパーティのメンバーなんですけど」

「ご冗談を」

 ジェイドは爽やかに笑った。

 悪意など微塵もない。心からの親切心のような笑顔で、彼は言った。

「君のような『一般の方』が、英雄様の通路を通ってはいけませんよ。ここは選ばれた強者だけが通る『正義の門』なのです」


「は? いや、だから俺はリーダーで……」

「それに、その装備」

 ジェイドは俺の肩に担いだ鉄パイプを見て、諭すように言った。

「荷物持ち(ポーター)の方ですよね? 業務用の搬入口は裏手にあります。……英雄様たちの晴れ舞台に、作業員が映り込んでは絵になりませんから」

 こ、こいつ……!

 悪気がない!

 俺を「英雄候補の荷物持ち」か「間違って紛れ込んだ一般人」だと本気で信じて疑っていないのだ!

「おいコラ騎士様! レイは俺たちのリーダーだぞ!」

 カイルが戻ってきて怒鳴る。

「…ん。レイがいなきゃここまで来れなかった」

 ルナも杖を構えて威嚇する。

 だが、ジェイドは動じない。

 むしろ、憐れむような目でカイルたちを見た。

「……なんと慈悲深い。荷物持ちの少年をそこまで庇うとは。さすがは英雄の器ですね」


「話を聞けよ!!」

 俺が抗議しようとすると、ジェイドは懐から水晶のような魔道具を取り出し、俺にかざした。

「では、確認しましょう。……ほら、やはり」

 水晶には、無慈悲な数字が浮かび上がっていた。

 【 レベル:1 】

 【 魔力反応:なし 】

 ジェイドは「やっぱりね」という顔で頷いた。

 周囲の観光客たちがざわつく。

「レベル1? 赤ちゃんか?」

「なんでそんな雑魚が英雄様と一緒に?」

「かわいそうに、身の程を知らないんだな……」

 ジェイドは諭すように俺の肩に手を置いた。

「いいかい、少年。君を差別しているわけではないんだ。……『区別』しているんだよ」

 彼は極めて事務的に、そして優しく言った。

「王都は危険だ。君のような『持たざる者』が、英雄たちの戦いに首を突っ込めば、君自身が傷つくことになる。……大人しく一般区画で観光を楽しみなさい。それが君のためだ」

(……うわぁ)

 俺は鳥肌が立った。

 こいつ、本気で俺の心配をしてやがる。

 「お前のためを思って排除する」。これが王都の「正義」か。


「……あのな」

 俺はジェイドの手を払い除けた。

 ここで引き下がるわけにはいかない。

「レベル1だろうが一般人だろうが、俺はこいつらのリーダーだ。……文句があるなら、その水晶じゃなくて、俺の『実績』を見て判断しろよ」

 俺が睨み返すと、ジェイドの目が少しだけ細められた。

「……実績、ですか。レベル1の君に何ができるというのです?」

「そうだな。例えば……」

 俺はニヤリと笑い、背後の空を指差した。

 そこには、先ほど俺たちが倒したワイバーンの死骸を運んできた、別の荷馬車が到着したところだった。

「あのでっかいトカゲの口……誰が『黙らせた』と思う?」

「……は?」

 ジェイドが振り返り、ワイバーンの死骸を見る。

 その口元には、魔法による火傷も、剣による切り傷もない。

 あるのは、鼻先に残る『鉄パイプで殴られたような打撲痕』だけだ。

「……魔法の痕跡がない? まさか、物理攻撃フィジカルだけで気絶させたというのですか?」

 ジェイドの表情に、初めて亀裂が入った。

 彼の常識ではありえない。レベル1の非力な一般人が、ワイバーンを打撃で沈めるなど。

 だが、事実はそこにある。

「あんたのその水晶は『正しい』よ。俺はレベル1だ。魔力もない」

 俺はパイプを肩に担ぎ直し、ジェイドを真っ直ぐに見据えた。

「だが、現実に俺はここに立ってるし、トカゲは伸びてる。……あんたの信じる『王都の常識』じゃ、この矛盾は説明できないだろ?」


 ジェイドが言葉に詰まる。

 彼のような真面目なエリートほど、こういう「計算外の事実」には弱い。

「……詭弁だ」

 ジェイドの声色が低くなった。

 空気がピリつく。

 彼から放たれる『威圧感プレッシャー』が、肌を刺すように強まる。

(……やべぇ、怒らせたか?)

 冷や汗が流れる。

 もしここで彼が剣を抜けば、俺は一瞬で首を飛ばされるだろう。

 物理で来られたら、俺に勝ち目はない。

 だが、俺は虚勢を張って笑ってみせた。

 ここで目を逸らせば、一生「荷物持ち」扱いだ。

「詭弁かどうか、通して確かめればいい。……それとも、王都の騎士様は『例外』がおっかないのか?」

 一触即発。


 正門の空気が凍りついた。


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