表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/28

幕間 「紫の観測者と深淵の策士」


 【座標不明・『境界の狭間』】


 白一色で塗りつぶされた、無機質な空間。

 そこに、傷ついた体を引きずり、一人の男が跪いていた。

 クレイドル遺跡の管理者、ヴァリウスだ。

「――申し訳ございません。……まさか、遺跡の防衛機構ガーディアンがあのような形で……小僧たちに破壊されるとは……」

 彼の声は震えていた。

 本来なら絶対的な戦力差があるはずのガーディアンが、物理法則ロジックを突きつけられて倒されたのだ。管理者として、これ以上の屈辱はない。


「――ええ、知っているわ」

 報告を遮り、鈴を転がすような艶やかな声が響く。

 虚空に浮かぶモニターを優雅に眺めていたのは、波打つ紫色の髪に、純白のローブを纏った女性。

 『理の観測者オブザーバーズ』第二席、【視る者】ソフィアだ。

「全部、見ていたもの。……あの子が『常識』なんていうふざけた理屈で、私たちが作ったシステムを破壊する様をね」

「は、はい……! それに、脱出時には『獅子王』まで現れて……私の手では手出しができませんでした」

「獅子王グレイド?」

 ソフィアはつまらなそうに鼻を鳴らした。

「彼のことなんてどうでもいいわ。……彼は『成功作(正解)』だもの」

「は……?」

「彼は私たちが構築した『英雄システム』の頂点。正しい手順でレベルを上げ、正しく強くなった優等生よ。」

 ソフィアはうっとりとした目で、モニターの別ウィンドウに映る獅子王のデータログを撫でた。

「英雄が強くなるのは良いことよ。世界の均衡を保つための『抑止力』として機能してくれるなら、大歓迎だわ」


 彼女はくるりと振り返った。

 その美貌には、妖艶な笑みが浮かんでいる。だが、瞳の奥だけは凍てつくように冷たい。

「問題なのは……『正解』じゃないあの子。レイよ」

 モニターに、レイの姿が大きく映し出される。

「レベル1のまま、システムの裏をかいて勝利した。……私のシステム・アイでも読めない『文字化け(エラー)』。許しておけば、いつか世界そのものをおかしくさせるわ」


 さらに画面が拡大され、レイの右腕に輝く銀色の腕輪――『始原精霊ルミナス』が映し出される。

「それに……あれは、我らが主、始祖神ファネス様の最高傑作。私たち『観測者』ですら触れることを許されなかった聖遺物……」

 ソフィアの声色が、一瞬にして低く、重くなった。

「許せないわね。……あんな薄汚い『一般人』が、ファネス様の寵愛を独り占めしているなんて」

 それは、純粋すぎる信仰ゆえの、ドス黒い嫉妬だった。


 彼女にとってレイは、神の愛を盗んだ「泥棒猫」なのだ。

「ヴァリウス。……貴方はもういいわ。下がって傷を癒やしなさい」

「は、はっ! ……し、しかし、王都には獅子王も戻っております。手出しをするのは危険では……」

「構わないわ。獅子王は“秩序に収まった存在”。

人間同士の小競り合いなら手は出さないでしょう。そのためにふさわしい『闇』がいるでしょう。」


 ソフィアは空中に指を走らせ、新たな通信ウインドウを開いた。

 ノイズの向こうから、深淵のような低い声が響く。

『――お呼びでしょうか。ソフィア様』

「ええ。聞こえていて? 『蛇の目』第一席、ゼクス」

 ウインドウに映し出されたのは、フードを目深に被り、不気味な仮面をつけた男の姿だった。


 下部組織『蛇のスネーク・アイズ五蛇将ペンテ・サーペント』を束ねるリーダー、【深淵の策士】ゼクス。

「ターゲットは、この少年レイ・ノーム。……建国記念祭に合わせて王都へ入るわ」

『ほう……。彼が、例の「特異点」ですか』

「ええ。少し……いえ、徹底的にイジメてあげなさい。獅子王が出てくる幕もないほどに、完膚なきまでにね」


 ソフィアの命令に、ゼクスは恭しく一礼した。

『御意。……最高のシナリオを用意してお待ちしております。彼が絶望し、自ら死にたくなるような極上の悲劇を』

 通信が切れる。


 ソフィアは再びモニターに向き直り、愛おしそうに画面の中のレイを撫でた。

「ふふ。……楽しみね、レイ。貴方のその『常識』が、この“正しい世界”でどこまで生き残れるのかしら?」

 白一色の空間に、彼女の愉悦に満ちた笑い声だけが響き渡った。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ