52話 美学の破綻点
KRM体を斬り伏せた刹那。
レイカの肩越し、
──視界の上層に、床上の回廊がうっすらと浮かび上がった。
照明に照らされた細い通路。
そこに、白衣の影がひとつ、手すりに縋って笑っていた。
「あはははっ……! 素晴らしい……!!」
声は甲高く、笑っているはずなのに震えている。
グラド・マレーン。
彼は、制御室の上層からモニター越しではなく、直接レイカを見下ろしていた。
「やはり君は例外だった、いや、“例外に仕立てられた”と言うべきか……!
美しいよ、R-Ka1032──!
どれだけ因子が暴れても、意志の火を消さない……!
これぞ、“最も人間に近い実験体”だ!!」
床に伏せたKRM体の死体すら、もはや目に入っていない。
彼の目に映っているのは、“観察の美学に酔った自己投影”だけ。
レイカはその声を聴いていた。
首筋にまだ血が滴っている。
視界の端がじわじわと滲む。
だけど、レイカの目だけは、上階の“観察者”を見据えていた。
「……あんた、見てたのね。
でもその目はもう、
“自分の計画”しか見てなかったでしょ」
「なら、今ここに立ってる“あたし”は、
もう……あんたの“記録”の外だよ」
一瞬、マレーンの笑顔が引き攣る。
しかしすぐに、さらに大きな声で笑い直した。
「ああ、そうだとも!
君がどこまで“外れる”か……
そのデータもまた、貴重な逸脱として記録しよう!
この場所が崩れる前に、全部持ち帰らねば──!」
背後のシャッターが静かに閉じる。
だが、その笑いの裏にある焦りは、
笑えば笑うほど透けていった。
まるで自分で火をつけた実験が、想定より“本物になってしまった”恐怖を
どうにか笑い声で薄めようとしているみたいに。




