表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バウンティ・ハンター レイカ  作者: 武者小路団丸


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/52

5話 雨音


 急に躍り出て腕を掴まれた。

奴の腕が肩に食い込んだ瞬間、レイカの全身から体温が抜けていくようだった。

 まるで氷のような肌。だがそれは、冷たいというより「無機質」だった。機械の部品に抱きすくめられたような錯覚に、脳が警鐘を鳴らす。


 (こいつ……人間じゃない……)


 目の前の男が、血管を浮かび上がらせながら吼えた。

 白目が赤く染まり、瞳孔がわずかに開いている。

 まるで獣――いや、それよりも底知れぬ何か。感情を装った、空っぽの仮面。蠢く怪物。


 耳元で、呼吸音すら聞こえない。


 (鼓動が……ない?)


 皮膚が、熱を持たない。

 血が通っているはずの身体に、せいの匂いが感じられない。


 全神経が危険信号を放つ。

 だが、手足が鈍い。筋肉がこわばり、反応が遅れる。


 (まずい……!)


 意識が薄れていく。


 酸素が回らない。息が詰まる。

 腕が、首が、胸が――奴に支配されていく。


 

……もう、終わりか――脳裏が白く染まった、その時だった。


 「ッ!」


 レイカは最後の力を振り絞って、腰を落とした。


 相手の体重を自分に引き込みながら、軸足をずらし、腰をひねる。

 気合と共に――払腰はらいごしを打ち込んだ。


 「――ぁああッ!!」


 自分ごと巻き込むように、男の巨体を浮かせる。

 その質量が宙を裂き、床に激突した。


 金属音と、床材がきしむ衝撃音。

 男は一瞬、動きを止めた。


 レイカは転がるように間合いを取る。

 膝が震え、視界が滲む。

「ハァハァハァハァ」

 吐息のたび、肺が焼けるようだ。

 だが――生きている。まだ、生きている。


 男の体が、起き上がろうとしていた。


 だがその動きは、さっきまでの“異常な速さ”とは違っていた。

 ゆっくりと。ぎこちなく。まるで、壊れた人形のように。


 (効いた……?)


 わからない。

 ただ、レイカは己の体に残った力を確かめるように、拳を握り締めた。


 雨音が、遠くで鳴っている。


 この夜は、まだ終わっていなかった――。


(まだ動ける……!)


 次の瞬間、レイカは全身の力を込めて突っ込んだ。

 モンスターと共に、脇のパイプラインへと転がり落ちる。


 ガンッ――頭を打ったのか、意識が霞む。

 痛みも、感覚も、徐々に遠のいていく。


 気づけば、身体が這うようにその場を離れていた。



闇夜にまぎれ車に乗り込む。今はただ――この場所から、一秒でも早く立ち去りたい。

バックミラーに映る光景が遠ざかる中、あのモンスターの近くにあった見覚えのあるケースを思い出した。


……軍で支給されていたピルケース。

あの注射の時、机に置かれていた、あれと同じデザイン。 まさか、あの時と同じもの? 


嫌な予感が背筋を這い上がる。

アクセルを踏み込み、向かうはただ一つ――奇妙な依頼をよこした、フクロウの元だ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ