第48話 こころがあるかぎり
地下最深区画。
無音の空間に、レイカの足音が吸い込まれていく。
焼却ログを消し、記録にも残らぬこの場所に、
“もう誰にも見つからない”という安堵と、微かな孤独が混じっていた。
そのときだった。
ピッ……パ……ザ……ッ……
通信機のスピーカーから、不意にノイズが滲む。
レイカは振り向かない。
だが、ノイズの奥に、確かに名前を知っている声があった。
『……R-Ka1032、聞こえるか。こちら、ツグミ・サネミ。』
『この通信は……“観察ログ”とは無関係だ。安心しろ。
君に向けて、直接繋いでる。』
レイカの目が揺れる。
『観測基地から、地下階層の“座標ズレ”を確認した。
……君が、自分の意志でそこに入ったことも。』
『だがその施設、まだ“君以外の対象”も記録を続けている。』
しばらくの沈黙。
レイカの拳がゆっくりと閉じられる。
『フクロウは、最後に“選んだ”んだな。
……俺はそれを、受け取った。
だから君に言う。』
声が、微かに低くなる。
それは“軍の技官”の言葉じゃなかった。
誰かの生き残りとして、生きていた人間の声だった。
『この先、“観察の核心”がある。
ただし、君を“記録する目”は、まだ終わっていない。』
『行くかどうかは、君の判断だ。
だが忘れるな——いま、君を見ているのは、
“記録”じゃなく、“記憶”を信じる者だ。』
通信は切れる。
ノイズも消える。
だが、レイカの胸の奥にだけ、確かに“言葉の熱”が残った。




