第46話 オリジナルは、私だけ
冷たい空気が、指先に絡む。
操作パネルの赤いボタンが、ほんの微かに脈打っていた。
【焼却:すべてのR-Ka記録と肉体データを廃棄】
その文字列を、レイカはじっと見つめていた。
刃は鞘に戻したまま。
銃も、背中の刃も、その瞬間の彼女には“記録にすら写っていなかった”。
ただ、指先が静かに動く。
ボタンの輪郭に触れた瞬間、うっすらと電子音が鳴った。
カチリ
焼却システムの起動音。
機械の心臓が低く唸るように鳴き、
背後で冷却液の配管が凍てついた音を立てる。
床下で火が走る。
管の奥で、高圧が弾けるような音がした。
「記録も、予備も、解析も、観察も……
……全部、いらない」
言葉は誰に向けられたものでもなかった。
でも、それは空間にしっかりと刻まれた。
そのとき、レイカがふっと目を伏せた。
そして、まるで“命名するように”口を開いた。
「——オリジナルは、
あたしだけでいい」
光が消え、音が止まる。
遠くで焼却シリンダーの遮断音だけが響いた。
レイカはその場から、ゆっくり背を向ける。
でも、足はすぐには動かなかった。
その肩が、ほんの少しだけ、
震えていた。
怒りではなかった。恐れでもない。
それは、焼いたあとにしか残らない“人間らしさ”の余熱だった。




