第43話 人のままで
拘束椅子の前で、レイカはただ立っていた。
装置はまだ動いていた。
アンプルはすべて投与され、フクロウの目が、ガラス玉のように濁りながら、ゆっくりと赤みを帯びていく。
肩が不自然に脈打ち、背筋がわずかに伸びすぎていた。
それでも、彼は笑った。
「……やっぱり、君は来たか」
声が、どこか遠くなっていた。
もうすぐ、自分の中の“人間”が引きずり出されて焼かれる。
フクロウはそれを知っていた。
レイカは静かに、刀を抜いた。
「……あたしが怒れば、あんたは観察ログの中で完成する。
それを狙って、ここまで演出したのよね。
でも、それでも……」
言葉を飲み込む。
そして、目を閉じた。
「……せめて、“人のまま”で、終わらせてあげる」
刀が、空気を裂く。
音はなかった。
ただ、フクロウが静かに息を吸った。
「ありがとよ……
ああ、やっぱり……
誰も……“怒りを越えて、救う”なんて……真似できなかった……
君だけは、ずっと……そうだったんだな……」
レイカの頬に、一滴、血の熱が触れた。
それは彼のものか、自分のものかも分からなかった。
装置が停止した。
赤いランプが消えると同時に、天井の監視レンズもゆっくりと格納された。
部屋は元通り、ただの空間に戻る。
人の形をしていた装置が、静かに沈黙した。
レイカは一言も発さず、その場を離れた。
その目には、涙はなかった。
でも、その歩き方が、何かを“背負った重さ”になっていた。




