第42話 観察対象:罪
金属の拘束音が微かに鳴る。
光を遮断された隔離室。
中央に設置された椅子は、医療用でも軍用でもない。
“観察専用”に設計された拘束具だった。
フクロウはすでに座らされていた。
腕、胸、額。各部を締める拘束バンド。
そして左腕には、発動アンプルの供給装置が接続されていた。
静かに、青白い液体が管を満たしていく。
彼は、それを見ない。
目を閉じたまま、ゆっくりと口を開いた。
「——レイカ。聞こえてるかわからないが……
いや、たぶん、聞かせるために仕組まれてるんだろうな。
お前の“感情反応”を誘導するために」
静寂。
だが、装置の駆動音がひとつだけ響いていた。
それは、まるで“心音の代わり”のようだった。
「俺は……あの“保釈保証金”のターゲット案件、
お前に振った。
あの時は、“面白い案件だ”なんて気取って言ったけどな……
あれが始まりだったんだ」
アンプルの液体がゆっくりと彼の腕へ。
目の奥に熱が灯る。
だがフクロウは、まだ笑っていた。
皮肉で、寂しくて、どこか悔しげに。
「あれは、“君と発症体を接触させる計画的事故”だった。
俺は知ってた。
だけど……“橋は渡らない”って言ってたくせに、
気づけば最初から、この側だったんだよ」
肩が震える。
骨の奥から、異物の熱が這い上がってくる。
爪の先、関節の内側、眼の奥……
自分の中に、自分でない“構造”が生きていた。
「本当は……
お前を見てるのが、怖かったんだ。
“ああ、自分もこうなるんだな”って」
照明が赤く染まる。
脈拍センサーが異常値を刻む。
目の色が、微かに褪せた。
「俺は……
お前と、アイツ——あの失敗個体、
両方を同じコンテナに入れて、軍に引き渡すつもりだった。
“観察対象”として。
それで全部終わらせる。
そうすれば、“俺の過去”も、消せると思ってた」
しばらく黙る。
だが、その沈黙は“罪の輪郭”を研ぎ澄ませる静けさだった。
やがて、かすれた声で続ける。
「でも、お前はまだ……
選ぼうとしてた。
自分で。感情で。
怒って、傷ついて、それでも“何かになりきらない”でいようとしてた」
涙ではない。
でも、目の奥にうっすらと熱が滲む。
「すまなかった。
このまま俺が壊れるのを見て——
“人間でいようとした自分”を、どうか笑わずにいてくれ。
……それだけだ」
彼の爪が黒く変色する。
背中の神経接合部が浮かび上がり、脈動が脳に響く。
《発動率:82%》
《構造異常:侵蝕進行中》
《感情干渉:“罪悪”反応、過剰値にて上昇》
それでもフクロウは、微かに口角を上げた。
「……これで、お前が怒っても、
それでも誰かを殺さずに踏みとどまったら……
俺はそれを“祈り”って呼ぶよ」
目を閉じた。
アンプルが最後の一滴を静かに流し込んだ。
その瞬間、室内の赤いランプが、
“観察ログの更新”と共に点滅を始めた。




