第41話 私は怒ることでしか、見せられなかった
静かに、扉が開いた。
そこは廃棄処理区画の奥に隠された、
無菌処理された白い部屋だった。
壁面には、誰も使っていないはずの“拘束アーム”と、
中央には、長く伸びたインジェクションアームが待ち構えている。
その椅子に、フクロウが座らされていた。
腕は固定具に縛られ、首には生体データを拾う神経ケーブル。
胸の前、心臓の横にむき出しの注射機構が接続されていた。
「……何してんのよ、あんた……!」
声が震えていた。
レイカは視線の端で、
部屋の隅に“記録装置”が作動していることに気づく。
フクロウは虚ろな目で笑った。
「……結局、俺も“橋を渡ってた”ってことだ。
気づいたら、渡らされてたんだよ」
天井の照明が、無機質に明滅する。
インジェクターが作動し、青白い液体が徐々に注入され始めた。
「……これは、試されるんだろ。
“君の反応”がさ」
レイカの喉が焼けるように熱くなる。
怒りが、胸から指先へ伝わり、
爪が黒く染まり始めているのが自分でも分かる。
「……やめろ……」
床のタイルがきしむ。
拳を握るたびに、腕の血管が浮き上がっていく。
「落ち着け、レイカ……俺は“反応させるための装置”になったんだ。
君が怒れば怒るほど、“観察”は進む……」
「なら、怒らせるなよっ……!!」
悲鳴に似た声が漏れた。
そのとき、腕の抑制リングが軋むように光を放つ。
《警告:対象R-Ka1032のバイタルに感情異常値》
《発症率上昇中》
《指先再構築:4%》
レイカは、膝をついた。
視界の端で、アンプルを打たれたフクロウの血管が“白く”浮き出していく。
骨格が微かに軋み、皮膚の下で何かが動いている。
「……見ないでいられるかよ、こんなもの……」
拳が、静かに床に落ちる。
その拳から、うっすらと煙が上がり始める。
皮膚ではなく、“細胞構造”そのものが歪み始めていた。




