第39話 記憶と心の深層
壁一面のモニターの光だけが、暗い部屋を照らしていた。
中央の椅子に座る男は、組んだ指の隙間から画面を覗き込んでいた。
画面の中、レイカの姿が静かに歩き続けている。
焦燥も怒りもない。ただ、凍てついた静けさ。
「……そろそろだな」
男の呟きに、背後のオペレーターが即座に反応する。
「制御系統、切り替えます。
セクターE-11〜E-14、通常電源を遮断。
内部発電モードへ移行開始」
その瞬間だった。
ビル内部の照明が、一斉に暗転した。
「……ッ」
レイカは反射的に足を止め、天井を見上げる。
明かりが落ちたわけではない。
空気そのものが“沈んだ”。
非常灯が、時間差でぽつりぽつりと点灯を始める。
だがその光は、まるで“見せたい部分だけを照らす”ように選ばれていた。
壁の端。足元の通路。
そして——彼女の目の前に浮かび上がったのは、
“血痕のような擦過跡”だった。
「……見せられてる」
天井裏から、機械が再起動する微かな駆動音。
照明とは関係のない装置が、どこかで静かに“目を覚ました”音。
「ここは施設じゃない。
“舞台”だったってことか」
レイカの背に、観察レンズの赤点が点滅する。
外では街が燃えている。
中では、彼女だけが、“選ばれた導線”を歩かされている。
そして、モニターの中の男が、笑った。
「くくっ」と短く笑った。まるで予定通りにコマが動くのを見ているかのように。
「よし。これで、彼女は“用意した部屋”に向かうだろう。……そう、“記憶の底”へ」




