第36話 全て、見せるための戦争
鋼鉄の床が揺れた。
上層から伸びるハッチの枠が、鈍く鳴る。
ギィ……ガシャァン……
空気が落ちる音がした。
まるでこの空間ごと、地中に沈んでいくような静けさのあと——
四方の壁が分割され、ゆっくりと“観察ドーム”の天井が開いた。
その瞬間、床下から昇降機に乗って現れたのは、
人間の形を模した者たちだった。
だが、彼らの肌は蒼白く、眼は焦点を結ばず、
それでいて、無音の“殺意”だけが明確にそこにあった。
「強化個体群03、起動」
彼らのスーツに刺されたIDナンバーが、光に照らされる。
同時に、反対側のスロープが開く。
ガスのように噴き出す黒煙。
その中から這い出してきたのは、制御不能な“発症体”だった。
足が逆関節に折れ、骨が外気で呼吸するように蠢いている。
モンスターと呼ばれる“混合個体”たちが、複数、咆哮を上げた。
「観察フェーズ:タクティカルフェイズ開始」
「都市部市街地区画:E-7内、交戦記録を開始」
最初に動いたのはモンスターだった。
鉄骨の足場を引き裂きながら跳躍し、
強化人間の一体に組みかかる。
ガッ。
そのまま首に噛みついたが、血は出なかった。
代わりに金属音。装甲骨格が火花を散らし、
“噛みつかれた者”がモンスターの顎を握り潰した。
「捕食想定値、非適合。
反撃許可——」
ドンッ。
モンスターの胸に、強化兵の肘が突き刺さる。
だがそのまま、モンスターの爪が腹部を抉る。
再生と破壊が交互に繰り返されるその光景は、
「生きる」こととはかけ離れた、ただの“暴力の反復”だった。
「反応速度:0.42秒。
発症因子波形:上昇。
再生限界、未到達。観察続行」
スクリーンの中、何人もの研究者が
まるで麻酔を打たれたような無表情で、画面を見つめていた。
「強化人間No.17:左腕欠損。発症は未達。
被験体-KR4:第三段階まで移行済み」
そのとき、画面の一隅で強化人間のひとりが叫ぶことなく崩れ落ちる。
再生しない。
因子に喰われ、肉体が“発光するように”焼けはじめる。
戦場から離れた通路の奥で、
レイカが唐突に胸を押さえて足を止める。
「何……今の“熱”…?」
彼女の脈が、戦場の“誰か”とリンクしていた。
観察対象R-Ka1032としての中継回路が、
都市全体の戦闘観察と“同期”している。
つまり、これは——
「全て、見せるための戦争……!」




