第31話 朝の来ない都市
夜明け前の空が、空気が澄みわずかに白んでいた。
そのはずだった。
だが、NOVA-L封鎖区域の上空には、朝が届いていなかった。
遠くの山間に設置された観測基地。
かつては気象モニタリング施設だったが、いまはあの都市を“外から見る”ための唯一の目になっている。
モニター係の男が、眉をひそめて言った。
「……また、空のデータが跳ねてる。
光量、空気密度、何もかも“普通じゃない”」
隣の技官が、通信チャンネルを確認して首を振る。
「封鎖領域内、通信反応ゼロ。
……完全遮断されてる。やっぱり動いたか、軍部」
窓の外、はるか彼方に見えない“揺らぎ”が立っていた。
空気が切り取られたように、ある一点から光の屈折が不自然に始まっていた。
「まるで、実在するのに存在してないみたいだ……あの都市」
観測者のひとりが、ふとモニター越しの映像に気づく。
都市封鎖直前、“R-Ka1032”が施設内部へ突入したタイムコード。
その動きが、どこか引っかかった。
「待て……ズームできるか?
……あれ、“知ってる顔”じゃないか?」
一瞬の沈黙。
そして、誰かが呟く。
「あの都市、いま“物語”が始まってる。
俺たちは、もう見守ることしかできない」




