第30話 観察箱
暗い部屋。
壁一面に並ぶモニター群が、レイカの現在位置を映し出していた。
中央の椅子に、ひとりの男が座っている。
背筋を伸ばし、無言で映像を見つめていた。
モニターの中――
レイカが、冷却室の扉に手をかける。
その瞬間、男が呟いた。
「……始まったな。発動する」
背後のオペレーターが即座に反応する。
「都市封鎖プロトコル、NOVA-L-Ω発動。
対象区域、全通信・外部アクセスを遮断。
観察フェーズ、最終段階へ移行します」
都市の空が、ゆっくりと暗転していく。
街路灯が――一つ、また一つと、静かに消えていった。
高層ビルの屋上に設置された遮断ドーム展開装置が起動し、
都市全体が“観察箱”として密閉されていく。
「これで、外の目は届かない。 あとは……彼女が“自分を見つける”だけだ」
オペレーター「……観察対象R-Ka1032の、精神的安定度が……急激に低下。これは……想定外の変動です。」
男「構わん。壊れてもいい。壊れなければ、意味がない」
「彼女が“自分を見つける”だけだ」
そう言ったとき、男の目は微かに揺れていた。だが、それを誰も気づかない。
男の目が、モニターの中のレイカに向けられる。
その視線は、感情ではなく“観察者の好奇心”で満ちていた。




