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第29話 記録開始
床に沈んだモンスターの肉塊から、粘液がゆっくりと滴っていた。
沈黙。
その時、壁の一角が低く唸る。
カチリ。
金属の壁面に溶け込んでいたパネルが、ゆっくりと回転し、
内部から黒い単眼のようなレンズがにゅうっとせり出してきた。
レイカが振り返るより先に、
それは彼女の顔をまっすぐ、正確にとらえていた。
シャッ。
小さな光が瞬く。
ファインダーの中で、レイカの瞳が映し出されている。
“カメラ”ではない。
これは“記録装置”であり、“観察装置”。
まるで「どう壊れていくのか」を確認するために、そこにある。
端末の横に、冷たいフォントが点滅する。
被験体:R-Ka1032
戦闘記録:取得完了
状態観測:進行中
レンズには、感情がなかった。
むしろ、感情という概念そのものが存在しなかった。
ただ光を吸い込む、機械の目。
レイカがそれを見返す。
呼吸が、少しだけ乱れた。
そして、呟く。
「やっぱり……見てるのね」
その瞬間、レンズの中心に小さな赤が灯る。
新たな記録が、今、始まった。




