第21話 灰鉄のファング
倉庫のシャッターがゆっくりと開く。
その奥に、黒鉄の塊が静かに佇んでいた。
艶消しの深灰色。排気音を極限まで抑えたカスタムエンジン。
軍の払い下げを、武器屋が“潜入用”に改造した一台。
レイカは無言で跨がる。
エンジンをかけても、音はほとんどしない。
ただ、地面がわずかに震えた。
「……静かすぎて、逆に怖ぇな」
武器屋がぼそりと呟く。
レイカはヘルメットをかぶりながら答えた。
「音が出るのは、降りたあとでいい」
アクセルをひねる。
バイクは、まるで影のように滑り出した。
都市の灯りを背に、レイカの姿は闇に溶けていく
夜の都市。 血の通わない無機質な影。
ネオンは消えかけ、ビルの谷間にだけ風が吹いていた。
レイカのバイク――ファングは、都市の黒に溶けるように滑っていく。
音は風さえも押し殺し、ただ光だけが流れていった。
レイカの前に広がるのは、誰もいない深夜の直線道路。
街路灯が一定間隔で並び、冷たい光を落としていた。
ヘルメットのシールドに、その光が――
前から後ろへ、流れるように映り込んでいく。
ひとつ、またひとつ。
まるで彼女の過去が、後方に置き去りにされていくようだった。
「……全部、通り過ぎるだけ」
シールド越しの視界は、歪んでいた。
光が流れ、影が伸び、レイカの瞳だけが真っ直ぐに前を見ていた。
信号はすでに機能していない。
交差点を抜けるたび、廃ビルの窓に自分の影が映る。
だが、レイカの視線は前ではなく、上空の一点を捉えていた。
――いた。
街灯の死角。
そこに、無音で浮かぶ黒い影があった。
監視ドローン。
球体のボディに、赤外線センサーとマイクロレンズ。
音を殺し、熱を追い、記録し続ける“目”。
「……まだ動いてるのね。誰かが、まだ見てる」
レイカは速度を落とさず、バイクを傾けて路地へ滑り込む。
ドローンは追ってこない。
だが、記録された”という事実だけが、背中に焼きついた。
それは、やがて彼女の運命を狂わせる“証拠”になる。




