第2話 保釈保証金
人けの少ない裏路地、薄暗いバーの片隅。湿った空気とタバコの匂いが混じり合う中、レイカはグラスの氷をカランと鳴らした。人が少なく情報交換するには絶好の場所だ。禁煙してしばらく経つが、この手の場所はまだ慣れない。向かいに座る情報屋の男――スキンヘッドで闇夜に紛れ地獄耳。蒸し暑いのか脂ぎった顔が薄暗い闇に浮かぶ。グラスが汗をかいてる。
タバコを灰皿に置き煙だけが宙に登り消えていく。コードネームを「フクロウ」と呼ぶその男は、いつも通りの気だるげな声で切り出した。
フクロウ「お疲れさん、レイカ。また一つ、厄介なゴミが片付いたな。」
レイカ「……後味は悪い。それだけよ。」
レイカは、先日捕らえた人身売買の首謀者のことを思い出す。金のためだと割り切っているはずなのに、時折感じるあの胸のざわつきは消えない。「命の値札が高いだけ、後味も悪くなる」――あの言葉が、頭の中でこだまする。
フクロウ「おや、珍しいな。お前がそんなことを言うとは。まあ、今回の案件は少し特殊でな。お前が欲しがる『スリル』と、そのずば抜けた『スキル』を存分に活かせる代物だ。」
フクロウは、手元の端末を操作しながら続ける。 フクロウ「今回は『保釈保証金』絡みだ。聞いたことはあるか?」
レイカは無言で首を振る。
フクロウ 「お上は便利な制度を作ったもんだ。裁判待ちの奴に金を貸す。逃げたら、そいつの命ごと保証金が飛ぶ。……で、その尻拭いが俺たちだ。
その逃亡者を捕まえ、法廷に引きずり戻す役目が、俺たち『賞金稼ぎ』に回ってくるってわけだ。」
レイカ「それが、今回のターゲットだと?」
フクロウ「ああ。その逃亡者だが、どうやら並の人間じゃないらしい。奴の動きには妙な規則性がある上に、通常の兵士とは桁が違う身体能力を持っていると聞く。そして、今回の依頼主は奴を『生きたまま連れ戻せ。だが、火器は使うな』と条件をつけてきた。奇妙な依頼だが、お前さんならできるだろう?」
レイカの表情に、微かな変化が生まれた。冷徹な瞳の奥に、わずかな興味と、そして「兵士」という言葉に反応する複雑な感情が宿る。
「兵士」――久しく聞いていなかった響きだ。
背中のどこかが冷たくなった気がする。
あの夜の、銃声、血の臭い、そして名前も知らないあの顔……。
レイカは思考を振り払うようにグラスを傾けた。
グラスの最後の氷を噛み砕く。その音が、決意の引き金を引いた。
「……場所は?」
静かに、だが確かに、その声にはスリルへの渇望が宿っていた。




