第19話 月光
ラクツは装備品を並べ終えると、ふと立ち止まり、
レイカの背を一瞥して言った。
「……お前さん、あいつを持って行く気はなかったのか?」
「……あいつ?」
返答せぬまま、ラクツは店の奥――いつも閉ざされていた扉を、静かに開いた。
長く乾いた音が響き、奥の棚から静かに取り出したのは、
黒革で包まれた長物。鞘には、研ぎ澄まされた静謐が宿っていた。
「お前が初めてここに来たとき、背負っていた刀だ。
あの施設から逃げ出したとき――これだけは手放さなかったらしいな。
おれが預かったのは、“まだ刃を抜く理由がない”って言ったからだろう?」
ラクツはそのまま、静かに刀を差し出す。
レイカは無言で受け取ると、ゆっくりと膝をついた。
鞘ごと、胸元に当てるようにして。
「……あたしの一部だった。
でも、“誰かの命令で抜く刃”じゃなかったから、封じてた」
目を閉じる。
深く、深く息を吸い込む。
そして、そっと鞘から一寸――銀色の刃が月光を受けて光る。
月光に濡れた刃先が、静かに怪しい光を宿す。一瞬、空気が変わった。
「……今度は、私の意志で抜く。
“自分が誰か”を、この刃で証明する。」
カチ、と鞘に戻す音が響いた。
店内の空気が一瞬で張り詰める。
ただ立っているだけのレイカから、ひりつくような存在感が放たれていた。




