第18話 血と引力と選択肢
頭の奥が熱を帯びていく。
神経が擦れるような痛み。脳裏に、誰のものとも知れぬ記憶が焼きついた。
耳鳴りが、ナイフのように刺さる。ジリジリと、脳の奥が焼けていく。
——白い室内。冷たい鉄の椅子に縛られた、小さな自分。
コンクリートの陰鬱とした寒々しい部屋。
目の前には鏡。その向こうで、無数の眼がこちらを凝視していた。
「感情抑制値、4.2まで低下。すぐに刺激を上げろ」
「接触個体を投入しろ。今なら覚醒反応が起きる」
叫び声。炎。誰かが倒れる音。誰かが泣いている。
――いや、泣いていたのは自分かもしれない。
映像が切り替わる。
訓練場。火薬の匂い。
「目的:ターゲットの排除。感情干渉は許可されていない」
少女だった自分が、銃口を向ける。
相手は笑っていた。誰だったかも、どちら側だったのかも、もう思い出せない。ただ――笑っていた。
引き金を引いた瞬間、その笑顔が崩れた。
「見たか? これが“適正反応”だ。
感情と任務の両立。ようやく“生きた兵器”ができたな」
声が、頭蓋の裏で響く。
──視界が、現実に戻る。
今この瞬間にも――
自分の手が、微かに震えている。
血で汚れてしまった手を見下ろす。
「…………やめろ」
声にもならない声で、レイカは吐き捨てた。
脳の奥で鳴る警告音。体内の因子が“再起動”を始めている。
《R-Ka1032:内部活性 32%上昇》
《細胞結合域:安定率低下。感情干渉反応――鋭化》
目の端に、血管が浮かび上がった。
顔が硬直し、表情が死ぬ。視界がわずかに赤く滲んだ。
“このままじゃ、また私は――”
だが、レイカは右手をギュッと握った。
左手が、いつのまにか自分の胸元に触れていた。
「ちがう。私は、壊れるために生きてるんじゃない。
選ぶために、ここまで来た」
「……今度は、あたしが道を開く」
レイカは深く息を吸い、わずかに指先を震わせながら――
銃身を固定し、照準に“終わらせるべきもの”を重ねていった。
火器は揃った。怒りもある。記憶も、過去も、棄てない。
けれど、それらはもう“使われるため”じゃない。
“終わらせるため”にある。




