第16話 試験管の戦場
フクロウはタバコを火につけ煙をくゆらせながら、ゆっくり口を開いた。
「だがフランクの上は巨大だ。」
レイカは黙ったまま、テーブルの灰皿に目を落とした。
灰が崩れ、形を失っていく様が、まるで自分の過去のように思える。
フクロウは視線は寄越さず、ただ煙を吐いた。
「お前が潰したのは、せいぜい“手先”にすぎない。
その上にいるのは……“創った者”だ。」
レイカの指が、無意識に震えた。
咥えていたタバコの先から、灰がポトリと落ちた。
口にしてはいけない名が、喉元に張りついて離れない。
「グラド・マレーン」
フクロウは名前を吐き捨てるように言った。
その響きが、狭い部屋の天井を這い、レイカの鼓膜にまとわりついた。
「元・研究主任。今は〈アーク・ハーモニクス社〉の顧問って肩書で、
軍にも企業にも属さず、好き勝手やってる。アンプルの改造も、“素材”の再設計も、
ぜんぶあいつが仕組んでる。」
レイカはタバコを消した。
火は消えたが、胸の奥で別の炎が音もなく燃え上がる。
「“治療”のフリをして、モルモットにしてたってわけ」
フクロウは、初めてレイカの方を見た。
「ああ。意思も尊厳も、全部剥ぎ取った」
しばらくの沈黙。レイカは目を閉じる。
そして、一度深く息を吸った。
「なら、そいつに注射の味を覚えさせないとね。」
窓の外、雨が静かに降り始めた。
それは――世界を洗い流すように、静かで、冷たかった。
……だがその雨は、すべてを鎮めるには、遅すぎた。




