第15話 アンプル
「お前が捕まえたフランクの親玉がな、どうも“純正のアンプル”に麻薬を混ぜて捌いてるらしい」
フクロウは一拍置き、煙と共に言葉を続けた。
「純正アンプルは、適性さえあれば能力を引き出す。だが、麻薬入りの“偽物”は違う。細胞を異常に活性化させ、脳を壊す。その代償に……治癒力は跳ね上がるが、寿命が極端に削られる。
……まあ、純正品だって安定はしないらしいがな」
タバコを持つ手が一瞬、止まった。
フクロウは淡々と続ける。
「副作用で細胞に異常が出る。……切ったのは、その変化を確認するためだ。
どこが壊れ、どこが再生するか。“実験”の一部としてな」
煙の先から投げかけられた言葉に、空気の密度が変わった。
レイカは目を細め、ゆっくりとタバコを口元から離す。灰が、静かに落ちた。
「……麻薬?(まさか、あの時のアンプルが……)」
その響きが、脳の奥をざらつかせる。
フクロウは頷きもせず、ただ続けた。
「裏ルートで流れてる“別物”だ。中身は――強化剤に偽装された“誘発剤”。
感情の抑制を剥ぎ取り、無理やり発動させて、そのまま細胞を焼き尽くす」
「で、それを売ってるのが……フランクの“上”ってわけ」
「そうだ。医療品と銘打って、相当儲けてるらしい。
フランクはただの“配達人”だよ」
レイカは椅子の背に体を預け、煙を吐いた。
しばらく沈黙――だが、胸の内では暴風が荒れていた。
「……体を直す薬の顔して、心を壊してるのね」
吐き出した煙が、天井へ向かって静かに昇る。
フクロウは肩をすくめる。
「ああ。名目は“医療用試験アンプル”。
脳神経の修復、ストレス耐性の向上……軍や警察にも回ってる。
副作用? “未確認”って処理されてる」
「それで、“鎮痛剤”のラベルで市販に出してる……」
「ま、使う方もグレーなのは承知の上さ。
奴らは見てる。“誰が発動するか”、“どう壊れるか”――それをな」
レイカはタバコを灰皿に押しつけ、低く言った。
「まるで、戦場が試験管になったみたいね」
「ナイフで私を切ったのも、アンプルの副作用を診るため……?」
「ああ。記録されてる。“刺激後の反応データ”としてな」
「暴走じゃない。“実験済みの症例”さ。
あの場でお前が反応すれば、成功例として記録される。
つまり――奴らにとって、お前はまだ“モルモットの一体”にすぎない」
レイカの拳が、わずかに震えた。
静かに、もう一本タバコに火を点ける。
「……いいわ。なら、試験場ごとぶっ壊す。親玉ごと」
その煙は、もはやただの煙ではなかった。
“冷えた火薬”の匂いが、部屋に満ちていった。




