第13話 再会
煙の残り香が、まだ肺にまとわりついていた。
レイカは転がるように廊下へ飛び出し、反射的に背後へ視線を走らせる。 廊下のランプが点灯している。
部屋の扉は開いたまま。血の匂いが煙に溶け、そこに新たな気配が迫りつつあった。
レイカは回り階段を見やった。
黒い戦術スーツに身を包んだ装備部隊が、無言で階を上がってくる。
ガスマスクの下からは感情の気配もない。まるで機械仕掛けの猟犬。
(まだ来る……増援か)
裏口の階段へ向かう。エレベーターは信用しない。
足音が自分のものか、敵のものかも曖昧になる。
発動は、まだ完全ではない。でも、だからこそギリギリ“自分”のままでいられた。
非常扉を開けた瞬間、夜の外気が顔を叩く。
ホテル裏手の通路。表通りよりかなり狭い道。ゴミ集積場の脇を抜け、レイカは裏路地に身を滑らせた。
追跡ドローンの羽音が、遠く上空に聞こえる。
だが、ここは知っているルート。かつて任務で何度も歩いた、“逃げるためではなく、狩るため”に選んだ道。
角を三つ曲がり、ビルの外階段を駆け上がる。
濡れた金属の匂い。冷えた足場。 乾いた靴音が、夜の静けさに突き刺さる。
階上の非常口前で、パネルに手のひらを当てると、チップが一瞬、体温と脈拍の波形を偽造する。
0.7秒の沈黙のあと、小さな開錠音。
短く息を吐いた。
薄暗い廊下の奥に、小さな赤い点滅が見える。
電子錠の扉。その先――フクロウのアジト。
ノックはしない。
レイカは無言のまま、扉を押した。
「……遅かったな」
埃の匂いとアルコールの混じる空間。
フクロウは古びたソファに座り、手には湯気の立つマグカップ。
彼は振り返らない。だが、すでに全てを把握しているようだった。




