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バウンティ・ハンター レイカ  作者: 武者小路団丸


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第12話 観察対象者

 みるみるうちに、部屋に煙が充満していく。

鼻腔を突く薬品臭。視界は白く霞み、まぶたの奥が焼けるように痛む。

レイカは床に身を這わせ、音を殺して息を潜めた。

目を細め、空間のわずかな変化を見逃さないよう神経を尖らせる。


指先が床をなぞる。汗で湿った木目が、じわりと掌に伝わる。

――今ではない。まだ動くな。


次の瞬間、彼女は静かにナイトスタンドに手を伸ばし、古びた置き時計をつかんだ。

そして――窓へ向かって投げる。


「ガシャーンッ!」


硝子の砕ける音とほぼ同時に、廊下から扉が開かれる。

足音、3つ。訓練された動き。銃器の重み。

濃霧のような煙の向こうに、影が差す。


ひとりが線に引っかかり、バランスを崩して仲間を巻き込むように倒れ込む。


レイカの手が、静かにハンドガンを引き抜いた。

指が冷たい鉄に馴染む。次の瞬間、

――彼女は迷いなく引き金を絞る。


「――ッ!」


一発、二発、三発。正確に、迷いなく。

一人が膝を折り、もう一人が壁にのけぞり倒れる。

最後の男が振り返ったその瞬間、額に銃弾が突き刺さる。



音が止んだ。


煙がゆらゆらと揺れ、部屋の輪郭が歪む中で、

レイカは床に伏せたまま息を整えた。 鼓動だけが、やけに大きく響いた。まるで心臓が胸の奥で跳ね上がったように。


拳を握る手がわずかに痙攣している。

呼吸が、火傷のように喉を焼いていく。

でも、視界は澄んでいた。異常なほど、くっきりと。


床に転がった敵の銃が、かすかに反射した光を放っていた。

血が煙に溶けて、部屋の温度だけが静かに上がっていく。


――終わった?


……違う。


その刹那、通信端末からノイズが漏れた。





「……ターゲットに反応あり……発動兆候を検知……確保まだ出来ず」


レイカの瞳が鋭く細められる。


「……フェーズBへ移行する」


通信はそれきり、途切れた。


(“フェーズB”?……やっぱり、これは実戦テストだったの?)


撃たれた隊員のひとり、そのポケットからずるりと滑り落ちた小さな金属製の筒。


先端は注射器のように細く尖り、表面には見慣れないコードが刻まれている。冷たく、どこか有機的な鈍い光が脈打っていた。

レイカはそれを見つめ、静かに立ち上がる。



傷口がうずく。

肌の奥で何かが脈打つ。


(……やっぱり、“あれ”は終わってなかった)


レイカの脳裏に、あの夜の光景がよみがえる――





全てが狂い出した、あの瞬間と。











 


薬を投与されて、数時間は静かだった。

ベッドの上、白い天井を見上げながら、ただ呼吸していた。

脈拍は正常。血圧も安定。

医師たちは満足そうに何かを記録していた。


でも、急に喉が渇いた。

息が熱くなる。

冷や汗が背中を流れた。

身体の奥に、何か別のものが入り込んだ感覚――

“それ”が目を覚ました。


「ッ――はぁ……ッ、あ、ああッ……!」



骨が軋み、脳が叫びを上げる。

暴れたい。壊したい。叫びたい。

この皮膚の内に閉じ込められていること自体が、もう耐えられない。


獣のように、咆哮した。


次の瞬間、ベッドの端から鋼鉄の拘束具が唸りを上げて飛び出した。

手首を掴む冷たい感触。だが、それすら引きちぎってしまいそうな力が内から湧き上がっていた。


言葉にならない声で。

自分自身の声すら、他人のもののように聞こえていた。


 


……あれから、何も変わっていない。

あれは終わっていなかった。








その痛みは消え、代わりに何かが内側で脈打ち始めていた。

「……ふざけるな。わたしはおまえたちの玩具なんかじゃない。」




実験室のガラスの向こう――

モニター越しに彼女を観察していた、白衣の連中へ向けて。



汗で濡れた手が銃を握り直す。

その手は、かすかに震えていたけれど、それでも確かに彼女自身の意志で動いていた。


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