アームバー・クイーン
【バウンティ・ハンター制度の法的根拠】
本令は、王国において犯罪者の捕縛・討伐を業とする民間人(以下「賞金稼ぎ」という)の存在と活動を法的に認め、その秩序と正義の維持に資することを目的とする。
雨の日は、死にたがりが巣から出る。 わたしはレイカ。賞金で飯を食ってる女だ。 今夜のターゲットは五人殺した化け物。雨の音が、その足音を消してくれる。 禁煙してから一週間。イライラが募るが冷静に事にあたらなければならない。
何十年も使われてない船たちが最後にここに放置され朽ちるのを待ってるいわば船の墓場を賭場にしている。ターゲットが入り浸ると聞いて倉庫裏で張り込んでる。
賭場が開帳してから約30分が経たった頃だった。雨は相変わらず蕭々《しょうしょう》と降っている。もうそろそろ来てもいい頃。張り込みは気が抜けない。曇り空が余計に陰鬱にする。身体がひんやりと冷たい。 ターゲットとおぼしき人物が車から降りてきた。スマホで再度確認する。
ターゲット フランク
身長 175センチ
体重 65キロ
前職 プロボクサー
犯罪歴 押し込み強盗及び殺人5件
特長 頬に古キズ
ターゲットに間違いは無さそうだ。 バウンティ・ハンター仲間からの情報だと元・プロボクサーでどれも力でねじ伏せて目的を達したみたい。裏組織のボディーガードで腕には自信があるみたいだけど・・・。
船の搭乗口に見張りがいるが男ならセキュリティが厳しいけど女ならセキュリティが甘くなる。バックの中身だけ確認された。
廃船には似つかわしくないきらびやかなドレスを着て街の有力者の名前を出せば勝手に情婦だと勘違いするだろう。
今回、武器は持っていかない。 奴の戦い方は調べがついている。
元プロボクサー。確かに一発の威力はあるが、逆にいえばそれしかない。
難なくセキュリティを抜けゆっくり男を誘うような歩きをする。周りからは商売女だと見られてるが注意だけは怠りはしない。
賭場に通された。淀んだタバコの煙と、熱に浮かれた男女のざわめきが充満する薄暗い空間。他の女たちの派手なドレスが、煙の中で幻のように揺らめく。その中にあって、レイカが纏う漆黒のドレスは、廃船の僅かな光をも吸い込むような絶対的な黒だった。足を進めるたびに、夜の海面のように艶めかしい光の帯が肢体を滑り、その動きを一層際立たせる。この深淵な色合いは、獲物の目を欺くための完璧な仮面であり、彼女自身が秘める冷徹な危険の隠喩でもあった。
ルーレット、ブラックジャックに男女賭け事に興じてる。グラスやチップの音が混じり合う。ボディガードが何人か配置され、わたしは各テーブルを回った。端から見たら時間を持て余した女が刺激を求め遊興しに来たとしか見てないだろう。
ターゲットを発見。丁度歩いていたボーイからもらったお酒をあおった。
ターゲットがこちらを確認。熱い眼差しをターゲットに送る。ターゲットもこちらに熱い視線を送りかえしてきた。
『わたしから仕掛けるわよ』こころの中でつぶやいた。
ターゲットの隣にゆっくり近づいていく。 ターゲットはカードゲームに興じているがわたしが隣に来て気が気でない気持ちが手に取るようにわかる。
聞こえるか聞こえないかの声量で独り言を喋った。
「刺激を求めてカジノ来たけど、今日だけで一万ユール負けたわ。」
ターゲット「なーに、まだまだ取り返せますよ。夜はこれからですよ。」
ボーイからお酒をもらいターゲットに渡し何気なく指を触る。
その時ターゲットの耳元で
「VIPルームでお待ちしてます。」囁く。
ターゲットは理解しギャンブルどころではない。ゆっくりVIPルームに進む。
わたしはVIPルームで待つ。客船の上級デッキのスイートルーム。静寂の中で宝石みたいに息づいてる――そんな錯覚を覚える空間だった。
重厚な木目と艶やかな真鍮が調和するインテリアの中心には、堂々としたダブルベッドが据えられている。
ベッドは船の中央に位置し、その四方を優雅なカーテンが囲む。
航海の揺れをものともしない安定感がそこにはあり、まるで海そのものに抱かれて眠るような安心感を与えてくれる。
枕元には温かみのある間接照明が灯り、波のさざめきとともに静かに時を刻む。
中で目を瞑り神経を研ぎ澄まし集中力を高める。
静寂の中、ノック音で静寂が破られる。ゆっくり目を開ける。ターゲットがのそっと入ってくる。わたしは振り向き最高の笑顔で「ようこそ。わたしのリングへ。」
わたしの鋭い目つきが何かを察したのか間合いを取る。わたしは半身で身構える。ターゲットはジャブを繰り出す。やつの懐に入れない。
「女がナマで俺とやりあおってのか?女を殴って悲鳴を聞くのはたまらんな」
フランクは滑らかなステップインで間合いを詰め、容赦なくジャブを繰り出す。壁に追い込まれた。
わたしは動きをよく読み集中した。ターゲットは遊んでやるみたいな余裕の空気を出している。フランクのガードがほんの一瞬だけ下がる。わたしを女だと甘く見ている。
わたしはフック気味に肩にパンチを繰り出す。甘いパンチで男はニャッとする。 左のフェイントを見せながら、右肩に軽く打ち込む。狙いは打撃ではない。油断させ、体勢を崩させるための布石だった。 ターゲットの体勢を崩すように体重を預けて脚を差し込み、崩しながら十字を極めた。
廃船から連れ出された男は、手首を後ろで縛られたまま地面を這うように歩かされていた。
港に横付けされた軍用車両の前で、レイカは足を止める。装甲服の兵士たちが無表情で近づいてくる。
「フランク、確保。生きてるわよ。ボーナスつく?」
「確認する。殺人五件、指名手配レベルSランク。……報酬は十五万ユール。」
無機質な声と共に端末を差し出される。 指を乗せると、電子認証が光った。すぐに音もなく、彼女の口座に金が振り込まれる。
「次も頼むぞ。お前の腕なら、もっと高ランクの案件もこなせるはずだ」
「……そう。命の値札が高いだけ、後味も悪くなるけどね」
男がふと振り返る。片目が腫れ、口元から血がにじんでいた。
「……終わらねぇぞ。俺の背後にいる奴らが、お前を—」
レイカは足で静かに彼の顎を押し戻した。
「そういうの、リングで言えばよかったのにね」
軍用車のドアが閉まり、無言で彼を飲み込んだ。
雨が止んでいた。代わりに、銃声のように鋭く、空が雷鳴をとどろかせた。




