第9話マフィアの屋敷へレッツゴー!
いつものように暗いうちに目が覚めた。
昔からショートスリーパーだけど、この夜はほとんど眠れなかった。
頭ではリオンの話は眉唾物で、ほんとうだとしてもそんなものかな、とわかっている。
しかし、心ではそうではない。
『つくられた物』
リオンはそう言った。
『優秀な遺伝子からつくられている』
そうも言ったっけ?
つまり、彼らとわたしは神ではなく人による創造物、みたいなものだろう。
訂正。実験体といったほうがいいかもしれない。
この世界でも、生き物にたいして実験や改良を行っている。
たいていは動植物にたいしてだけど、国によっては禁止されている魔獣の実験や改良を行っているところがあるという。
天変地異に備えたり、大量生産を考えたり、利便性を求めたりして、さまざまな実験が行われている。それらは、たいていは人にとっていいことだ。が、その一方で悪事や政略や軍略に使われることもすくなくない。
『つくりだされた最強の兵器』
リオンは、そう表現した。
ということは、彼らもわたしも万人向けしない、いいことではないことに使われるはずだった。
この世界でも、いままでロクなことはなかった。あっちの世界にいたとしても、たいしてかわらなかったのだろう。
しかし、これからは違う。
リオンとルーという仲間ができた。広義では、弟になる子どもたちだ。
家族、なわけだ。
リオンがどうして「しばらくここにいる」、と言いだしたのかはわからない。おそらく、思いつきか気まぐれを起こしたのだろう。それが、いつまた気がかわるかもしれない。
それこそ、今日や明日にでも「やっぱりもとの世界に帰る」なんてことになるかもしれない。
せっかくこの「よろづ解決屋」が軌道にのってきたところだ。それまでの間、おもいっきり楽しもう。
そんなことを考えていたので、眠れなかったわけだ。
もっとも、そもそもの悩み事である自分の正体についてすっかり忘れていたから、よかったといえばよかったけれど。
「姉さん、おはよう」
窓を開けて隣家の壁を眺めていると、リオンが挨拶をよこした。
振り向くと、リオンは伸びをしていて、ルーは欠伸をしている。
ふたりは、ひとつの長椅子で座って眠ったのだ。厳密には、リオンが座ったままで、ルーはそのリオンの肩にもたれかかって、だけど。
ふたりもまた、ショートスリーパーだった。それどころか、数日眠らなくていいし、立ったまま数分眠るだけでもいいらしい。
わたしの睡眠事情もまた、つくりだされたことに影響があるのだ。
「おはよう、よく眠れた? って、尋ねるまでもないわね」
「うん。よく眠れたよ」
朝からルーの笑顔に癒され、いや、頭も心も槍で貫かれた気分。
鼻血が噴出するんじゃないかとドキドキしてしまう。
「今日の予定は?」
「そうね、リオン。朝食の前にひと仕事したいの。ちょっとした運動になるけど、付き合ってくれる?」
「昨夜のおじさんたちのところ? もちろん、いいよ。ただし、姉さんは交渉役。おれたちが暴れ役。その方が凄みがあっていい。そうだろう、姉さん?」
リオンは、ウインクをした。
これで同年齢か年上であれば、ほんとうの意味でときめいただろう。
それはともかく、リオンは言いたいのだ。
『弱いレディはひっこんでいろ。暴力沙汰は、男に任せておけ』
そんなふうに。
ほとんどの男たちが女性を蔑視している。それは、昔からの悪しき慣習のひとつだ。女性は弱い。女性は劣る。女性は性格が悪い。男性たちは、生れたときからそう教えられている。訂正。母親の胎内でそう刻まれる。
わたし自身、こういう世界に入る前からそうだったし、入ってからはさらにひどかった。
とはいえ、女性であることを利用することが多々ある。うまく利用しまくって恩恵に授かっている。だから女性の権利がどうのこうのと騒ぐつもりはないし、傷つき悩むこともない。
もっとも、守らねばならないリオンにそう言われるのは傷ついたけど。
それでも、この子たちは特殊な子どもたち。しかも、あからさまに差別されたわけではない。
さらには、理にかなった言い方でもあった。
というわけで、笑顔で了承した。