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第8話わたしが十五番であなたたちが十六番と十七番?

「つくられたで、あっているよ。おれたちは、人為的につくられたんだ。こことはまったく異なる世界でね」


 年長の子は、意味ありげに微笑んだ。


 その笑みは、まるで美の神のように美しい。


「人為的につくられた? というか、まったく異なる世界?」

「姉さんの場合は赤子のときにここに来たから、というか、事故でこの世界に飛ばされたから、詳しく説明してもピンとこないと思う。だから、かいつまんで言うよ。姉さんは、同じ人間や動物の遺伝子を利用し、つくりだされた最強の兵器なんだ。遺伝子というのは、親から子へと受け継がれていく、いわば生物の体の設計図みたいなものだよ。優秀な人や動物の遺伝子を掛け合わせてつくりだされた物、というわけ。姉さんの場合、つくりだされた直後に事故があったらしい。本来なら、過去、または未来に飛ばされるはずが、異なる世界、つまりここに飛ばされてしまったというわけ。わかる?」

「バカにしないで。理解できるわ。主人公が異なる世界から来たっていう書物を読んだことがあるもの。だけど、それがわたし? このわたしなの? ということは、わたしたちは同じ遺伝子でできているわけ?」

「この話を信じてくれるばかりか冷静に受け止めてくれるなんて、ちょっと意外だったよ。それこそ、書物の中だったら、主人公はパニクリまくってしまうところだ。それはともかく、正確にはすべてが同じ遺伝子じゃない。一部分、ってところだね」

「もしかして、わかってないんじゃないかって疑っているの? 大丈夫。ちゃんとわかっているわよ。逆に、そうであってよかったって思っているほどよ」


 いまのは、嘘でも誇張でもない。


 自分が他人とは違うことに気がついたのは、物心ついたときだった。


 そのときには、自分はかわっているんだと思っていた。年齢を重ねるごとに、自分は異常だと思うようになった。特殊な環境下に身を置くようになってからは、というか、この世界に入ったのは、自分がふつうの世界では生きづらかったからだ。


 正直なところ、目の前の少年たちのいまいるこの世界とは異なる世界でつくられた、というところは眉唾物だ。しかし、可愛い少年のあの力や同じ黒髪に黒色の瞳を持っているところを見ると、まったくのでたらめではないことはわかる。髪や瞳を黒色に染めてわたしに近づく、なんていう詐欺の類でもないだろう。


 わたしを詐欺ったところで、埃や塵しかでてこないし。ましてや、髪はともかく瞳を黒色に染めることは難しい。いまは廃れてしまった魔術ならばできるかもしれないけれど。


「それで? あなたたちは、わたしを捜しにきたの? というか、元の、その異なる世界からやって来たのよね? わたしって元の世界に連れて帰られるわけ? そこってどういう世界? というか、わたしのことを調べたのよね? よく調べられたわね」


 眉唾物であっても、彼らのいう異なる世界には興味がある。さらには、違う世界からきてわたしのことを調べ上げたその方法も知りたい。


「姉さんは、この世界が気に入らないの?」

「気に入らないわけじゃないけど……。ほら、わたしってば好奇心旺盛な年頃だから」


 好奇心旺盛な年頃というには厚かましいが、彼らは何も言わなかった。


「じゃあ、おれたちも付き合おうかな。いいよね?」

「『いいよね?』って聞かれても……。わたしはいいけれど……」


 彼らは、何かを隠している。


 そう直感した。


 相手の心、というか本音が読めることも、わたしの特殊な能力のひとつだ。とはいえ、この能力はふだんは使わないけれど。普段から使っていたら、身が持たなくなるからだ。


 彼らに話しを聞き、その能力も自分の出自のせいだと実感している。


 が、その能力は、同じ能力を持つ彼らにたいしては無効のようだ。


 彼らの本音を読むことができないのだ。


「じゃあ、決まりだね」


 年長の子が勝手に決めてしまったけれど、カッコよすぎるから許すことにする。


「仕方がないわね」


 内心ではワクワクどきどきしているのに不承不承を装うのは、たんにわたしが可愛くないからである。


「三人で住むとなるとここではムリね」


 室内を見まわさずとも、ムリなものはムリだ。


「明日、適当な家を探しに行きましょう。さすがに、ここで三人は狭すぎるから。それと、ここにいるからには働いてもらうわよ」

「もちろん。『働かざる者食うべからず』だからね」

「なるほど。それって、あなたたちの世界の言葉? そのものズバリね。ところで、名前は?」

「ない」


 年長の子が即答した。


「ないって……」

「番号で呼ばれていたからね。こいつは十七番。おれは、十六番」

「そう」


 胸の辺りがチクリと痛んだ。


「わたしは? わたしがここにこなかったら、何番だったの?」

「十五番。姉さんのトラブルの後、しばらく研究が中断されたから」

「そうだったのね」


 研究の中断については、わたしに非はない。そのはずだ。


「番号で呼ぶって、非人道的よね。わたしたち、一応人の形ではあるんだから」


 頭の中に動物が浮かんだ。


「あなたがリオン。この子がルーってどう?」


 年長の子の肩にもたれて眠っている年長の子が可愛すぎて、またしても「ズキュン」ときた。


(はやいところこの可愛さやカッコよさに慣れないと、こっちの身がもたないわ)


「姉さん、ありがとう」


 鼻血が出そうな勢いの中、なぜかリオンが礼を言った。


 こうして、わたしたちの奇妙な生活が始まった。


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