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第67話【最終話】ちんちくりんの女神様を目指せ!

「陛下は、ご自身の命運を悟られていたのだろう。それには、後継者、つまり次期国王の名が記されているのかもしれない」


 ホプキンソン大公の推測だ。あながち的外れではない。


「連中、これを躍起になって探しているだろうね。ブランドン様を狙ったのは、万全を期すため。彼は、生存している王子の中で唯一まともだから」


 レオンのいう通りだろう。


 この遺言には、ブランドンの名が記されている可能性が高い。しかも、かぎりなく。


「姉さん。なんなら、この国を滅ぼしてみたら? そして、ブランドン様にあげたらいい。もっとも、ブランドン様が国王になったとしても、命を狙われないという保証はないけどね。それでも、いまのままよりかはいいかもしれない。それかいっそ、キングスリー国に行ってもいいかもね? そして、キングスリーも滅ぼせばいい。それから、ロード帝国だっけ? あいつら、暗殺の依頼を受けるついでに姉さんにケンカを売ったんだ。というか、姉さんを邪神とやらに捧げるためにやって来て、ついでに暗殺を請け負って稼ごうとした、といった方がいいかな?」

「ちょっと待って、リオン。最後のところ、わたしだったの? 薄気味悪いあの連中のほんとうの狙いは、わたしだったというの?」


 驚き以外のなにものでもない。


 あいつらは、どうしてわたしのことを知っていたのだろうか?


 不可思議だけど、リオンとルーとわたしが違う世界からやって来たということよりかは、不可思議の度合いはまだマシかもしれない。


 そのことについて考えるには、今夜は疲れすぎている。


「姉さん。いっそのこと、この世界を支配してみたら? あいつら、また姉さんを狙ってくるよ。あいつらだけじゃない。今回のことが噂になれば、あらゆる連中が姉さんを狙うだろう。噂が広がる前に、まずはここらあたりをぶっ潰し、そのあとはゆっくり旅をしながら順番に攻略すればいい」


 リオンは、戦争ごっこでもしようという感じで誘ってきた。


 いや。実際、そんな感覚なのだろう。リオンとルーにとっては。


「ルーとおれなら、姉さんをこの世界の覇者にできるよ。この世界を支配する女神様ってわけだ」

「うん。リオンとぼくなら、簡単にそれができるよ。『ちんちくりんの女神様』って、最高にクールだよね?」


 リオンの提案は、ほんとうに突拍子すぎた。それから、ルーの言葉はビミョーすぎた。


 だけど、リオンのいう通りかもしれない。


 異なる世界で人の手によってつくられたこの力を欲する者が、かならずやでてくるだろう。


 そうなったら、ここにいてはみんなに迷惑がかかってしまう。


 いずれにせよ、アメリアとブランドンの護衛に関しての契約は、これで終了する。


 このあとは、旅してもいい。旅をして、さまざまなものを見たり聞いたり体験したい。


 この世界を攻略? 支配? そういったことはともかくとして、世界を巡ることはできなくはない。


 リオンとルーがいてくれさえすれば。


「それ、最高のアイデアね。この世界を支配しようじゃないの。リオン、ルー、頼んだわよ」


「世界を支配」というのは、そのままの意味でないことはいうまでもない。


「了解」

「了解」


 即座に了承したカッコいい弟と可愛い弟の笑みは、最高の癒しだ。


「リオ、おれも行くよ。母上は、ホプキンソン大公に任せてね。おれがいなければ、母上も狙われることはないはず。だろう?」

「おれも行くぞ。組織なんてクソくらえだ。このまま行方知れずになってやる。というか、ブランドン。おまえは、足手まといだ。お坊ちゃんに過酷な旅はムリにきまっている」

「カイル。きみは、母上とおれの悲惨な生活を知らないだろう? 勝手なことを言うな。きみこそ、口ほどにもないじゃないか」


 ブランドンとカイルは、またケンカをはじめたみたい。


「おれも行きたいがな。さすがにあのクズな兄貴に一家を任せられない。残念だよ」

「サディアス。見かけによらず真面目なのね。アメリア様とクララ様のこと、頼むわよ」

「任せておけ」


 自然とサディアスと握手をしていた。


「リオ。せっかく親友になれたのに残念だわ」

「クララ様。ご心配なく。周辺国をうろついていましたら、クララ様の結婚式には駆けつけます。そのときには、招待してくださいますか?」

「もちろんよ」


 クララとは、全力でハグをした。


「リオ、ほんとうにありがとう。すべてあなたたちのお蔭ね」

「アメリア様。お礼を言うのはわたしの方です。それから、お詫びも。わたしを拾って下さってありがとうございました。それから、わたしのせいでいろいろ申し訳ありませんでした」

「なにを言うのよ。あなたも、わたしの子どものひとり。それから、あなたたちもね」


 アメリアは、リオンとルーとまとめてハグしてくれた。


「ところで、アメリア様。以前、実家から小麦や大麦をたくさん送って来るっておっしゃってましたよね?」


 そのとき、どうでもいいことを思い出した。


 アメリアの焼くパンやクッキーは、ほんとうい美味しかったからだ。


「わたしだ。わたしが密かに融通していたんだ」


 ホプキンソン大公がボソリと言った。


 彼なら、うまく立ち回ってアメリアをしあわせにしてくれるだろう。


「じゃあ、さっそく行きますか? とはいえ、ブランドン様とカイルはまだ静養が必要だし、とりあえずは今回の黒幕たちを訪問し、挨拶しておきましょう。それでいいわね、リオン、ルー? って、あなたたち。行動が速いのはいいけれど、窓から出て行くのはやめなさいって何度も言ってるわよね?」


 リオンとルーは、すでに窓を開けて外に出ようとしている。


「ごめん、姉さん。そんなことより、遅すぎだよ」

「ごめんなさい、姉さん。だけど、遅いよ」


 リオンとルーは、ごめんなさいって思ってもいないのにごめんなさいって言った。


「だから、待ちなさいって」


 彼らに続き、飛び出していた。


 当然、窓から夜の静寂の中へ。



                              (了)


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