表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

66/67

第66話真実 3

「母上。わたしは、母上に感謝しているのです。真実を知りながらずっと目をそむけてきた義父とは違い、母上は血のつながらないおれをわが子のように慈しみ、育ててくれたのですから」

「ブランドン……」


 気丈なアメリアの双眸から涙がこぼれ落ちた。


「カイル。きみにもすまないと思っている」


 ブランドンは、アメリアの肩をやさしく抱いたままやさしくカイルに言った。


「母上がほんとうの母上ではなく、息子がいるということも知っていた。しかし、ほんとうの息子のことを尋ねたことは一度もなかった。子ども心に怖かったんだ。捨てられてしまうんじゃないかとね。実の母親が突然いなくなったように、母上もいなくなってしまうんじゃないかと。今回、きみのことは聞いてはいなかった。だが、クララに紹介された瞬間、すぐにわかったよ。しかし、やはり怖くて母上やきみに尋ねることはできなかった」

「だったら、すべてを譲ってくれるか?」


 カイルは、不敵な笑みとともに尋ね返した。


「いや。すべてを譲ることはできない。母上も、それから……」


 ブランドンはなぜかこちらを見たが、わたしと視線が合うとすぐにそらしてしまった。 


「彼女もね。それとこれとは別だから」

「だろうな。まっ、いいさ。いずれにせよ、非力なおまえではとうてい手に負えんだろう。それは、おまえにもいえることだぞ、小悪党」


 カイルは、サディアスを睨みつけた。


「おまえもだ、ダリル」


 さらには、ダリルも。


「チッ! 人殺しが、えらそうに」


 サディアスはつぶやき、ダリルは不貞腐れている。


「やめなさい、カイル。あなたもそろそろ身の振り方を考えなさい。いつまでキングスリー国で汚れ仕事をやっているつもりなの? そんなことを続けていたら、いつかわが身に返って来るのよ。それに、キングスリーもそろそろお荷物だと判断するかもしれない。そうなれば、今回のようにロード帝国のような他国の暗殺部隊みたいなものを送り込むわ。今回は、リオやあの子たちのお蔭で助かったけれど、つぎは助からない」


 アメリアのいう通りだ。


 国の情勢で、カイルのような存在は容易に捨てられたり消されたりする。それが、彼らのような世界に生きる者の宿命といってもいい。


 が、カイルはなにも答えなかった。


 自分でもわかっているのだろう。このままでは、いつか死ぬということを。その反面、後戻りもできないという気持ちもある。


 いまさらフツーの暮らしをおくり、フツーのしあわせをつかもうとするには、彼の手は汚れすぎているから。その資格や権利は、とうの昔に失われてしまっている。


 わたしにはよくわかる。わたしもまた、彼と同じだから。


「国王は、もう死んじゃってるんじゃないかな? 第一王子も殺されたしね」


 ちょっぴり感傷に浸っていると、リオンが「近所のおじさんが風邪をひいちゃった」みたいな感覚で、とんでもないことを言ってのけた。


「なんですって? ほんとうなの、リオン」

「うん。それで、これ」


 彼は、埃すらついていないタキシードの胸ポケットから一通の封書を取り出した。


「この前、王宮に行ったときに国王の寝所の隠し棚から持って来ちゃった」


 ルー以外の全員がその封書に注目した。


 玉璽が施されている。


(っていうか、この子たち、いつの間にこんなものを盗んできたのよ?)


 驚くよりも、呆れ返ってしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ