第66話真実 3
「母上。わたしは、母上に感謝しているのです。真実を知りながらずっと目をそむけてきた義父とは違い、母上は血のつながらないおれをわが子のように慈しみ、育ててくれたのですから」
「ブランドン……」
気丈なアメリアの双眸から涙がこぼれ落ちた。
「カイル。きみにもすまないと思っている」
ブランドンは、アメリアの肩をやさしく抱いたままやさしくカイルに言った。
「母上がほんとうの母上ではなく、息子がいるということも知っていた。しかし、ほんとうの息子のことを尋ねたことは一度もなかった。子ども心に怖かったんだ。捨てられてしまうんじゃないかとね。実の母親が突然いなくなったように、母上もいなくなってしまうんじゃないかと。今回、きみのことは聞いてはいなかった。だが、クララに紹介された瞬間、すぐにわかったよ。しかし、やはり怖くて母上やきみに尋ねることはできなかった」
「だったら、すべてを譲ってくれるか?」
カイルは、不敵な笑みとともに尋ね返した。
「いや。すべてを譲ることはできない。母上も、それから……」
ブランドンはなぜかこちらを見たが、わたしと視線が合うとすぐにそらしてしまった。
「彼女もね。それとこれとは別だから」
「だろうな。まっ、いいさ。いずれにせよ、非力なおまえではとうてい手に負えんだろう。それは、おまえにもいえることだぞ、小悪党」
カイルは、サディアスを睨みつけた。
「おまえもだ、ダリル」
さらには、ダリルも。
「チッ! 人殺しが、えらそうに」
サディアスはつぶやき、ダリルは不貞腐れている。
「やめなさい、カイル。あなたもそろそろ身の振り方を考えなさい。いつまでキングスリー国で汚れ仕事をやっているつもりなの? そんなことを続けていたら、いつかわが身に返って来るのよ。それに、キングスリーもそろそろお荷物だと判断するかもしれない。そうなれば、今回のようにロード帝国のような他国の暗殺部隊みたいなものを送り込むわ。今回は、リオやあの子たちのお蔭で助かったけれど、つぎは助からない」
アメリアのいう通りだ。
国の情勢で、カイルのような存在は容易に捨てられたり消されたりする。それが、彼らのような世界に生きる者の宿命といってもいい。
が、カイルはなにも答えなかった。
自分でもわかっているのだろう。このままでは、いつか死ぬということを。その反面、後戻りもできないという気持ちもある。
いまさらフツーの暮らしをおくり、フツーのしあわせをつかもうとするには、彼の手は汚れすぎているから。その資格や権利は、とうの昔に失われてしまっている。
わたしにはよくわかる。わたしもまた、彼と同じだから。
「国王は、もう死んじゃってるんじゃないかな? 第一王子も殺されたしね」
ちょっぴり感傷に浸っていると、リオンが「近所のおじさんが風邪をひいちゃった」みたいな感覚で、とんでもないことを言ってのけた。
「なんですって? ほんとうなの、リオン」
「うん。それで、これ」
彼は、埃すらついていないタキシードの胸ポケットから一通の封書を取り出した。
「この前、王宮に行ったときに国王の寝所の隠し棚から持って来ちゃった」
ルー以外の全員がその封書に注目した。
玉璽が施されている。
(っていうか、この子たち、いつの間にこんなものを盗んできたのよ?)
驚くよりも、呆れ返ってしまった。