第61話自覚はないけど覚醒したのね
驚愕してしまった。
このわたしが、覚醒したという。
わたし自身の持つ「力」にだ。
覚醒したきっかけは、あの笛だった。クララを操っていた例の笛である。
リオンは、こともあろうにわたしに暗示をかけていたのだ。
クララがおかしくなった理由を説明しているときに、だ。
そして、ログハウスで感じたあの音で、体の奥底に眠っていた力が解放された。なんでも、一度では覚醒しなかったため、リオンは奪っていた笛を吹いたのだという。
そのあとは、まったくわからない。覚えていないというよりかは、ほんとうにわからないのだ。
とにかく、わたしは相当暴れたらしい。もちろん、ヤバいときにはリオンとルーがフォローにまわってくれたらしいけれど。とりあえず、このわたしがほとんどの工作員を「ちょちょいのちょい」でやっつけたというからビビってしまった。
ただし、この力はよほどのことがないかぎり発揮できないらしい。というか、出てこないという。何かのきっかけで出てきて、そしてまたひっこんでしまう。それも、長くは続かない。
だけど、それでいい。まるで葡萄酒を飲みすぎたときのように、って、飲みすぎたことがないどころか、ひと口かふた口しか飲めないのだけれど。とにかく、一般的にいう「酒で記憶が飛んだ状態」がしょっちゅうあったら、悲しすぎるから。
記憶というよりか、意識は、つねにあった方がいい。というか、ちゃんとコントロールしたい。
って、そんなわたしのことより、アメリアは無事だった。
「イヤだわ。彼は、ネックレスをかけてくれただけよ」
アメリアは、恥ずかしそうに笑った。
ホプキンソン大公は、アメリアのことが大好きらしい。というよりか、愛しているという。立場上、周囲にはずっとそのことをごまかしていたらしいけれど。
それももうガマンの限界にきているという。
ホプキンソン大公は、夫人を亡くしてからずいぶんと経っている。アメリアと再婚したとしても、社会的には何の問題はない。
そのアメリアというと、自分の立場もあってか消極的だ。とはいえ、大公のことを憎んでいるとか嫌っているとかではないだろう。むしろ、好意をよせているといってもいいかもしれない。
大公がもっとしっかりしていれば、勇気があれば、アメリアとブランドン母子を迎えられたかもしれない。
が、大公家の長として、あらゆる意味で自分の意思や欲望や願いを優先させるわけにはいかないのだろう。
やはり、ご貴族様って面倒くさい。