第60話ちいさな神
「リ、リオ、逃げろ」
彼は、わたしにおおいかぶさってつぶやいた。
声も出ないほどの傷を負っているのかもしれない。
彼越しに、マントたちが襲ってくるのが見える。
どいつも刃物など持っていない。
「リ、リオ、おまえだけでも……」
「カイル」
さすがに観念した。
負けず嫌いで諦めが悪くて、しつこくてしぶといわたしでさえ、いまこの状況はダメだと判断した。
それならば、大嫌いなカイルとこのまま心中だ。
苦しみがない方がいい。それから、死後はカイルとは別々の場所に行きたい。
そんなことを願うのは、虫のいい話だろうか。
連中が肉薄してくるのが、やけにゆっくりに見える。そして、永遠の時間のように感じる。
あいかわらず、瞼を閉じるようなことはない。
死ぬ瞬間まで、すべてを見ておきたいからだ。
「……!」
「……!」
が、死ななかった。というか、あいつらはカイルとわたしを手にかけることができなかった。
ふたりはふっ飛び、もうふたりはルーの手に握られているから。
まったく見えなかったけれど、ふっ飛んだふたりはリオンが手を閃かせただけでふっ飛んだらしい。そして、残りのふたりは、ルーが首をつかんだのだ。
ルーは、おとな二人の首をつかんでブラブラさせている。
「邪神の使徒だっけ? ずいぶんと遊んでくれたよね。だけど、こいつを怒らせたのはマズかったかな?」
リオンは、形のいい顎でルーを示した。
「リオン、ぼくはまだ大丈夫だよ。まだキレてないから。おじさん、お願いだからぼくをキレさせないで。キレたら、おじさんたちだけでなく、邪神も含めたこの世界のあらゆる神を血祭りにあげちゃうから」
いまのルーは、いつもの可愛らしいキュンキュンきまくる彼とは違う。
黒マントどもより、よほど不気味で異常な存在だ。
いまだにわたしに覆いかぶさっているカイルもまた、それを感じている。彼の体がブルブルと震えているから。
いいや。わたしが震えているのかもしれない。
カイルをどかせた刹那だ。
ルーのちいさな背中が消えた。
「ぼくがキレる前にさっさと消え失せろ」
ちいさなかれが、黒マントたちのリーダーみたいなやつの肩上に立っていた。
その彼の姿こそが、違う世界の全知全能の神のような錯覚を覚えた。




