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第58話ログハウス

 離れというのは、さほどおおきくはないけれど本格的なログハウスだった。


「父の趣味なの」


 クララが言った。


 なんと、クララの父親であるホプキンソン大公がひとりで建てたらしい。ここだけではなく、いくつかある別荘にも、本館とは別にちいさいながらも建てたらしいから驚きだ。


 ホプキンソン大公自慢のログハウスには、おおきな窓がある。内部が丸見えで、そこでは大公とアメリアが会話を、というよりか口論しているのがはっきりと見える。


「連中、隠れているんじゃない? こんなに堂々と行って大丈夫なの?」


 隣を走るリオンに小声で尋ねた。


 わたしたちは、一団となって走っている。しかも、堂々とだれはばかることなく。いまさらだけど、遠まわりとかこっそりとかして、ログハウスに近づいた方がよかったのではなかろうか?


「かまわないよ。だって、連中は、これを望んでいるんだから。ここに誘き出して、全員を屠る方が効率的だし、騒ぎにならずにすむ」

「それはそうだけど……」


 残念ながら、わたしには工作員たちの気配は感じられない。わたし自身、自分ではそういう系の感覚は鈍い方だとは思ってはいない。むしろ、鋭い方だと自負している。


 が、ロード帝国の工作員にたいしては、わたしの感覚はないに等しい。というか、ほとんど働かないようだ。


 そうこうしているうちに、ログハウスに接近していた。


 大公とアメリアも気がつくほどの距離まで迫っている。


「遅かったね」


 木上からルーの声が落ちてきた。


 彼もまた、先程のリオン同様枝上に座って足をブラブラさせている。


 その瞬間、東屋のときのような甲高い音が耳に飛び込んできた。例の人を操る笛の音に違いない。


「母上っ!」

「お父様っ!」


 ブランドンとクララが同時に叫んだ。


 目の前の窓ガラスの向こう側で、ホプキンソン大公がアメリアの首を絞め始めたではないか。


 そのときには、建物に向って走り出していた。ブランドンの気配をすぐうしろに感じながら。


「リオ、クソッ! ちんちくりんだけあって、すばしっこいやつめっ。待てっ、罠だ」


 背にカイルの制止の声があたったけれど、待つわけはない。


 窓から入るなんてレディじゃない。ましてや窓ガラスをぶち破るなんて、おとなじゃない。


 だけど、いまやわたしはレディを捨てているし、精神的には永遠に子どもだ。


 躊躇なんて言葉、このときはすっかり飛んでいた。


 ドレスなんてなんのその。おもいっきり跳躍し、腕で頭だけ守って全力で窓ガラスにぶちあたった。


 ガラスの破れた衝撃音は、静かな庭にさぞかし響き渡ったことだろう。


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