第57話犬笛と信頼
ダリルは、もともとタフなだけあってかろうじて動けるようだ。
リオンが工作員たちを片付けたすぐ後、カイルの他の部下たちもやって来た。
「解っ」
リオンがクララの顔前で指を鳴らすと、彼女はハッとした表情で周囲を見まわした。
「わたし……」
「クララ様、無事でよかったです」
心からの気持ちを伝えていた。
依頼料を心配してのことではけっしてない。
彼女とわたしの関係は、彼女がわたしに言った「親友」というほどではない。あくまでも依頼人と請負人という関係にすぎない。とはいえ、縁あって知り合った仲の彼女の身になにかあれば、目覚めが悪すぎる。
これまで生きてきた中で、どんな形であれさまざまな人と出会い別れてきた。そのさまざまな人の中でも、クララは唯一わたしのことを対等に扱ってくれている。身分や生い立ちや外見や性格など関係なく、フツーに接してくれている。そんな彼女とは、いままでも、そしてこれからも知り合いでありたい。そう思っている。いや。そう願っている。
「暗示にかけられた上、笛の周波数で操っていたわけ。チートスキルってわけじゃないけど、個人的にはイヤだね、こういうの」
リオンの説明に、カイルでさえただ頷くしかないようだ。
もちろん、わたしも頷くしかなかったけど。
「それよりも、はやく行こう。アメリア様は、あっちの離れにいる。この連中の親玉は、あっちにいるよ」
リオンは、サラッと言ってのけた。
レッドが警備兵を呼んでくれたので、地面に転がっている工作員たちを任せた。
工作員たちは、死んではいなかった。
リオンは、わたしに気兼ねしたのだろう。
哀れな工作員たちの命運は、このあとの彼らのボスとの戦いで決まるかもしれない。
そして、クララやサディアスたちに屋敷へ戻るようお願いしたが、一緒に来たがった。
言い争いや説得をしている時間がもったいない。
こちらには、リオンとルーがいる。
ふたりを信じている。
離れに向かうため、いっせいに走りだした。