第56話おつぎは、ダークヒーローあらわる
「クソッ! こいつら、マジヤバいぞ」
が、希望はすぐに打ち砕かれた。
やはり、工作員たちは凄腕中の凄腕だった。
カイルでさえ、苦戦している。
「ちょっと、あなたこそ口ほどにもないわね」
「バカ言うな。まだ全力じゃないからだ。おまえこそ、逃げる算段をしろ」
カイルが嘘をついているのはわかっている。強がりではない。希望を持たせようとしているのだ。
おそらく、だけど。
その間にも甲高い音がときおりしており、クララはサディアスとジャック相手にナイフを振りまわしている。ナイフの使い方を知らない彼女は、ただそうするしかないからだ。
ダリルは地に倒れて動かないし、カイルも限界だろう。わたしも限界。かろうじて、ブランドンの側まで近づけた。文字通り、地面を這うようにして。
「姉さん、もう大丈夫だよ」
そのとき、ほんものの救世主、というかダークヒーローが現れた。
そのダークヒーローは、すぐ側の大木の枝上で足をブラブラさせながらわたしたちを見下ろしている。
工作員たちの攻撃が止まった。
「彼女ももう大丈夫だよ」
リオンは、そう言うなり何かをこちらに放り投げた。
うまくキャッチすることができなかったその何かは、地面に落下するとすぐ目の前に転がってきた。
「笛?」
口中でつぶやいた。
何の変哲もない銀色の笛なのだ。
「なるほどな」
カイルが荒い息をつきながらつぶやいた。右手で左腕をおさえている。
その様子を見ながら、わたしもやっとわかった。
あの甲高い音は、やはり笛だったのだ。昔、獣使いがいて、獣を使役する際に使用していたらしい。
工作員たちは、その笛を使ってクララを操っていたのだ。
「姉さん。こいつら、てっとりばやく殺してもいい? こっちを片付けたら、ルーのところに行かなきゃ、だから」
リオンは、そう尋ねてきた。
いまの彼は、木登り上手なやんちゃ坊主にしか見えない。
そのやんちゃ坊主の問いに逡巡した。
答えはでている。というか、選択肢はない。
カイルの組織同様、工作員たちの掟も厳しいはず。それどころか、さらに残酷で過酷かもしれない。
しかし、返事ができなかった。いまさらだけど、答える勇気がなかったのだ。
「ごめん。こういうことは、姉さんに尋ねるべきじゃなかったね。でっ、あなたたちに退散か降伏を勧めても、素直に従ってはくれないよね? せめてあっという間に逝かせてあげるよ」
その瞬間、リオンの姿が枝上から消えた。
彼が地上に姿を現したとき、すべての工作員が地面に転がっていた。