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第54話勇気

「ブランドン様、クララ様」


 東屋の手すりを片手をついて飛び越え、彼らの前に立った。


「リオ」


 ブランドンに呼ばれるも、応じる余裕などあるわけはない。


 クララは恐怖と不安とでフリーズしてしまっているのか、気味が悪いほどおとなしい。


 いや。彼女のことは言えない。


 わたしもだ。かろうじて愛用のナイフを握ってはいるものの、恐怖と不安とで立っているのもやっとだ。これが依頼ではなく、個人的なトラブルならとっとと逃げだしたところだ。というか、そもそも近づきさえしない。


 東屋は広く、ここで暴れたってどうということはなさそうだ。年代物らしいテーブルや椅子は、残念なことになるだろうけど。


 工作員は七名。五名が男でレディは二名。そもそも、これだけの人数が大公家に入りこめたことじたい驚かざるをえない。


 なぜなら、ケータリングや人材派遣業や警備員などの業者もまた、マフィアが仕切っているからだ。


 もしかしたら、サディアスとは違う別のマフィアの業者経由で入り込んだのかもしれない。


 もっとも、いまここでそんなことはどうでもいいのだけれど。 


(くそっ! 動けないわ)


 心の中でつぶやいた。


 レディなんてとっくの昔に捨てたから、「くそっ」は許される。ということにしておく。


 とにかく、動けない。それは、工作員たちの向こう側にいるダリルも同じこと。


 彼もわたしもわかっている。


 目の前にいるすべての連中が、カイル級の腕前であることを。カイル七人を相手に、格下のわたしたちふたりは、とうていかなわないことを。


 連中の余裕のある表情がムカつく。彼らもまた、ダリルとわたしが格下だとわかっているのだ。


 それでもやるしかない。


 守るべき人たちを守る。それがわたしの仕事だから。


「きみたちの狙いはなんだ? 彼女は関係ないだろう? レディたちは、ここから逃がして欲しい」


 ブランドンは、工作員たちの殺気や害意に気がついていないらしい。あるいは、気がついているけど全力の勇気をふりしぼったのかもしれない。


 が、当然工作員たちは答えない。ブランドンの全力の訴えを嘲笑うでもなく、不敵な笑みを浮かべるでもない。


 これがカイルなら、ぜったいに嘲笑った。彼はそういうことが大嫌いだから。というか、自分より弱い者をバカにするのが大好きだから。


 とにかく、いま目の前にいる彼らは、無表情のままわたしたちを見ているだけだ。


 とはいえ、いつ襲いかかられるかわからない。不安と緊張で、いまにも卒倒しそうだ。


 プロだったわたしでさえこうなのだ。ブランドン、さらにはクララは、生きた心地がしないだろう。


 その瞬間、笛のような音が耳に飛び込んできた。そのちいさく甲高い音は、聴覚が人一倍いいわたしの耳に痛いほどだ。同時に、うなじのあたりが急激にザワザワした。


 こんなザワザワ感は、いまだかつてなかった。


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