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第53話三角関係

「リオ」

「リオ」

「リオ」


 後頭部にサディアスとジャックとダリルの声があたった。


 三人も気がついたのだ。アメリアとブランドンがいなくなったことを。


「リオ、ふたりは東屋にいるのかもしれない。そのまままっすぐだ」

「了解」


 わたしがレディで、彼らが男性という性別の違いだけではない。長身の彼らとちんちくりんのわたしとでは、足の長さが違いすぎる。走るのが得意で、実際そこらの男性には負けないわたしだけど、このときはすぐに追いつかれてしまった。


 ムダに広い庭を四人並んで全力疾走する光景は、他人の目から見たらさぞかしシュールに映るだろう。


「あれだ。って、だれだ、あれ?」


 サディアスとジャックが急停止したときには、ダリルとわたしはそれぞれ左右の茂みに飛び込んでいた。


 ご丁寧にライトアップされた東屋で、いままさにブランドンとクララが襲われようとしている。


 黒装束などという「いかにも」な恰好をした連中ではない。ほとんどがタキシード姿だ。ドレスを着用したレディまでいる。


 すぐにわかった。


 あれこそが、最恐最強と謳われ、怖れられるロード帝国の工作員たちなのだ。


 茂み越しに東屋の様子を見ながらじょじょに間を詰めていく。道をはさんだ茂みの向こう側では、ダリルが同じように東屋に近づいているだろう。


 サディアスとジャックは、わたしたちが茂みの向こうに消えたことを知らない。気がつかないまま、速度を落とし、慎重に近づいていく。


 そのふたりの手には、ナイフが握られている。


 あらためて東屋を見た。


 ブランドンは、クララをかばいつつ迫る襲撃者たちにありきたりな台詞を投げつけている。


(ブランドンとクララは、東屋でいい感じだったのね)


 その光景を脳内に思い浮かべるには、わたしはロマンチストでもなければ夢見る少女でもない。しかし、ふたりがロマンチックなことをしてたことだけはたしかなこと。


 胸がチクリと痛んだ。それは不安や緊張によるものだと、自分に言い聞かせる。


 その痛みを追い払うかのように、頭をブンブンと振った。それこそ、めまいがしそうなほど。当然、いまこのときにめまいがするほど頭は振りまくらないけれど。


 それから、集中し直した。


 ジリジリと迫る工作員たち。彼らは、あっという間にブランドンを八つ裂きにするはず。


 サディアスが怒鳴った。


 マフィアのボスらしく、凄みのある啖呵をきったのだ。


 彼もまた、ブランドン同様クララを愛している。幼い頃からいっしょにいる彼女たちの間には、友情よりも愛情があったのだ。書物の筋書きと同じである。それでもって三角関係のドラマが成立するのだ。


 その結末がどうあれ、彼女たちはずっとおたがいに愛情と信頼を感じつつ、すごしてきたその時間は、貴重な物だったのに違いない。いままでも。そして、これからも。


 そんなことを考えている間にも、胸の痛みはひどくなっていく。


「クララお嬢様っ!」


 そのとき、屋敷の方からレッドが走って来た。


 彼もまた、クララがいなくなったことに気がついたのだ。


 工作員たちの気がそれた。瞬きの間位だけれど。が、それで充分。


 茂みから躍り出た。つまりジャンプし、東屋に飛び込んだ。ダリルは、わたしに合わせてくれたらしい。彼もまた茂みの向こうから躍り出た。


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