第49話リオとカイルとサディアス
(カイルは、この機に乗じる可能性は充分あり得るわね。いくら彼が他者の介入を嫌う。だけど、今回の場合はロード帝国の工作員たちとの実力の差は否めない。もしかしたら、カイルは工作員たちとコンタクトをとったかもしれないし、うまく利用するつもりなのかもしれない)
たとえば、工作員たちにアメリアとブランドンを殺させる。依頼料は減額されるかもしれないが、目的は果たせる。しかも、自分は高みの見物としゃれこめる。
ロード帝国の工作員たちと小競り合いをするくらいなら、その方が得策だろう。そもそも、両者の到着点は同じ。おたがいに道を妨害する必要はないし、足のひっかけあいをする必要もないのだから。
「ふん。おれの忠実な家臣たちの多くが、おまえの凶暴な弟たちに再起不能にされた。あるいは、殺られた。聞いているんだろう?」
「ああ、そうだったわね。だけど、殺したのはあなた自身でしょう、カイル?」
反論せずにはいられない。
「おいおい、ふたりとも。仲間割れをしている場合か?」
ダリルが呆れたように言った。
「仲間じゃない」
「仲間じゃないわ」
カイルと同時に否定した。
周囲の人は、三人でなにをやっているんだろうと不可思議に思うだろう。
「こんなやつ、いまはもう仲間じゃない」
「こんなやつ、いまはもう仲間じゃないわ」
カイルとまたまたかぶってしまった。
「どっちでもいいさ。それでヤバい連中が減るわけじゃないんだから」
ダリルの言う通りだ。
「確認しておきたいんだけど、話し合った通りでいいのよね?」
リオンとルーからロード帝国の工作員たちの存在を聞いてから、カイルと話し合ったのだ。もっとも、彼がいまでもそのつもりなのかどうかはわからないけど。それどころか、話し合った時点でそのつもりじゃなかったのかもしれないけど。
「おまえは、ほんとうにくどいやつだな。わかっているって言ってるだろう? あんまりくどく言われたら、かえって約束を違えたくなる。それが、人間ってもんだ」
「あなたが可愛げがないだけよ、カイル?」
「だから、ふたりともやめろって」
ダリルは大変だ。いまも困っている。
「やぁ、リオ」
そのとき、マフィアのボスであるサディアスが、片腕のジャックを連れてやって来た。
彼の正装は、バリバリのダークスーツだ。いかにも悪っぽく見える。
とはいえ、彼のルビー色の瞳や美貌とよくマッチしている。そして、ジャックも知的な美貌にタキシードとバッチリきまっている。
そのふたりの様子は、レディたちの熱い視線を受け、男性たちには畏怖の念を抱かせている。
「なんてこった。リオ、ひどくきれいじゃないか?」
サディアスはわたしたを上から下までジロジロ見、それからビミョーな褒め方をしてくれた。
わたしの左右でカイルとダリルがプッとふいたのを感じた。
「ありがとう、サディアス。あなたもひどくカッコいいわよ」
「だろう? 書物や童話や芝居では、たいていワルの親玉っていうのはカッコ悪いのが多いがね。おれは、例外ってやつだ」
嫌味を返したつもりだったけれど、サディアスは謎の持論をぶってきた。
創作の世界の悪のボスのすべてが、グチャグチャってわけじゃないことはいうまでもない。
「そうかもね」
だけど、面倒くさいからそれだけ答えておいた。
「くそっ! おまえら、まだこの国にいるのか? っていうか、クララの誕生日パーティーだってのに、血なまぐさいにおいを撒き散らすなよ」
サディアスは、人がかわったように噛みつき始めた。
もちろん、カイルにたいして。そして、かぎりなくちいさな声で。
マフィアのボスも、場の雰囲気は大切にするらしい。
「なんだと、小悪党? このまえは、クララとリオの手前見逃してやったが、調子にのるようならそのスケベな面をぶん殴るぞ。いや、いっそ首から斬り落としてやろうか?」
カイルは、口の中ではなくはっきりそう言った。もちろん、彼もまたかぎりなくちいさな声だ。
「ちょっと、ふたりともやめてよ。祝いの席よ。ご貴族様のパーティーよ。サディアス。血なまぐさいのは、彼らのせいじゃないの。その、ななんていうのかしら? また別口みたいなの」
「なんだって?」
「なんてことだ」
説明すると、サディアスとジャックは驚いた。
まっ、驚くのは当然よね?