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第47話カイル、シュンとする

 クララの誕生日パーティー当日、装いは先日ほど気合いをいれたわけではない。とはいえ、クララは大公女。正装はもちろんのこと、見てくれもマナーも完璧にしなければならない。


 アメリアが若い時分に購入したというドレスは、デザインはもとより、ずっと保管していたというような感じがしない。それどころか、まるでつい最近購入したばかりのように見えた。


『フォーマルなドレスは、昔もいまもそうたいしてかわらないものね。たしかに、いまのドレスの中には、胸元がバーンって感じだったり、奇抜すぎる色合いのものがあるけれど。いずれにせよ、そんなドレスはわたしには無縁だわ。すくなくとも、王族のレディは着用することは好ましくない。だから、オーソドックスなデザインや色合いになるのよね』


 アメリアは、そう言って笑った。


 たしかにそうなのだろう。


 身支度をアメリアに手伝ってもらい、ホプキンソン大公家へと出発した。


 今日は、大公家からホプキンソン大公家の紋章が入った立派な馬車が迎えに来てくれた。



「その青色のドレス、よく似合っているよ」

「ブランドン様。毎回、気を遣っていただいてありがとうございます。ですが、レディへの褒め言葉はクララ様にとっておいてくださいな」

「クララが美しいのはわかっているからね。いつも挨拶的に讃辞をおくるけれど、彼女も挨拶的に受け取るだけだ。おれが言うと、かえって嫌味に受け止められてしまうんだ」

「そんなものでしょうか」


 いまのブランドンの言い方だと、わたしはやはりお世辞を言われたようだ。


 クララとわたしとでは、同性という共通点しかない。同種族とは思えないほど、彼女とは差がある。これは、自分自身を卑下しているわけではない。ほんとうなのだ。


 クララは、内面も外見も美しい。


 心からそう思える。わたしには、とうていかなわない、とも。


 そんな自分が情けないとは思わない。仕方がないから。人には得意不得意がある。外見だっていろいろある。わたしは、得意なことをすればいいだけのこと。外見に関しては、これはもう仕方がないと諦めている。ちんちくりんだって、小回りが利く。そこを活用すれば問題ない。


 そのはずだ。


 そんなことを考えつつ、馬車内を見まわした。


 さすがは大公家の馬車だけあり、二頭立てでかなりおおきい。こうして対面シートでふたりずつ座っても、十分余裕がある。膝頭がくっつかず、肩が触れないだけ街馬車よりかはずっといい。


 ちなみに、リオンとルーとダリルや他のカイルの部下たちは、歩いていくらしい。まぁ、走るかもしれないけれど。


「ドレスがよすぎてよかったな、ちんちくりん?」


 隣のカイルが、クスクス笑いながらささやいてきた。とはいえ、アメリアとブランドンにもまる聞こえだけど。


「な、なによ、じゃなかった。なんなんですか、いったい?」


 いつものようにタメで言いかけ、慌てて言い直した。


 カイルは、もとのご主人様だという設定にしているのだ。


「だってそうだろう? どれを着てもちんちくりんは、しょせんちんちくりん。どれだけ飾っても、たかだかしれているというわけだ」


 カイルのわたしにたいする悪口雑言や誹謗中傷には慣れている。気分がいいときや調子がいいときには相手をするけれど、いまはそうじゃない。これから出席するパーティーのことで緊張しまくっているし、不安だらけだからだ。というわけで、いまは彼をムシすることにした。


 が……。


「そんなことはない」


 突如、ブランドンが怒鳴った。しかも、立ち上がるというアクションまで添えて。その急激かつ力強い動きに、馬車がガタンと揺れたほどだ。


「彼女は、ほんとうにきれいだ。ちんちくりん? 小柄で痩せっぽちのレディは、可愛いじゃないか? 背が高くって胸や尻ばかりおおきなレディより、よほど可愛らしい」


 ブランドンは両の拳を握りしめ、それをブンブンと音がするほど振りまわしつつ持論をぶった。


(小柄で痩せっぽち?)


 たしかに、ブランドンの言う通りである。その通りなのだけれど、異性にそう断言されると地味にショックかもしれない。


「ブランドン。とにかく、座ったらどうだ?」

「そうよ、ブランドン。座りなさい。それに、いまの言い方は、あまりいただけなかったわ。あなたにしては、がんばって褒めているつもりだったんでしょうけれど。悪意がないだけ、余計に性質が悪いわ」


 カイルとアメリアが冷静なのが笑える。


「カイル。あなたも言葉がすぎるわ。いくらもと自分専属の侍女だったからといって、いまは違うのだから。あなた自身がクララに言ったように、リオはいまこのモート王国にいるのよ。あなたの国の民でもなければ、侍女でもない。友人、でしょう? おたがいに敬意を払えないかしら?」


 アメリアは、真向かいに座すカイルに説教した。


 心の中で「ざまぁ」と快哉を叫ばずにはいられない。


 とはいえ、カイルの性格なら、そんな説教に聞く耳は持たないだろう。それどころか、逆ギレするかもしれない。


 カイルにたいして「ざまぁ」とほくそ笑むと同時に、彼の反応にハラハラどきどきしてしまった。


「すみません」

「ええええっ!」


 シュンとなって謝罪したカイル。おもわず、叫ばずにはいられなかった。


「なんだよ?」


 すぐに睨まれた。もちろん、カイルにだ。


「カイル。謝罪は、リオにしなくちゃ」


 アメリアのさらなる指摘に、カイルは「すまない」とつぶやくように言った。


 わたしとは反対の窓の方に向って。


 その意外すぎる態度に驚いている間に、馬車はホプキンソン大公家のおおきな門をくぐっていた。

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